和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

『日々訥々』の息子と母と。

2023-04-04 | 詩歌
清水千鶴歌集「日々訥々」をつづけます。
あとがきに、こんな箇所がありました。

「 息(注:息子)が最近つくづく申します。
  私と話していると人生は長いとあらためて感じるのだと、

  自分はあと30年生きたとしても私の年に追いつけないと。
  しかもあと30年も生きる自信はないと、
  つまらぬことを言って笑います。

  ・・・・どうのこうのは私にはわかりません。
  ただ、授かり、守られ生かされてきたことは確かでございます。

 『 あんたもそうなんやで 』と息に申しますと、
  からからからと笑いました。

  もう30年、息が生き今日の私の年になったならば・・・・
  ・・・今日の私と同じことを話すと思います。

    時とはそういう力を持っているのでございます。   」


息子さんが、この歌集を編んで選んだ際の会話のように思えます。

それならば、千鶴さんのご両親は、歌集のなかで、
どのように歌われていたかを引用してみたいと思いました。

 『健康を祈ります』とう亡き母の色褪せしはがき本より落ちぬ  p144

 未熟児の私に千鶴と命名し長生き祈りし父なりと聞く      p145

 咳止めに金柑糖を煮てくれし亡母と真夏の風に寝ており     p163

 大根を桶になじませ積みてゆく亡母の手順をなぞりながらに   p164

 亡母の友をホームに訪えば歩いては鳴く縫いぐるみの犬と遊べり p169

 年老いて久びさ参る父母の墓黄の蝶きており我を待つごと    p172

 蝉時雨母の墓石に滲みとほる真昼我が影いとも短し       p189

 亡き母と墓参りに来し日この店にかき氷食みて喉うるおしぬ   p214

 リヤカーの豆腐屋路地に入り来ると亡母は呼びにき厨の窓に   p220

 若き父と年老いた母の眠る墓久々に訪えば小鳥さえずる     p239

 車いすに夫の遺影を座らせて独り語りの友の迎え火       p243

 孤独死の友の初盆送り火の舟消ゆるまで橋に佇む        p245

『さみしいね』言葉こぼさず隠居所に骨抱く姉と我は真向かう   p258

 灯ともせば窓に小さき蝶のおりそうっと見守る喪の家の厨    p259

 認知症の友も私も癒されぬ路地の木犀静かに語る        p267

 身寄りなき友の遺骨を納めたる塚の辺彼岸花ひたぶる赤し    p269

『家族だけで見送ります』参列の人影もなく白日の門辺に野菊咲けりp274

 生姜湯の湯呑みの温かし亡き母が病床で愛用したる思い出と飲む p281

 栗むかむナイフの先に灯の光り『危ないよ』という亡母の声す  p320

 われのみのエレベーター内お見舞の冬の苺が切なく匂ふ     p347

 長病みの友は目を閉じしまま故郷の川の猫柳を言ふ       p352

 病む姉の一坪の庭紅の牡丹花咲きて風集めをり         p361


 老いゆく思案の日々ゆるがせて生命保険のCMばらまくテレビを消しぬp85
 
 櫓の音と小鳥の声に行く水郷八方ふさがりの心を解きて     p127



コメント (2)
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