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【一口紹介】
■内容(「BOOK」データベースより)■
「十年後、僕は結婚を申し込みます」見知らぬ少年の手紙にはそうあった。
出会いと別れ、運命の転変、人が生きる拠り所とは何なのか?
十年前、留美子は一通の謎めいた手紙を渡されます。「十年後、地図の場所でお待ちしています。僕はその時、あなたに結婚を申し込むつもりです」。
こんな身勝手な約束をいったい誰が?
東京、軽井沢、総社、北海道、台湾……。さまざまな出会いと別れ、運命の転変の中で、はたして約束は果たされるのか?
あなたも登場人物によりそって、迷い、怒り、恋をしてみてください。
読み終わったとき、きっと生き方が変わる──。そんな宮本文学の新しい傑作です。
■Amazon.co.jp■
その家の完成と同時期に父が亡くなった。
以後10年間住む者のなかった家に、留美子は母とともに戻ってきた。
税理士を目指し、努力しつづけてきた10年という歳月。
妻子ある男との恋に消耗した時間。
32歳になった留美子の元に、10年前手渡されたものの忘れ去っていた、見知らぬ少年からのラブレターが再現した。
「10年後の12月5日、蜘蛛が空を飛ぶ場所であなたにプロポーズします」。
甘すぎないロマンチシズムが全編にただよう、著者渾身の長編小説。
本書は章ごとに、留美子と彼女の向かいの家に住む会社社長・上原桂二郎の視点が交互に入れ替わって描かれている。
「10年前のラブレター」をはじめ、それぞれの人生において交わされた「約束」がストーリーを膨らませ、やがて舞台は台湾にまで及ぶ。
物語が進むにつれて、年齢も性別も異なる二人の日常が、「隣人」というだけではない接点を持ち始め、時に交差する。
これら多くの場面転換や登場人物たちのなかば強引なまでの「縁」にも、違和感を覚えず読み進むことができるのは、いまや熟練の域に達した著者の筆致によるところであろう。
また、本書には「大人の趣」が随所に登場する。
何十年もかけて育てる木のぬくもり、1時間じっくりとくゆらす葉巻、そして、旬の食材を使った高級日本料理の数々。
温度や香り、味わいまでもが伝わってくるような巧みな描写が、物語に深みを加えているのは言うまでもない。(冷水修子)
■2003年 第54回 芸術選奨・文部科学大臣賞(文学関係)受賞■
「贈賞理由」
宮本輝氏は美しい小説を書いた。冬が来ようとする頃,蜘蛛の子が糸を吐いて,それに乗って空高く舞い上がろうとする光景が,田園地帯にたまにみられるという「雪迎え」と呼ばれる,このけなげにも美しい光景を,胸に抱いて生きる,老年,壮年,青年男女を登場人物とする長篇『約束の冬』(上・下)(文藝春秋,5月)において,著者は,今日の日本が失っているあるべき人間像の造型をこころざした。
【読んだ理由】
以前から気になっていた本。「星宿海への道」に続いての宮本輝作品。
【印象に残った一行】
『人が、自分は充分生きたと感じられる年齢は、人それぞれであろう。九十歳に近くなっても、まだ生き足りないという人間もいるであろうし、五十歳でも己が人生に納得して死に向き合える人間もいるにちがいない。それは充足感によるものとは限らないような気がする。疲労によっても、人は死を受容できるかもしれない。もうこれ以上働くことは疲れたと感じたり、世の中の幾多の厄介事から解放されたいと思う者もいる。だが、いずれにしても、四十代の死は、人間が得られる不思議な視力を得ないままの死であるような気がする。』
【コメント】
私が住んでいる倉敷に隣接する総社市も物語の重要な舞台(=十年後の地図の場所)となっている。何故か心優しくなれる本である。

