花神 (下巻)新潮社このアイテムの詳細を見る |
【一口紹介】
内容(「BOOK」データベースより)
百姓が武士に勝った。薩長戦での長州軍の勝利は、維新史の転換点となり、幕府は急速に瓦解へとつきすすむ。
この戦いではじめて軍事の異才を発揮した蔵六こと大村益次郎は、歴史の表舞台へ押し出され、討幕軍総司令官となって全土に”革命”の花粉をまきちらしてゆく。
---幕府動乱の最後の時期に忽然と現われた益次郎の軍事的天分によって、明治維新は一挙に完成へと導かれる。
【読んだ理由】
義兄にすすめられて。
【印象に残った一行】
『勝には西郷がくみしやすかった。
西郷という新政府代表には、勝に理解できる一個の哲学があり、それに大きな情愛と寛仁の心があった。西郷のその部分を見抜いて接すれば、西郷をころがすことができた。西郷の巨大さは好んでころぶところにあることを、勝は見ぬいていたし、そのあたりが勝という、形而上にも形而下にも通暁した政治家---というより文明批評家であり人間通であった男---の眼力といえたが、その勝の神通力をもってしても蔵六には歯が立たない。
「あれは機械だ」
と、勝はおもっていたにちがいない。
幕末、無数の革命家が出た。その多くが死んだが、しかし西郷や木戸など、なお生き残っている者がいる。かれらは革命を創りだすことはできたがそれを成就する役柄ではなかった。
蔵六は仕上げ人として歴史に登場した。仕上げ人は革命家の仕散らかした物事を一挙に組み立てて一つの国家を短時間でつくりあげねばならない。
このため非情であることを要した。蔵六が天から贈られてきた者であることを、勝ほどの眼力の者ならさとったにちがいない。』
【コメント】
混迷の時代に要請されて歴史の表舞台に出て、見事にあくまでもクールにその役割を果たす蔵六の生き方に痛快さを感じた。その蔵六が京都で刺客に刺されたことを知ったイネが、横浜から駕籠にのり昼夜兼行で駆け、わずか八日という短時間で来てくれ、死ぬまでの五十余日間、侵食を忘れて看病してくれたことは無上の喜びであったであろう。
なお題名の「花神」は中国のことばで、花咲爺を意味している。日本全土に革命の花が咲き、明治維新の功業が成るためには、花神(=村田蔵六)の登場が必要であったことに由来している。