和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

「安房郡の関東大震災」余話⑧

2024-07-23 | 安房
保田町の鋸山。

「 保田町に於ては鋸山の崩壊は・・・
  関東随一の眺望と景勝と五百羅漢の奇とを誇る日本寺の被害は、
  何ものを以ってしても賠(つぐな)ふことの出来ないものであった。
  五百羅漢の大部分は、倒潰して殆ど原形を留めざるまでに
  破壊されて了った。境内の風致もそれが為めに痛く損はれた。 」
                    ( p197 「安房震災誌」 )  

関東大震災に際して、鋸山の鉄道用トンネルが陸路県北とつながる道と
なってつながっておりました。
このトンネルに関しては、3人の回想がありましたので、並べておきます。

前田宣明氏は、「保田震災記」の注に、こう記しております。

「 汽車の隧道(ずいどう)・・
  鋸山を南北に貫通する鉄道用のトンネルの事。
  全長は約1200メートル。・・・・  」(p86)

震災当日の安房郡役所にて、重田嘉一は、千葉県庁への急使をかってでます。
住いは保田町大帷子で、大正12年7月まで保田町役場書記勤務をしており、 
安房郡役所に来たばかりの時でした。その人に急使の手記がありました。
そこから、鋸山のトンネルを抜ける箇所を引用しておきます。

「・・保田町役場でロウソクの補給をなし・・鋸山へ差しかかるのであった。
  保田駅構内には鋸山を超す能はず余儀なく野宿と決めた10数人の者が
  居たが、私が千葉に行くことを聞いて扈従し来り、総勢19名となった。

  鋸山山中の地形は自分として知り盡してゐるが
  他の10数名の悉くは其の地理を知らぬ。
  若し過てあの断崖より一人の墜落者を出しても支障を来す、
  さりとて道路墜落崩壊せる明鐘岬の磯伝ひは猶更危険が多い
  而も海嘯の恐れあるを以て聊か思案に暮れた。

  其の時線路伝ひに鋸山隧道を今来た者があると聞いたので、
  よし、岩山をくり貫いた隧道だ崩壊する気遣はない。・・・
  ・・隧道口に差掛ると皆強き不安にかられた様子であったが、
  62鎖の長い隧道だ。急いでも駄目だ、死なば諸共だと、
  真暗な路線を提灯一つ便りに進むこととなった。

  併し、思ったより被害も少なく僅かに40立方尺のコンクリートが
  三ヶ所計り崩壊して居たのは何より幸福であった。・・・・・  」
       ( p248~249 「大正大震災の回顧と其の復興」上巻 )

次には、「保田震災誌」から引用

「比較的遠方から情報を齎(もたら)した最初の人は恐らく
 昨夜半(一日夜)上総の青堀から戻って来た人でした。
 この人は1日の午前11時にこの町を発して帰京の途についた 
 とのことでしたが、汽車が青堀へ着くと地震に出逢って
 列車の窓からとび出したそうです。

 もう先へはゆかなくなったので、ここ(保田町)に残した
 女連れのことが気づかわれ、すぐに歩いて帰り・・・

 途中もかなり被害が多く海岸に沿うた崖が崩れて
 道路を埋没してしまったため、路もない山をこえたり
 迂回したりして・・来たと云うことです。・・・・

 最後に鋸山へ着いたときは疲れてもいるし、
 時刻は遅くなっているし、それに海岸の県道は
 巨岩の崩壊でとても通れぬと云われ、これで
 汽車の隧道が通り抜けられなかったらどうしようかと
 心配したそうですが、一心に隧道を入ると、
 入口付近や内部に諸処崩れた処があったり、
 真中で二度ばかり強い余震に遭って提灯を消してしまったときは、
 全く観念して突っ立っていたと話されました。
 25分かかって漸く隧道を出るまでは生きた心もなかったと・・・ 」
      ( p62~63 「石原純が残した記録 保田震災記」 )


最後には、「館山市史」(昭和46年)に掲載されていた
嶋田石蔵議員の回想から

「私は大震災の時は千葉師範の生徒であった。
 9月1日大地震になったので、すぐ様帰郷を許されて、
 仲間数人と路線づたいに房州へ向かった。・・・・・・

 ・・・上総と房州の境の鋸山トンネルを通り抜ける時は、
 胆を冷やした。入口で売っている、ろうそくをともして
 長い長いトンネルを歩いていくと、中程に大きな石塊が 
 ごろごろしていて、気味が悪かった。どうやら
 30分位かかって通り抜けることができた。    」
                    ( p573 )       

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