庄野潤三の短編に「丘の明り」がありました。
家庭の子供たちとの話がとりあげられているのですが、
『 こうちょく 』の話しから、死後硬直へと入った際に、
『 縁起でもないことを口にした時は 』という箇所がありました。
ちょいと、すぐに忘れるので引用しておきます。
『 ああ、そう 』
とんでもないことをいひ出したものだ。
そこで私たちは急いで『 つるかめ、つるかめ 』といった。
縁起でもないことを口にした時は、
すぐにかういつておかないといけない。
『 つるかめ、つるかめ 』
『 つるかめ、つるかめ 』
それで、私の質問は途中で立ち消えになつてしまった。
この短編は、最後になっても気になる箇所がありました。
どうしてだか、『 わらべうた 』が出てくるのです。
はい。こちらも引用しておくことに。
これで三人の話はおしまひである。・・・・・
ところで昨夜、お風呂にひとりで40分も入つてゐた下の男の子が、
やつと出て来て、湯上りのタオルを身體に巻きつけたまま、
急に間延びのした聲で、
『 向うお山で ひかるもーのは 』
とうたひ出した。
さういひながら、廊下をこいらへ歩いて来る。
『 つきか ほーしか ほーたるかー 』
おや、妙なうたをうたひ出したな、と私は思つた。
『 何だ、それ 』
『 学校でならつたの 』
そういつて、下の男の子は、
『 つきならばー おがみまうすが
ほたるなんぞぢや あーかんべー 』
と、しまひまでうたつた。
『 唱歌か 』
『 うん。わらべうた 』
下の男の子は、部屋から音楽の教科書を取つて来て、台所で私に見せた。
『 向うお山で 』といふ題で、
譜の上のところに関東地方のわらべうたと書いてある。
『 もう一回、うたつてみてくれ 』
私がそういふと、下の男の子は、
身體にタオルを巻きつけたままの恰好で、うたつった。・・・・
『日本わらべ歌全集』から数県の目次をみてみましたが、
『向う・・・』というわらべ歌はあるにはあるのですが、
どうやら、これは庄野潤三氏の創作わらべ歌のようです。
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