2日目(12月31日 天候晴れ)
夜10時過ぎ、テントがバサバサと揺れる音で目が覚める。夕方と違ってずいぶんと風が強くなってきた。ふと見ると、シュラフカバーの上に白い雪がついていた。半分ほど開いていたテントの換気孔から雪が入ってきたらしい。外を見ると小雪が強風に煽られて舞っていた。明日は大丈夫なのだろうか?心配しながらまた眠る。
翌朝5時には目が覚めてしまう。まわりのテントももう朝食の準備や出発の準備をしていた。相変わらずの強い風が吹いている。果たしてアサヨ峰山頂にテントが張れるのだろうか?かなりの不安がある。テント張りっぱなしにして日中にアサヨ峰か仙丈岳に登って戻ってくるか、それともテント撤収してアサヨ峰を目指すか、かなり迷った。朝7時、すっかり夜が明けて空を見上げるとまだ雲が広がってはいるものの、青空が透けて見えている。天候は回復しそうだ。風も少しずつ止んできた。これならばなんとか行けるか?テント撤収し、アサヨ峰を目指すことにする。

仙水峠から見る厳冬の仙丈ヶ岳 強風で雪煙が舞い上がっている.

冬空に立つ摩利支点と甲斐駒ケ岳 仙水峠から撮影.
テント場を8時10分出発、荷物を軽くするため、1日分の食料と着替えは駒仙小屋炊事場の近くにデポしてゆく。仙水峠に到着した頃にはすっかり雲が晴れ、真青な冬空が広がっていた。昨日の小雪で中腹のツガの林に雪化粧した仙丈岳が美しい。一休みしてまず栗沢山を目指すが、ここからはかなりの急登となる。先に誰か歩いているのを期待していたのだが、残念ながら新しい足跡はない。前日か前々日に歩いたと思われる足跡が樹林帯の中に残されていた。それを辿って歩くが、膝下のラッセル、ところどころ風で足跡が吹き消されてしまっているところもあった。樹林帯を抜けたところで一休み、目指す栗沢山山頂の岩が見えてきたが、さらに傾斜はきつくなっている。

栗沢山中腹から見る甲斐駒ケ岳

眼前に迫る栗沢山山頂
ピッケルを思い切り雪面に突き刺して体を支えながら急斜面を登って行く。ピッケルが根元まで突き刺さってしまう雪の深さなので、50~60cmの積雪といったところだろうか。例年に比べると少なめなのだろう。仙水峠から苦節2時間半、栗沢山山頂に到着した。時間は午後1時を回っているが、アサヨ峰までは十分に行ける時間だ。トレースを見ると、一応歩いた痕跡はある。しかし、問題なのはこの強風と寒気だ。行ったとしても安全にテントが張れるのかどうか?行ったきり、明日帰ってこられなくなりそうな気がする。あきらめて下山するか、どうするか?さんざん迷ったあげく、選択したのは栗沢山山頂でのテント泊だった。

アサヨ峰と鳳凰山 目指すアサヨ峰はもうすぐそこだったが・・・

栗沢山山頂から見る冬の甲斐駒ケ岳

夕暮れ迫る北岳

夕暮れの仙丈ヶ岳と三日月
一旦は大岩の横の雪を掘り下げてテントを設営しようとしたが、やはり強風は避けられず、テントが煽られて斜めになってしまっている。どうせ避けられないならば山が見える場所、山頂の平らなところに設営することにした。もちろん、もろに強風を受けてしまうが、覚悟のうえだ。張り紐をしっかりと雪の中に固定して強めに張り、設営完了。フライシートが風に煽られてバサバサと音を立ててはいるが、飛ばされてしまうほどの風ではなかった。なんとかなりそうだ。仙丈岳に傾いてゆく太陽を見ながら、テントの中に入って暖をとり、遅い昼食、兼夕食をとる。

仙丈ヶ岳に沈む月と金星

北岳とおおいぬ座 ひときわ明るく輝いているのがおおいぬ座のシリウス,北岳の左手に光っているのがカノープスだが,肉眼で確認できないほど輝きが薄い.
すっかり日が暮れた夕方6時40分過ぎ、テントの外に出ると、仙丈岳の上に三日月と金星が沈んでゆくところだった。東の空、鳳凰山の上にはオリオン座が昇ってきている。三脚とカメラを持ち出して撮影開始するが、とにかく寒いし風が強い。30分ほど辛抱して撮影したものの、限界、テントに戻ってバーナーを焚いて暖をとる。持ってきた服はすべて身に纏い、上半身は6枚、下半身4枚、靴下4枚とさらにダウン足袋を装着してシュラフに潜りこむ。なんとか寒さは凌げそうだが、それでもまだ寒い。今までに体験したことのない寒さだ。マイナス20度くらいあるのではないだろうか。一旦シュラフに潜りこんで休憩、次はオリオン座が南中する10時ごろにまた撮影にとりかかる。

甲斐駒ケ岳と昇る北斗七星

甲斐駒ケ岳の山並とカシオペア座
寒くてテントの外に出るには勇気がいった。まずバーナーを焚いて暖をとり、寒いので靴はテントの中で履いた。10時40分出陣。激寒、かつ強風、いったい何分耐えられるのか?狙っていたのは北岳の左手低空に出るはずのカノープスだ。オリオン座は高く昇っているので、角度的には見えるはず。なのだが、肉眼では確認できない。Iso感度1600に上げて1枚撮影してみると、それらしき星が写ってはいるが、ずいぶん暗く、カノープスかどうかは自信がない。南半球ではシリウスに次いで明るい星なので、澄んだ空ならばもっと明るく見えて良いはずだ。あまり待っていられる状況ではなかったので、反対側の甲斐駒ケ岳の左手に出たカシオペア座や右手に昇ってきた北斗七星を撮影、最後にレンズを広角15mmに変えて再度北岳とオリオン座、冬の大三角形を何枚か撮影した。

北岳に南中する冬の大三角形とオリオン座 北岳山頂の右手にカノープスが姿を現している.これがこの日最後のカット.もう2~3枚欲しかったが,ギブアップ.
時間にして40分ほどテントの外にいたが、もう限界だった。指先と足先の感覚が麻痺してしまっている。テントに戻ってバーナーを焚くが、今度は着火に使用していたライターが点かなくなってしまった。腹の中にライターを入れて暖め、ようやく着火した。こんな経験は初めてだ。暖をとりながらお湯を1.5リットルほど沸かしてペットボトルに入れ、湯たんぽ代わりにしてシュラフの中で抱え込んで寝た。さすがにもう一度外に出て撮影する気はしなかった。そのままシュラフに潜りこんで夜明けを迎える。
(甲府に戻った後、パソコンで確認すると確かにカノープスが写っていた。惜しかったのは最後の1枚、北岳の山頂を越えて西側に回りこんできたカノープスが1カットだけ写っていた。もう2~3カット、5分遅ければ北岳の右側に明るいオレンジの輝きを放つカノープスが撮影できていたことだろう。残念。10月か11月のもう少し暖かい季節にリベンジ!)
夜10時過ぎ、テントがバサバサと揺れる音で目が覚める。夕方と違ってずいぶんと風が強くなってきた。ふと見ると、シュラフカバーの上に白い雪がついていた。半分ほど開いていたテントの換気孔から雪が入ってきたらしい。外を見ると小雪が強風に煽られて舞っていた。明日は大丈夫なのだろうか?心配しながらまた眠る。
翌朝5時には目が覚めてしまう。まわりのテントももう朝食の準備や出発の準備をしていた。相変わらずの強い風が吹いている。果たしてアサヨ峰山頂にテントが張れるのだろうか?かなりの不安がある。テント張りっぱなしにして日中にアサヨ峰か仙丈岳に登って戻ってくるか、それともテント撤収してアサヨ峰を目指すか、かなり迷った。朝7時、すっかり夜が明けて空を見上げるとまだ雲が広がってはいるものの、青空が透けて見えている。天候は回復しそうだ。風も少しずつ止んできた。これならばなんとか行けるか?テント撤収し、アサヨ峰を目指すことにする。

仙水峠から見る厳冬の仙丈ヶ岳 強風で雪煙が舞い上がっている.

冬空に立つ摩利支点と甲斐駒ケ岳 仙水峠から撮影.
テント場を8時10分出発、荷物を軽くするため、1日分の食料と着替えは駒仙小屋炊事場の近くにデポしてゆく。仙水峠に到着した頃にはすっかり雲が晴れ、真青な冬空が広がっていた。昨日の小雪で中腹のツガの林に雪化粧した仙丈岳が美しい。一休みしてまず栗沢山を目指すが、ここからはかなりの急登となる。先に誰か歩いているのを期待していたのだが、残念ながら新しい足跡はない。前日か前々日に歩いたと思われる足跡が樹林帯の中に残されていた。それを辿って歩くが、膝下のラッセル、ところどころ風で足跡が吹き消されてしまっているところもあった。樹林帯を抜けたところで一休み、目指す栗沢山山頂の岩が見えてきたが、さらに傾斜はきつくなっている。

栗沢山中腹から見る甲斐駒ケ岳

眼前に迫る栗沢山山頂
ピッケルを思い切り雪面に突き刺して体を支えながら急斜面を登って行く。ピッケルが根元まで突き刺さってしまう雪の深さなので、50~60cmの積雪といったところだろうか。例年に比べると少なめなのだろう。仙水峠から苦節2時間半、栗沢山山頂に到着した。時間は午後1時を回っているが、アサヨ峰までは十分に行ける時間だ。トレースを見ると、一応歩いた痕跡はある。しかし、問題なのはこの強風と寒気だ。行ったとしても安全にテントが張れるのかどうか?行ったきり、明日帰ってこられなくなりそうな気がする。あきらめて下山するか、どうするか?さんざん迷ったあげく、選択したのは栗沢山山頂でのテント泊だった。

アサヨ峰と鳳凰山 目指すアサヨ峰はもうすぐそこだったが・・・

栗沢山山頂から見る冬の甲斐駒ケ岳

夕暮れ迫る北岳

夕暮れの仙丈ヶ岳と三日月
一旦は大岩の横の雪を掘り下げてテントを設営しようとしたが、やはり強風は避けられず、テントが煽られて斜めになってしまっている。どうせ避けられないならば山が見える場所、山頂の平らなところに設営することにした。もちろん、もろに強風を受けてしまうが、覚悟のうえだ。張り紐をしっかりと雪の中に固定して強めに張り、設営完了。フライシートが風に煽られてバサバサと音を立ててはいるが、飛ばされてしまうほどの風ではなかった。なんとかなりそうだ。仙丈岳に傾いてゆく太陽を見ながら、テントの中に入って暖をとり、遅い昼食、兼夕食をとる。

仙丈ヶ岳に沈む月と金星

北岳とおおいぬ座 ひときわ明るく輝いているのがおおいぬ座のシリウス,北岳の左手に光っているのがカノープスだが,肉眼で確認できないほど輝きが薄い.
すっかり日が暮れた夕方6時40分過ぎ、テントの外に出ると、仙丈岳の上に三日月と金星が沈んでゆくところだった。東の空、鳳凰山の上にはオリオン座が昇ってきている。三脚とカメラを持ち出して撮影開始するが、とにかく寒いし風が強い。30分ほど辛抱して撮影したものの、限界、テントに戻ってバーナーを焚いて暖をとる。持ってきた服はすべて身に纏い、上半身は6枚、下半身4枚、靴下4枚とさらにダウン足袋を装着してシュラフに潜りこむ。なんとか寒さは凌げそうだが、それでもまだ寒い。今までに体験したことのない寒さだ。マイナス20度くらいあるのではないだろうか。一旦シュラフに潜りこんで休憩、次はオリオン座が南中する10時ごろにまた撮影にとりかかる。

甲斐駒ケ岳と昇る北斗七星

甲斐駒ケ岳の山並とカシオペア座
寒くてテントの外に出るには勇気がいった。まずバーナーを焚いて暖をとり、寒いので靴はテントの中で履いた。10時40分出陣。激寒、かつ強風、いったい何分耐えられるのか?狙っていたのは北岳の左手低空に出るはずのカノープスだ。オリオン座は高く昇っているので、角度的には見えるはず。なのだが、肉眼では確認できない。Iso感度1600に上げて1枚撮影してみると、それらしき星が写ってはいるが、ずいぶん暗く、カノープスかどうかは自信がない。南半球ではシリウスに次いで明るい星なので、澄んだ空ならばもっと明るく見えて良いはずだ。あまり待っていられる状況ではなかったので、反対側の甲斐駒ケ岳の左手に出たカシオペア座や右手に昇ってきた北斗七星を撮影、最後にレンズを広角15mmに変えて再度北岳とオリオン座、冬の大三角形を何枚か撮影した。

北岳に南中する冬の大三角形とオリオン座 北岳山頂の右手にカノープスが姿を現している.これがこの日最後のカット.もう2~3枚欲しかったが,ギブアップ.
時間にして40分ほどテントの外にいたが、もう限界だった。指先と足先の感覚が麻痺してしまっている。テントに戻ってバーナーを焚くが、今度は着火に使用していたライターが点かなくなってしまった。腹の中にライターを入れて暖め、ようやく着火した。こんな経験は初めてだ。暖をとりながらお湯を1.5リットルほど沸かしてペットボトルに入れ、湯たんぽ代わりにしてシュラフの中で抱え込んで寝た。さすがにもう一度外に出て撮影する気はしなかった。そのままシュラフに潜りこんで夜明けを迎える。
(甲府に戻った後、パソコンで確認すると確かにカノープスが写っていた。惜しかったのは最後の1枚、北岳の山頂を越えて西側に回りこんできたカノープスが1カットだけ写っていた。もう2~3カット、5分遅ければ北岳の右側に明るいオレンジの輝きを放つカノープスが撮影できていたことだろう。残念。10月か11月のもう少し暖かい季節にリベンジ!)