映画とライフデザイン

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映画「オフィサー・アンド・スパイ」 ロマンポランスキー&ジャン・デュジャルダン

2022-06-04 09:10:46 | 映画(フランス映画 )
映画「オフィサーアンドスパイ」を映画館で観てきました。


映画「オフィサー・アンド・スパイ」「戦場のピアニスト」「ゴーストライターの名匠ロマン・ポランスキー監督の新作である。高校の世界史教科書にも記載があるドレフュス事件を扱っている。19世紀末、ユダヤ系のフランス人将校がスパイ容疑で告発されるという有名な冤罪事件である。戦前にゾラの生涯という名作映画があり、作家のゾラからの冤罪告発が主体となるが、ここでは軍内部で真犯人がいると内部告発した将校の目で描いている。


1894年ユダヤ系のフランス軍ドレフュス大尉(ルイガレル)がドイツ軍に機密情報を流しているスパイ容疑で軍籍を外され、離島に島流しされた。諜報を扱うピカール少佐(ジャン・デュジャルダン)が、自分あてに送られた書類にドレフュスが告発された文書と同じ筆跡を見出す。上司の司令官や大臣に告発するが、一旦裁決されたことと混乱を恐れて取り合ってもらえない話である。

プロの映画人による上質の作品である。さすが!という印象を持つ。
当初は単なる歴史ものに見えるスタートで、淡々と事実を語っていくように見えた。しかし、主人公のピカール少佐が怪しいと感じて冤罪に気づく場面から、グッと引き締まってくる。しかも、すごい演技合戦を見せつける。探究心が告発に変わり上司の大臣や司令官に絡むシーンに迫力がある。

歴史ものは最終結果が分かっている訳だけど、ストーリーの先行きがどうなるんだろうと感じさせるスリリングな要素がある。ロマンポランスキーと名コンビのアレクサンドルデスプラの不安を感じさせる音楽もよく、スリラーのような恐怖も感じさせる。

数多いと思われるいろんな歴史上のエピソードもうまく選択して映画を構成している。フランス原題「J'accuse」ゾラの「私は弾劾する」とはいうものの、思ったよりもゾラやドレフュスの妻の出番が少ないのもこれはこれでいいと思う。


⒈ロマンポランスキー
キネマ旬報ベストテンでも1位になったゴーストライターは傑作だった。元首相の自叙伝のゴーストライターが気がつくと陰謀にハマるというストーリーをどんよりした暗いムードを基調に、スリリングに仕上げる。魅了された。あれから10年以上経つ。日本ではあまり注目されていない2017年のスリラータッチの告発小説、その結末エヴァグリーンの怪演がよく、自分は好きだ。

何よりロマンポランスキー組とも言える映画スタッフが卓越である。武満徹のように不安を呼び起こすアレクサンドルデスプラの音楽が画面の出来事にマッチし、ポランスキーの母国ポーランドのパヴェル・エデルマンの撮影も時代背景あふれる美術を的確に反映するショットで、編集のエルヴェ・ド・リューズも題材の多いこの映画でうまくまとめる。

優秀なスタッフが集まるとこうも違うなと感じさせる。プロの仕事ですばらしい!でも、2019年にフランスで公開されヴェネツィア映画祭で審査員大賞を受賞した作品が3年経って公開されるのはいくらコロナとはいえどうしてなのかな?


⒉ジャン・デュジャルダンとルイガレル
映画を観に行く前は、ロマンポランスキー、ドレフュス事件というワード以外は先入観がなかった。映画が始まってしばらくして、主役のピカール少佐がアカデミー賞映画「アーティスト」のジャン・デュジャルダンだと気づく。久々に見る。「アーティスト」の頃はマリオンコティヤールなどと一緒の恋愛映画が多かったが、ラッキーでアカデミー賞もらってから役に恵まれていない気がする。ここでの掛け合いセリフをはじめとした演技は絶妙だ。


映画見終わってからドレフュス大尉を演じていたのがルイガレルと知り驚く。彼には「ドリーマーズ」などフランス得意の前衛的現代劇のイメージしかない。映画監督フィリップガレルの息子で若い時から役には恵まれている。モニカベルッチが豊満なボディを見せた灼熱の肌マリオンコティヤール共演の「愛を綴る人」などの作品で大女優と共演しているが、力量不足は否めない。でも、チャラ男でなく迫害され続ける役で一皮剥けたのではないか。


主役のピカール少佐は政府高官の妻と不倫をしている。これが単なる歴史ものにしていない一つの要素でもある。その不倫相手を演じるエマニュエルセニエである。映画を観て彼女はすぐわかった。ロマンポランスキーの妻である。年齢の差30あるのもすごいけど、さすがにもういいおばさんで、ジャン・デュジャルダンよりも年上だ。「あんた映画つくるんだったら私も出してよ」と言われるんだろうが、不倫相手はもう少し若くて魅力的でも良かったのでは?若い時にきれいで今は年齢を重ねているが、監督の妻というだけで主役級になる女優にレネ・ルッソもいる。日本にも多い。困ったものだ。


⒊ユダヤ系と不思議なエンディング
ユダヤ系の迫害というと、日本人はナチスのユダヤ人迫害をすぐ思い浮かべる。でも、映画をきっかけに調べると、フランスでも反ユダヤ運動が激しかったようだ。欧州にはユダヤ差別が歴史的に根強いものがあるというのもこの映画でよくわかる。もともと軍人の報酬の20倍も収入あるドレフュス大尉が悪いことをするわけがないというセリフがある。スパイ容疑であったら、今の北朝鮮だったら即刻死刑だし、戦前の日本も同様だと思う。島流しですむのがフランス流なのか?


ネタバレなので言えないが、ラストワンシーンが実に印象的である。日本であった厚生労働省の村木事件も連想させると同時に、ドレフュスに対する率直な感想が作者にあるのを感じる。

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