ルース・ベネディクトの名著、「菊と刀」には色々な読み方がある。
1958年、大学生の頃に読んで感動した。特に2つの性質の異なる感動を一生忘れられない。
(1)世界中の民族文化を比較するのは重要だが、倫理的な視点から民族文化の優劣を考えてはいけない!
比較文化人類学という分野の学者だったベネディクト博士にとっては当然な研究態度である。
この態度は将来、研究者になろうとしていた小生にとっては衝撃的な指導であった。科学と道徳を、そして宗教を一緒にしてはいけない!一緒にすると学問は進歩しない。一生忘れらえない教訓であった。多くの宗教画が芸術的につまらないのも一例である。アメリカ人の研究成果は優れているという一般的な結論にはなんの意味もない。日本人の研究より優れている場合もあれば劣っている場合もある。研究成果は国籍、研究費の大小で決めるのではなく、あくまでも個々の研究論文の内容の価値だけで評価すべきである。
もう一つは、種々の民族文化をあるがままに、それぞれ尊敬する。これこそ、どんな外国を訪問した場合でも通用する「普遍的な行動規範」になる。人間は違った文化の人々を軽蔑したくなる。とくに貧しい民族の場合は。この原理で外国生活がどんなに気楽になったことか。
(2)敗戦国の「恥の文化」を軽蔑したり、おとしめていない。
戦後すぐの日本人がこの本を絶賛したのは「菊と刀」が決して「恥の文化」を劣っていると評価していなかったからある。敗戦で自信をなくしていた日本人が、大きな勇気を貰った書であった。そのお陰で気を取り直して、戦後の復興に努力した人々も多かったに違いない。
少なくとも自分は、日本人は決して劣っていない!と思うようになった。この思いは40年後の現在も変わっていない。
この本を現在、若い日本人が読めばこような評価は出来なかったと思う。この視点や、色々な性質の異なる感動もあることを若い人々へお伝えいしたくて拙文をお送りする次第です。(終わり)