山梨百名山から見る風景

四方を山に囲まれた山梨県。私が愛して止まない山梨の名峰から見る山と花と星の奏でる風景を紹介するページです。

強風に煽られた極寒の栗沢山(2日目)  平成20年12月30日-21年1月1日

2009年01月08日 | 南アルプス
 2日目(12月31日 天候晴れ)
 夜10時過ぎ、テントがバサバサと揺れる音で目が覚める。夕方と違ってずいぶんと風が強くなってきた。ふと見ると、シュラフカバーの上に白い雪がついていた。半分ほど開いていたテントの換気孔から雪が入ってきたらしい。外を見ると小雪が強風に煽られて舞っていた。明日は大丈夫なのだろうか?心配しながらまた眠る。
 翌朝5時には目が覚めてしまう。まわりのテントももう朝食の準備や出発の準備をしていた。相変わらずの強い風が吹いている。果たしてアサヨ峰山頂にテントが張れるのだろうか?かなりの不安がある。テント張りっぱなしにして日中にアサヨ峰か仙丈岳に登って戻ってくるか、それともテント撤収してアサヨ峰を目指すか、かなり迷った。朝7時、すっかり夜が明けて空を見上げるとまだ雲が広がってはいるものの、青空が透けて見えている。天候は回復しそうだ。風も少しずつ止んできた。これならばなんとか行けるか?テント撤収し、アサヨ峰を目指すことにする。

    仙水峠から見る厳冬の仙丈ヶ岳  強風で雪煙が舞い上がっている.


    冬空に立つ摩利支点と甲斐駒ケ岳 仙水峠から撮影.

 テント場を8時10分出発、荷物を軽くするため、1日分の食料と着替えは駒仙小屋炊事場の近くにデポしてゆく。仙水峠に到着した頃にはすっかり雲が晴れ、真青な冬空が広がっていた。昨日の小雪で中腹のツガの林に雪化粧した仙丈岳が美しい。一休みしてまず栗沢山を目指すが、ここからはかなりの急登となる。先に誰か歩いているのを期待していたのだが、残念ながら新しい足跡はない。前日か前々日に歩いたと思われる足跡が樹林帯の中に残されていた。それを辿って歩くが、膝下のラッセル、ところどころ風で足跡が吹き消されてしまっているところもあった。樹林帯を抜けたところで一休み、目指す栗沢山山頂の岩が見えてきたが、さらに傾斜はきつくなっている。

    栗沢山中腹から見る甲斐駒ケ岳


    眼前に迫る栗沢山山頂

 ピッケルを思い切り雪面に突き刺して体を支えながら急斜面を登って行く。ピッケルが根元まで突き刺さってしまう雪の深さなので、50~60cmの積雪といったところだろうか。例年に比べると少なめなのだろう。仙水峠から苦節2時間半、栗沢山山頂に到着した。時間は午後1時を回っているが、アサヨ峰までは十分に行ける時間だ。トレースを見ると、一応歩いた痕跡はある。しかし、問題なのはこの強風と寒気だ。行ったとしても安全にテントが張れるのかどうか?行ったきり、明日帰ってこられなくなりそうな気がする。あきらめて下山するか、どうするか?さんざん迷ったあげく、選択したのは栗沢山山頂でのテント泊だった。

    アサヨ峰と鳳凰山  目指すアサヨ峰はもうすぐそこだったが・・・


    栗沢山山頂から見る冬の甲斐駒ケ岳


    夕暮れ迫る北岳


    夕暮れの仙丈ヶ岳と三日月

 一旦は大岩の横の雪を掘り下げてテントを設営しようとしたが、やはり強風は避けられず、テントが煽られて斜めになってしまっている。どうせ避けられないならば山が見える場所、山頂の平らなところに設営することにした。もちろん、もろに強風を受けてしまうが、覚悟のうえだ。張り紐をしっかりと雪の中に固定して強めに張り、設営完了。フライシートが風に煽られてバサバサと音を立ててはいるが、飛ばされてしまうほどの風ではなかった。なんとかなりそうだ。仙丈岳に傾いてゆく太陽を見ながら、テントの中に入って暖をとり、遅い昼食、兼夕食をとる。

    仙丈ヶ岳に沈む月と金星


    北岳とおおいぬ座  ひときわ明るく輝いているのがおおいぬ座のシリウス,北岳の左手に光っているのがカノープスだが,肉眼で確認できないほど輝きが薄い.

 すっかり日が暮れた夕方6時40分過ぎ、テントの外に出ると、仙丈岳の上に三日月と金星が沈んでゆくところだった。東の空、鳳凰山の上にはオリオン座が昇ってきている。三脚とカメラを持ち出して撮影開始するが、とにかく寒いし風が強い。30分ほど辛抱して撮影したものの、限界、テントに戻ってバーナーを焚いて暖をとる。持ってきた服はすべて身に纏い、上半身は6枚、下半身4枚、靴下4枚とさらにダウン足袋を装着してシュラフに潜りこむ。なんとか寒さは凌げそうだが、それでもまだ寒い。今までに体験したことのない寒さだ。マイナス20度くらいあるのではないだろうか。一旦シュラフに潜りこんで休憩、次はオリオン座が南中する10時ごろにまた撮影にとりかかる。

    甲斐駒ケ岳と昇る北斗七星


    甲斐駒ケ岳の山並とカシオペア座

 寒くてテントの外に出るには勇気がいった。まずバーナーを焚いて暖をとり、寒いので靴はテントの中で履いた。10時40分出陣。激寒、かつ強風、いったい何分耐えられるのか?狙っていたのは北岳の左手低空に出るはずのカノープスだ。オリオン座は高く昇っているので、角度的には見えるはず。なのだが、肉眼では確認できない。Iso感度1600に上げて1枚撮影してみると、それらしき星が写ってはいるが、ずいぶん暗く、カノープスかどうかは自信がない。南半球ではシリウスに次いで明るい星なので、澄んだ空ならばもっと明るく見えて良いはずだ。あまり待っていられる状況ではなかったので、反対側の甲斐駒ケ岳の左手に出たカシオペア座や右手に昇ってきた北斗七星を撮影、最後にレンズを広角15mmに変えて再度北岳とオリオン座、冬の大三角形を何枚か撮影した。

    北岳に南中する冬の大三角形とオリオン座  北岳山頂の右手にカノープスが姿を現している.これがこの日最後のカット.もう2~3枚欲しかったが,ギブアップ.

時間にして40分ほどテントの外にいたが、もう限界だった。指先と足先の感覚が麻痺してしまっている。テントに戻ってバーナーを焚くが、今度は着火に使用していたライターが点かなくなってしまった。腹の中にライターを入れて暖め、ようやく着火した。こんな経験は初めてだ。暖をとりながらお湯を1.5リットルほど沸かしてペットボトルに入れ、湯たんぽ代わりにしてシュラフの中で抱え込んで寝た。さすがにもう一度外に出て撮影する気はしなかった。そのままシュラフに潜りこんで夜明けを迎える。
(甲府に戻った後、パソコンで確認すると確かにカノープスが写っていた。惜しかったのは最後の1枚、北岳の山頂を越えて西側に回りこんできたカノープスが1カットだけ写っていた。もう2~3カット、5分遅ければ北岳の右側に明るいオレンジの輝きを放つカノープスが撮影できていたことだろう。残念。10月か11月のもう少し暖かい季節にリベンジ!)
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強風に煽られた極寒の栗沢山(1日目)  平成20年12月30日-21年1月1日

2009年01月08日 | 南アルプス
 予定ではアサヨ峰まで行き、山頂にテントを張って鳳凰山から昇る新年の御来光を見るつもりだった。しかし、行く手を阻んだのは冬型の気圧配置による強風と強烈な寒さだった。
 1日目(12月30日 天候晴れ)
 12月29日出発予定だったのだが、目を覚ますともう時間は8時を過ぎていた。前日の夜、まだできていなかった年賀状を夜中の3時まで作っていたことで寝過ごしてしまった。今から行くと戸台からの歩き始めは12時近くになってしまう。とても日没までに北沢峠に入れそうも無いので1日延期して12月30日の出発となった。

    戸台川の広い河原を歩く


    角衛兵沢出合と鋸岳  赤テープがつけられている.

 翌朝は5時に起床はしたものの、なかなか布団から出られず、結局甲府を出発したのは6時半近くになってしまった。戸台から歩き始めたのは午前9時、北沢峠まで約6時間と想定して、まあ日没までには到着できるだろう。駐車場には100台近くの車が駐車していたのには驚いた。戸台川の河原につけられた道をテクテクと歩き、1時間で堰堤に到着。堰堤を越えると、河原の中に赤テープがたくさんつけられていて、今度は対岸に渡って(といっても水は流れていない)河原の右側を歩くようになる。約1時間で角兵衛沢出合に到着。ここは鋸岳への登山口になっていて、案内の道標と赤テープがつけられていた。さらに10分ほどで今度は熊の穴沢出合、こちらも鋸岳第2高点側の登山口だが、帰り際にルートを確認したが、今にも落石しそうな河原(というか崖)を登って行く危険そうなルートだった。さらに10分ほどで木を束ねた橋を渡って左側に渡り、丹渓山荘に到着する。ここは丹渓新道と八丁坂(北沢峠に行く道)の分岐になっていて、いずれも道しるべの赤テープがついている。河原から左折して急坂を登り、丹渓山荘の横を通り過ぎて八丁坂を登って行くが、地図の傾斜の割には道がジグザグにつけられていて歩きやすいため、さほどきつい坂には感じない。約1時間で八丁坂を登り切り、時間は午後1時10分だった。

    端渓山荘手前,甲斐駒ケ岳が眼前に迫る・


    休業中の端渓山荘.この横を通って八丁坂の登りに入る.


    倒木の横を通る

 ここまで来れば北沢峠はもうすぐそこ、と思ったら甘かった。この先の樹林帯がかなり長い。1度目に林道を横切ったあたりで雪が深くなりはじめ、樹林帯の中でアイゼンを装着する。その先、同じ林道を2度横切ってようやくたどり着いたところは、南アルプス林道の大平山荘の前だった。時間は午後2時45分、予定通りの時間だ。南アルプス林道は、道の上が5cm以上の暑い氷が張ったアイスバーンになっていた。まるでスケートリンクのような道、アイゼンなしでは尻餅をつきまくりそうだ。

    凍る沢


    苔生すツガ林.南アルプスらしい林.


    支脈の林道手前,向いに南アルプス林道が見える.


    北沢峠長衛荘.林道は5cmの氷が張るアイスバーン状態.

 キャンプ場に到着すると、10張ほどのテントが張られていた。思ったほど多くはない。しかも若者のグループばかり、中高年は少ない。さっそくテントを張って食事の準備をする。食事の前に、駒仙小屋に行ってテント場の受付を済ませると、私の住所を見た小屋のおかみさんから「近所ですね。」という言葉が帰って来た。住所を聞くと、なんと、甲府市岩窪町、同じ相川地区ではないか。驚きと親しみを感じた駒仙小屋だった。この日の駒仙小屋宿泊客は1人だけだという。食事なしの素泊まりだけだが、こんなことなら寒いテント泊じゃなくて小屋泊まりにするんだったなと少し後悔した。この日は夕食をとった後、6時過ぎには早々にシュラフに潜りこんで寝る。仙丈岳あたりに月と金星が沈んでゆくはずなので空を見上げたが、雲におおわれて見えなかった。
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