映画とライフデザイン

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映画「サマー・オブ・ソウル」

2021-08-29 18:06:08 | 映画(洋画 69年以前)
映画「サマーオブソウル」を映画館で観てきました。

これはすごい!感動した。

1969年夏のニューヨークで、こんなすごいソウルミュージックのイベント「ハーレム・カルチャラル・フェスティバル」が開かれているとはまったく知らなかった。しかも、歴史的ロックコンサート「ウッドストック」がここから160km離れているところで開催されていたという。


日本中の家庭でみんな見ていたアポロ宇宙船が月面に着陸するのもこの時期だ。ここでは、当時の代表的な黒人アーチストが数多く参加している。メンバーもすごい!ある意味、ウッドストックよりもすごいかもしれない。ハーレム・カルチャラル・フェスティバルには30万人が合計で集まったという。カメラは観客にもフォーカスが当てられ、約20%程度は会場内の雰囲気を映し出す。


映画がはじまって早い時間にスティービーワンダーのドラムソロが映し出される。これまた珍しい。当時19歳でまだ若々しい。「迷信」が全米1位になるのが1973年で、69年までにもヒット曲はあったが、その後の世界的スーパースターぶりからすると、天才少年の域を抜けず、まだ飛び抜けたヒーローではない。この後、ブルースの帝王BBキングのコテコテのブルースが自らのブルースギターのノリも良くいい感じと思っていた時に、来たー!というグループが登場する。

フィフスディメンションだ。
全盛時の姿が観れるだけもいいと思ってしまう。

⒈フィフスディメンション
イエローとオレンジが基調のコスチュームで登場する。1969年という年は彼らにとって重要な年だ。ブロードウェイミュージカル「ヘアー」の中の「アクエリアス〜レットザサンシャインイン」が4月に全米1位の大ヒットとなり、同じ年の11月に「ウェディングブルース」もヒットチャート1位と年間2曲も1位となるまさに飛ぶ鳥を落とす勢いの年だ。映画の中で、ひょんなきっかけで「ヘアー」の曲を歌うようになる逸話も元メンバーのビリーデイヴィスから語られる。


「アクエリアス」のイントロがステージで流れた時、大画面を見ていた自分は背筋に電流が走った。小学生だった自分はこのシングルを持っていた。針がすり減るほど聴いたものだ。今のように海外と往来が自由でなかった日本でも、ミュージカル「ヘアー」が話題になっていた。新聞記事の下段にある女性週刊誌の広告にやたらに「ヘアー」と「ドラッグ」の結びつきが書いてあった記憶がある。しかも、日本のTVで誰かしら「レット・ザ・サンシャイン・イン」を歌っているので、この主旋律が耳に焼き付き親にねだってシングルレコードを買ったのだ。


映画で歌っているのをみると、ゴスペル風に主旋律に横から入るビリーデイビスの歌が効果的だ。回想する現在のビリーとマリリンが見れてうれしい。

⒉スライ&ザファミリーストーン
このライブイベントで観客に最も支持されているのは「スライ&ザファミリーストーン」ではないか。熱狂的ファンがステージ手前まで押し寄せている。ウッドストックにも登場した。1969年の2月に「エブリデイピープル」が全米ヒットチャート1位になって昇り調子だ。大画面で見るスライストーンがまだ若い。しかも、すごくパワフルである。ドラッグ漬けの度合いもまだ低いのではないか。


黒人の女性トランペッターや白人プレイヤーが2人が入って、それこそ最近言われる多様性の先駆者になっている。のちにサンタナやウェザーリポートと組むグレッグエリコのパワフルなドラムも印象的だ。

スライが登場する前は、黒人バンドもスーツにネクタイの正装が多くその流れを変えたのがスライストーンと映画の中で語られていた。自分もそう言われるまで気付いていなかったが、確かにそうだ。スライストーンに影響を受けたマイルスデイヴィスは60年代中盤過ぎても、コンサートでは仕立ての良いスーツ姿だったのにラフな服装に変わった。なるほどそういうことなのね。

⒊スライストーンからの影響
フィフスディメンションと異なり、自分がスライ&ザファミリーストーンを意識するようになったのは1971年の暮れだ。「ファミリーアフェア」が全米ヒットチャート1位になった頃、自分はすでにヒットチャートマニアになっていた。まだ有名になる前の小林克也がFM東京で最新の全米ヒットチャートをリアルタイムで国際電話で確認して主要曲をオンエアしていた。ヒットチャートがどう変わるのかが1週間でいちばんの楽しみだった。

1971年の年末はジョージハリソンボブディランやエリッククラプトンや錚々たるメンバーを集めて夏に開いたバングラディシュ救援のチャリティコンサートのアルバムが発売された。これもねだって当時5000円の輸入盤を購入した。当然、一気に全米アルバムチャートを駆け上るわけだが、どうしても1位になれなかった。その時、しぶとく1位に残ったのがスライのアルバム「暴動」である。あまり知らないアーチストがなのにどうして抜けないんだと自分は思っていた。次に1位になったのがドンマックリーンの「アメリカンパイ」でバングラディシュは1位になり損なった。スライ&ザファミリーストーンを意識し出したのはそれからである。


高校生の時、放送部に属するクラスの女の子から番組を編成したいので何かいいのはないかと、音楽好きの自分が相談された。その時推薦したのはスライ&ザファミリーストーンのアルバム「スタンド」である。ちょうどこの時期1969年5月に発売され、今でも傑作だと思っている。このコンサートでもアルバムから3曲演奏している。聴いていて泣きそうになった。

⒋マヘリアジャクソンとゴスペル
黒人音楽といえばゴスペルで、このコンサートでもいくつも取り上げられている。ステイプルシンガーズも登場する。その中でももっともパワフルな女性はマヘリアジャクソンだ。太目のボディに真っ赤なドレスを来てど迫力だ。彼女は「真夏の夜のジャズ」でも歌を披露している。このマヘリアジャクソンはこの2年後1971年に60歳の若さで亡くなっている。その意味でも貴重な映像だ。


自分自身がゴスペルに魅せられたのは、映画「ブルースブラザーズ」でのジェームスブラウン演じる牧師と教会の黒人合唱団を見てからなので、ちょっと遅い。ここでは日本でもお馴染みの「オーハッピーデイ」もオリジナルのエドウィンホーキンスひきいるメンバーによって歌われている。これもいい感じだ。

⒌グラディスナイト&ザピップスと悲しいうわさ
1973年10月に「夜霧よジョージアへ」という全米1位のヒット曲がある。個人的にはその印象が強い。日本でもTV放送していた「ソウルトレイン」に出ていた記憶がある。女性リードヴォーカルの後ろで、スーツを着た3人の男性ダンサーが踊るというこれまでのパターンだ。グラディスナイトのヴォーカルは実に迫力がある。ダンサーの動きもリズミカルでいい。曲名を見たら「I heard it through the grapevine」 これってまさにマーヴィンゲイの1969年の全米1位ヒット曲「悲しいうわさ」じゃない。でも、まったく別の曲のようだ。


調べると、グラディスナイトの方が先に「I heard it through the grapevine」をヒットさせているじゃない。自分がヒットチャートをノートに控えているのが1969年からで、グラディスナイトが全米2位までヒットさせていることを知らなかった。それにしても、気持ちがいいくらいノッテいる。現在のグラディスナイトが懐かしくこのフィルムをみるシーンがある。

全盛時のCCRがアルバム「コスモスファクトリー」の中で10分を超えるロングヴァージョンで「I heard it through the grapevine」を演奏している。ジョンフォガティの長いギターソロが印象的だ。実際にはCCRのを自分は一番聴いている。マーヴィンゲイバージョンのアレンジだ。

⒌1969年の全米ヒットチャート
60年代後半から70年代前半にかけて、白人と黒人の分断があるのが影響しているか分からないが、交互に全米ヒットチャートナンバー1をとりあっている。今回参加しているアーチストでいえば、スライ&ザファミリーストーンとフィフスディメンションが1969年に1位をとっている。あと黒人系で言えば、マーヴィンゲイ、テンプテーションズ、そしてシュープリームスのラストソングも1位になっている。

一方でまさに最終場面ともいえるビートルズが「ゲットバック」と「カムトゥゲザー/サムシング」の両面ヒット、先日ドラムスのチャーリーワッツが惜しくも亡くなったローリングストーンズが「ホンキートンクウーマン」、ラスベガスで復活したエルヴィスプレスリーの「サスピシャスマインド」と歴史的名曲があいだに挟まる1位になっているのだ。リストを見るだけで興奮する。ビートルズ以降につながる一瞬の過渡期かもしれない。

他にはニーナシモンの迫力あるヴォーカルが印象的、歌詞の訳をみると、ずいぶんとメッセージ性が強く黒人差別に対する抵抗を感じる。メキシコオリンピックの表彰式での人種差別抵抗シーンから1年経っていない。

ニューヨークのリンゼイ市長がコンサートで挨拶しているシーンが出てくる。妙に浮き上がる。いかにも白人エリートの典型といった振る舞いにコントラストを感じる。

ここ最近のミュージック系のドキュメンタリーで、いちばん感動した。正直「モータウン」のドキュメンタリーもそこまで良くなかった。ソウルミュージック好きにはたまらない快作だ。

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