和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

「幼(おさな)ものがたり」

2018-08-17 | 本棚並べ
石井桃子の講演を読んだら、
石井桃子の謦咳に接したようで、
石井桃子を知りたくなりました。

ということで、
あかね書房の「伝記を読もうシリーズ」の
竹内美紀著「石井桃子」を注文する。
それが昨日届く。

うん。表紙の写真がいいのですよ。
もう、本文を読まなくてもいいや、
と思うぐらいです。
何だか、石井桃子という題の絵本をひらくようです。
初版が2018年4月。私が買ったのは8月の第2刷。

ところどころ、本文に散りばめられた写真がね、
まるで、絵本の細密挿画を見てるような楽しみ。
牛の乳を搾る石井桃子。
留学中の桃子。カーネギー図書館の桃子。
もちろん、かつら文庫での桃子。
後ろには、資料としての写真として、
草を運ぶ桃子たち。桃子と羊。
猫のキヌ。猫のトム。現在のかつら文庫。

はい。本を読まない私は、これだけで満足(笑)。
そうもいかないか。
この本の第一章のはじまりのページに、
こんな箇所がありました。

「桃子はそのばつぐんの記憶力をはっきして、
のちの自伝的作品『幼(おさな)ものがたり』を書いています。
桃子がこの本を書いたのが、七十歳をこえてからというのが
信じられないくらい、六十年以上前の記憶が生き生きとしているのです。」
(p7)

そういえば、
「石井桃子集4」(岩波書店)の
解説を清水真砂子さんが書いておりました。
そのはじまりのページも引用したくなります。

「『石井桃子の最高傑作は何かと問われれば、
私は迷わず、【幼ものがたり】と答える。・・
近代以降の日本で子どもについて書かれた文学作品の
最高位に位置する一冊である。』

かつて私は石井桃子論を右のように書き始めたことがある
(「子どもの本の現在」1984年)。・・・
私は今もなお、この文章に書きかえの必要を覚えていない。
『幼ものがたり』は中勘助の『銀の匙』に比してもけっして
劣らぬ魅力をもって、長く読みつがれていくにちがいない。」
(p261)


うん。清水真砂子さんの次のページも引用させてください。

「今、あらためて『幼ものがたり』を読めば、
すでに幾度か読み返してきているにもかかわらず、
そこに記された石井の、本人は『きれぎれの記憶』と呼び、
『真偽の保証もできない』という記憶に、初めて読んだ時と
まるで変わらない力で私自身の記憶がよびさまされ、すると、
たちまち私の心は目の前の本を離れて、自身の遠い記憶の中を
さまよいだすのがわかる。『銀の匙』の場合、
そこに記された記憶のおおかたは興味深くこそあれ、
あくまでも中勘助のもので、こちらの記憶がかきたてられる
ところまではいかないのだが、『幼ものがたり』は読みだすや、
誰の回想記かなどはどうでもよくなって、気がつくと、
いつも間にか自分の幼年の日々にひき戻されている。
 ・・・・・
私は、はじめ、自分にこういうことが起きるのは、
私が幼年期を送ったのが1940年代で、父母きょうだいに囲まれ
てくらしていた田舎には『幼ものがたり』に描かれている時代の
名残りがまだ多少とも見られたからだと思っていた。だが、
ここ何年か、1970年代後半に生まれた学生たちと
『幼ものがたり』を読んできてわかったのは、こと、
この回想記に関する限り、どの時代に幼年期を送ったかなどは
たいした問題ではないということだった。
1978年、79年生まれの学生たちの反応も、41年生まれの
私のそれとほとんど変わりはなく・・・・
それぞれの幼年時代を熱心に語り始めたからである。」
(p262~263)



もどって(笑)、
「子どもが本をひらくとき 石井桃子講演録」(ブックグローブ社)
の講演録のあとに、伊藤元雄氏が「子どもたちを思う情熱」
と題して書いているなかに、こんな箇所がありました。
それは講演のために、自宅へお迎えに行った際の会話でした。

「これ、持っていった方がいいかしら」
「荷物になるから、必要ないのでは。
それより、講演のメモでも書いたのですか」
「ないわ。筋立てぐらいは・・
ホテルに着いたら、誰も連絡しないで、・・・
夕食は関西うどんが食べたい」。・・
いろんなことを話しかけてきました。(p50)

うん。講演嫌いの石井桃子さんの、
ぶっつけ本番の講演だったようです(笑)。

それから、
竹内美紀著「石井桃子」には、
「子どもたちに本を読む喜びを」と副題がありました。
本の「おわりに」で竹内さんは
こうしめくくっておられます。

「子どもたちが自由に読書を楽しめる、
そのために石井桃子は全生涯をかけました。
その人のことを知った以上、その人生の意味を
語り伝えていかなくてはいけないと思っています。

みなさんも、この本を読んだあと、
石井桃子の生きた時代を思いうかべながら、
桃子の残した作品を手にとってみてください。
おもしろい本がたくさんありますよ。」


『石井桃子』という扉をひらいてくれる、
魅力ある本を手にすることができました。

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