映画とライフデザイン

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映画「千夜、一夜」田中裕子&尾野真千子

2022-10-12 18:41:08 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「千夜、一夜」を映画館で観てきました。


映画「千夜一夜」田中裕子主演の失踪した夫を30年間待つ妻の物語である。若き独身の日から田中裕子の作品には注目していて、今回も早々に映画館に向かう。同じように失踪した夫を待つ看護師の妻尾野真千子、田中裕子に昔から想いを寄せる男にダンカン、その母親を名優白石加代子が演じる。ドキュメンタリー映画出身の久保田直がメガホンをもつ。

心地よく心に響くいい映画である。
話を急がずゆっくりテンポは進む。でも緩慢という訳でない。佐渡の古びた海辺の町と海を映すアングルがよく、塩の匂いが感じられる映像がもつ独特のムードがいい。


平坦に進むと思いきや、途中で軽い起伏を与えて、どうなっていくんだろうと思わせる。佐渡は拉致被害者曽我ひとみさんが連れ去られた場所、2人の失踪にも拉致が絡まると推定される話の展開だ。田中裕子は好演、脇にまわった尾野真千子もいい。怪演でいつもハラハラさせる白石加代子はさすがの貫禄だ。

舞台は佐渡から海を見渡す町、若松登美子(田中裕子)は30年前に失踪した夫が戻ってくるのを待っていた。その登美子に想いを寄せる漁師の春男(ダンカン)が求愛して、周囲からも一緒になることを勧められるが、まだ夫を待っているからと応じない。そんな登美子の前に、2年前に夫が失踪した奈美(尾野真千子)が話を聞きに訪れる。登美子は奈美の夫が行方不明になった痕跡を追いかけるため聞き込みをして協力する。奈美は登美子の執着心をみて自分にはできないと、同僚の求愛を受けようと思っていた。そんな時にハプニングが起きる。


⒈田中裕子(若松登美子)
海辺の海産物工場でイカを捌く仕事をしている。遠洋漁業の船乗りだった夫が27歳の時、帰港したのちに行方不明になる。町で行方不明者のビラを配ったりして30年間懸命に探してきた。地元の同年代の漁師から何度も求愛されても、「まだ結婚している」と拒絶する。周囲がお節介をやいて、本人だけでなく同僚や漁師の母親、町の有力者などから何度も説得されても首をふらない。夫とのやりとりの音が流れる古いカセットテープを繰り返し聴いている。


不審船が漂着して、中に朝鮮人が乗っていた。すると、捕まった男のいる病院にまで、夫を探すチラシを持って無理やり押し入っていく。この男を知らないかと写真を見せる。この辺りの血相を変えた演技の迫力がすごい。


⒉尾野真千子(奈美)
在日3世で今は帰化して病院の看護師だ。理科の教員だった夫が2年前に失踪した。いつも相談している人の紹介で登美子に会いにいく。登美子の執着心に自分にはできないと圧倒される。勤務先の病院に不審船に乗船していた朝鮮人が入院していて、自分の夫が身近なところにいたかと聞く登美子に圧倒されて自分が夫をじっと待つのは無理と思ってしまう。

そんな時にハプニングが起きる。

⒊ハプニングと次の展開の予想
登美子(田中裕子)は奈美から事情を聞くだけでなく、むかし夫と一緒だった同僚にどんな仕事ぶりだったかなどをヒアリングして報告書にまとめた。奈美はそれを見ながら、別の人と暮らす道を選ぼうとした。登美子が用事で本土に向かった時に、街で偶然夫の姿を見かける。報告書にまとめるため、何度も写真を見ていたから初見でもわかったのだ。

ここからどうなるか?思わず身を乗り出す。
登美子は奈美に会わせようと佐渡へ引っ張っていく。謎めいているわけでないが、ストーリーの先行きが気になる。行方不明の人が突然出てきてという設定はたまに観る。でも、今回のような場面の既視感はなかった。そこから先、もう一歩意外な展開に向かう。不思議な情感を感じた。


⒋田中裕子の映画
自分が大学生の頃、田中裕子の人気がピークを迎える。TVドラマ「想い出づくり」で、結婚適齢期の女性3人の彷徨いを自分と同世代の森昌子と古手川祐子と演じていてずっと見ていた。この辺りから田中裕子を追うようになる。「おしん」は時間的に見れないので、記憶にうすい。昭和から平成にかけて数多くの主演作品を演じた。


映画では、松本清張原作「天城越え」高倉健との共演「夜叉」田中裕子が素敵だ。ここでの妖艶な姿には、ジュリーが妻子を置いて家を飛び出しただけの魅力がある。ただ、ジュリーと結婚した後の田中裕子の記憶は薄くなっていく。

ところが、2005年の「いつか読書する日」を観て呆然とし感動した。あの妖艶で魅力的な田中裕子表情のない無機質な女を演じる。この顔つきに驚く。また、長崎が舞台のこの映画では極めて動的にふるまう傑作である。自分的には数多く観た日本映画で10本に入るすごい映画だとおもっている。自分にとっての田中裕子の存在感が変わった。


その後も「共喰い」「ひとよ」で存在感を示して、高倉健の遺作「あなたへ」で夫婦役を演じた。年老いた田中裕子には若き日の妖艶な魅力はない。どこにでもいるような女性だ。でも、妙に追いかけたくなる存在だ。ラストの海岸でのシーンを観ながらこの映画でも不思議なな感慨を覚えた。
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