平成22年10月10-11日 天候曇りのち晴れ
3連休初日の土曜日はあいにくの雨となってしまった。天気予報では翌日の午前中も雨の予報で、前年からこの連休に予定していたこの山へは登れないだろう、と思っていた。雨による増水で奥沢の広河原が渡渉できない可能性が高いからだ。数年前に台風後の増水時、ここを無理に渡ろうとして流され、命を落とした人がいる。しかし・・・
10日の日曜日、朝8時に目を覚まして空を見上げると、雨はもう上がっている。時折雲の切れ間から青空も覗いているではないか。思ったよりも早く雨が上がったのだ。しかし、昨日の雨の降り方からして奥沢の渡渉が可能なのかどうか?時間も遅くなってしまったし、相手はあの難峰笊ヶ岳だ。行くかどうか、かなり迷った。天気が回復してくるのは目に見えている。そして、何故この連休にこだわるのか?それは、10月11日は笊ヶ岳山頂でダイヤモンド富士になり、しかもほぼ真中から日が昇って来るからだ。10月11日が休みになる日はまた数年先になってしまい、その時登れる保障もない。渡渉できなければ仕方ないが、行かないときっと一生後悔するだろう、そんな思いを抱きつつ、早急に1泊テント装備をザックに詰め込み、9時に自宅を出発した。
雨畑の老平(おいだいら)を歩き始めたのはもう11時になってしまった。3年前は11時間かかってようやく山頂に到着したので、今回もおそらくは山頂到着は夜の10時ごろになるだろう。なにせ累積標高差が約2,300mもある、とんでもない登山だ。急ぎ足だと後半に響くので、足が疲れないように故意にペースを落としつつ、林道を歩き、一軒家の廃屋を過ぎ、岳沢吊り橋を渡って1時間20分ほどで広河原に到着した。
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雫の上に咲くギボウシ
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岳沢の吊橋
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シャワーを浴びる場所がある。
思ったとおり、いつもの徒渉よりも10cmほど水位が上がっている。いつもは登山靴のまま石の上を飛んで靴を少し濡らす程度で渡っていたが、今回は濡れずに渡ることは困難だ。まずザックを下ろし、膝上までズボンとタイツを捲り上げ、裸足になって空身で渡渉してみる。膝を少し越えるところまで水に濡れるが、なんとか渡渉できる。今度はザックを背負って慎重に渡渉し、無事に対岸にたどり着いた。
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広河原の渡渉場(渡渉後に撮影) 下段の中央部を渡った。
ここが最後の水場になるので、たっぷり水を飲んで食事をとって、2.5リットルの水を汲んで(持って行ったスポーツドリンクと合わせて計3.5リットル)ザックに詰め込み、午後2時広河原を出発した。ここからが笊ヶ岳登山の本番となる。山の神の祠まではジグザグの良い道がついているが、その先で急傾斜が始まる。ちょっと緩くなったかと思えばまた急傾斜、その繰り返しだ。檜横手山手前の傾斜がかなりきつく、登りついて緩やかになったところで苔の生えたツガの林に入るのだが、ここから緩い傾斜をだいぶ歩いてようやく檜横手山山頂に到着、時間は午後6時、ここで日が暮れた。檜横手山(ひのきよこてやま)まで、昭文社地図では広河原から3時間と書かれているが、何度歩いてもこの時間ではとてもたどり着けない。(老平駐車場の看板には4時間と書かれていて、こちらの時間のほうが正しいと思う。)
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造林小屋跡地への登りでガレの縁から富士山が望める。雲が晴れすっきりした富士山が見え始める。
座って一休みするが、足にかなりの疲れが来た。普通ならばここでテントを張って未明から登り始めるのだろうが、なんとしても山頂まで行きたい。立ち上がってザックを背負おうとすると、右足太腿の内転筋が攣ってしまう。ストレッチしてなんとかおさまり、ヘッドライト点灯して夜道をルート探しながら歩き始める。この先、崖のような急登が待っている。その中腹で、今度は左足の大腿四頭筋が攣ってしまい、一歩も足が進まなくなってしまう。暗闇の中、登ることも下りることもできず、しかもテントを張れるような場所でもない。ひとまずは腰を下ろして疲れた足をマッサージし、ゆっくりと屈伸運動を繰り返す。そしてスポーツドリンクと行動食をとって塩分とエネルギーを充填する。10分ほどの休憩でなんとか足は動くようになり、再び暗闇の中を上を目指して歩き出す。なんとか歩けそうだ。最初はゆっくりと、そして徐々にピッチを上げて、いつも通りに歩けるまで回復した。
布引山に8時45分到着。空を見上げるとすっかり雲が晴れ、一面の星空が広がっていた。頭上高く夏の大三角形が輝き、天の川が貫いている。やはり山は登って来いと私を呼んでいた、そんな気がした。ここで500ミリリットルの水をデポして笊ヶ岳山頂を目指す。足は大丈夫そうだ。この先のルートははっきりしているので、迷うことはない。足元に気をつけて転倒しないように歩き、そして夜10時半、ようやく笊ヶ岳山頂に到着した。3度目の山頂だが、今回がいちばん達成感があった。小笊越しに富士山がくっきりと見える。右手には静岡・沼津方面の明かり、左には甲府盆地の明かり、富士山の左手に明るく放散しているのは東京都の明かりだろう。思ったとおりの夜の絶景、そして富士山の真上にオリオン座が昇ってきていた。
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富士に昇るオリオン座
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富士に昇るオリオン座と冬の大三角形 右が沼津、左が甲府盆地の夜景。15mm diagonal fisheyeで撮影。
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裏側の荒川三山に沈む夏の大三角形
山頂にこだわるその理由は、明朝のダイヤモンド富士もあるのだが、もう一つはこの富士山の上に昇って来るオリオン座と冬の大三角形だったのだ。夜11時にオリオン座が全容を現すのはパソコンで計算していたので、それまでに山頂に到着できれば良かったのだ。なんとかたどり着くことができた。3年前の静寂な雲海が広がった笊ヶ岳の夜、この光景を目にしていたのだが、その時は撮影する技術を持っておらず、ずっとリベンジしたいと思っていた。3年越しの思い、しかし、雲海が広がらなかったのはちょっと残念だ。久しぶりに空気が澄んでいつもは霞んでいる甲府盆地の明かりがはっきりと見える。おそらく、この夜は甲府からでも空に流れる天の川が見えたことだろう。リモコンで1分30秒ごとにシャッターが切れるようにセットして、テントを張り食事をとる。満天の星空の下でとる食事がどれほど美味で幸せなことか。
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3年越しの思い、富士に昇るオリオン座と冬の大三角形
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笊ヶ岳の標柱とテント この星空の下、眠るのがもったいない。
眠るのが惜しい夜だったが、寝ておかないと明日の下山に堪える。1時まで頑張って、翌朝間違って起きられなかったことを想定して、5時半から自動的にカメラのシャッターが切れるようにタイマーをセットしておいて、シュラフに潜り込んで眠る。
3連休初日の土曜日はあいにくの雨となってしまった。天気予報では翌日の午前中も雨の予報で、前年からこの連休に予定していたこの山へは登れないだろう、と思っていた。雨による増水で奥沢の広河原が渡渉できない可能性が高いからだ。数年前に台風後の増水時、ここを無理に渡ろうとして流され、命を落とした人がいる。しかし・・・
10日の日曜日、朝8時に目を覚まして空を見上げると、雨はもう上がっている。時折雲の切れ間から青空も覗いているではないか。思ったよりも早く雨が上がったのだ。しかし、昨日の雨の降り方からして奥沢の渡渉が可能なのかどうか?時間も遅くなってしまったし、相手はあの難峰笊ヶ岳だ。行くかどうか、かなり迷った。天気が回復してくるのは目に見えている。そして、何故この連休にこだわるのか?それは、10月11日は笊ヶ岳山頂でダイヤモンド富士になり、しかもほぼ真中から日が昇って来るからだ。10月11日が休みになる日はまた数年先になってしまい、その時登れる保障もない。渡渉できなければ仕方ないが、行かないときっと一生後悔するだろう、そんな思いを抱きつつ、早急に1泊テント装備をザックに詰め込み、9時に自宅を出発した。
雨畑の老平(おいだいら)を歩き始めたのはもう11時になってしまった。3年前は11時間かかってようやく山頂に到着したので、今回もおそらくは山頂到着は夜の10時ごろになるだろう。なにせ累積標高差が約2,300mもある、とんでもない登山だ。急ぎ足だと後半に響くので、足が疲れないように故意にペースを落としつつ、林道を歩き、一軒家の廃屋を過ぎ、岳沢吊り橋を渡って1時間20分ほどで広河原に到着した。
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雫の上に咲くギボウシ
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岳沢の吊橋
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シャワーを浴びる場所がある。
思ったとおり、いつもの徒渉よりも10cmほど水位が上がっている。いつもは登山靴のまま石の上を飛んで靴を少し濡らす程度で渡っていたが、今回は濡れずに渡ることは困難だ。まずザックを下ろし、膝上までズボンとタイツを捲り上げ、裸足になって空身で渡渉してみる。膝を少し越えるところまで水に濡れるが、なんとか渡渉できる。今度はザックを背負って慎重に渡渉し、無事に対岸にたどり着いた。
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広河原の渡渉場(渡渉後に撮影) 下段の中央部を渡った。
ここが最後の水場になるので、たっぷり水を飲んで食事をとって、2.5リットルの水を汲んで(持って行ったスポーツドリンクと合わせて計3.5リットル)ザックに詰め込み、午後2時広河原を出発した。ここからが笊ヶ岳登山の本番となる。山の神の祠まではジグザグの良い道がついているが、その先で急傾斜が始まる。ちょっと緩くなったかと思えばまた急傾斜、その繰り返しだ。檜横手山手前の傾斜がかなりきつく、登りついて緩やかになったところで苔の生えたツガの林に入るのだが、ここから緩い傾斜をだいぶ歩いてようやく檜横手山山頂に到着、時間は午後6時、ここで日が暮れた。檜横手山(ひのきよこてやま)まで、昭文社地図では広河原から3時間と書かれているが、何度歩いてもこの時間ではとてもたどり着けない。(老平駐車場の看板には4時間と書かれていて、こちらの時間のほうが正しいと思う。)
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造林小屋跡地への登りでガレの縁から富士山が望める。雲が晴れすっきりした富士山が見え始める。
座って一休みするが、足にかなりの疲れが来た。普通ならばここでテントを張って未明から登り始めるのだろうが、なんとしても山頂まで行きたい。立ち上がってザックを背負おうとすると、右足太腿の内転筋が攣ってしまう。ストレッチしてなんとかおさまり、ヘッドライト点灯して夜道をルート探しながら歩き始める。この先、崖のような急登が待っている。その中腹で、今度は左足の大腿四頭筋が攣ってしまい、一歩も足が進まなくなってしまう。暗闇の中、登ることも下りることもできず、しかもテントを張れるような場所でもない。ひとまずは腰を下ろして疲れた足をマッサージし、ゆっくりと屈伸運動を繰り返す。そしてスポーツドリンクと行動食をとって塩分とエネルギーを充填する。10分ほどの休憩でなんとか足は動くようになり、再び暗闇の中を上を目指して歩き出す。なんとか歩けそうだ。最初はゆっくりと、そして徐々にピッチを上げて、いつも通りに歩けるまで回復した。
布引山に8時45分到着。空を見上げるとすっかり雲が晴れ、一面の星空が広がっていた。頭上高く夏の大三角形が輝き、天の川が貫いている。やはり山は登って来いと私を呼んでいた、そんな気がした。ここで500ミリリットルの水をデポして笊ヶ岳山頂を目指す。足は大丈夫そうだ。この先のルートははっきりしているので、迷うことはない。足元に気をつけて転倒しないように歩き、そして夜10時半、ようやく笊ヶ岳山頂に到着した。3度目の山頂だが、今回がいちばん達成感があった。小笊越しに富士山がくっきりと見える。右手には静岡・沼津方面の明かり、左には甲府盆地の明かり、富士山の左手に明るく放散しているのは東京都の明かりだろう。思ったとおりの夜の絶景、そして富士山の真上にオリオン座が昇ってきていた。
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富士に昇るオリオン座
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富士に昇るオリオン座と冬の大三角形 右が沼津、左が甲府盆地の夜景。15mm diagonal fisheyeで撮影。
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裏側の荒川三山に沈む夏の大三角形
山頂にこだわるその理由は、明朝のダイヤモンド富士もあるのだが、もう一つはこの富士山の上に昇って来るオリオン座と冬の大三角形だったのだ。夜11時にオリオン座が全容を現すのはパソコンで計算していたので、それまでに山頂に到着できれば良かったのだ。なんとかたどり着くことができた。3年前の静寂な雲海が広がった笊ヶ岳の夜、この光景を目にしていたのだが、その時は撮影する技術を持っておらず、ずっとリベンジしたいと思っていた。3年越しの思い、しかし、雲海が広がらなかったのはちょっと残念だ。久しぶりに空気が澄んでいつもは霞んでいる甲府盆地の明かりがはっきりと見える。おそらく、この夜は甲府からでも空に流れる天の川が見えたことだろう。リモコンで1分30秒ごとにシャッターが切れるようにセットして、テントを張り食事をとる。満天の星空の下でとる食事がどれほど美味で幸せなことか。
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3年越しの思い、富士に昇るオリオン座と冬の大三角形
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笊ヶ岳の標柱とテント この星空の下、眠るのがもったいない。
眠るのが惜しい夜だったが、寝ておかないと明日の下山に堪える。1時まで頑張って、翌朝間違って起きられなかったことを想定して、5時半から自動的にカメラのシャッターが切れるようにタイマーをセットしておいて、シュラフに潜り込んで眠る。