安曇野ジャズファンの雑記帳

信州に暮らすジャズファンが、聴いたCDやLPの感想、ジャズ喫茶、登山、旅行などについて綴っています。

三澤洋史著「オペラ座のお仕事」(早川書房)

2018-04-13 20:05:10 | 読書

オペラについては、実際の舞台を観る機会はほとんどないのですが、アリアを中心にCDやDVDで楽しんできました。オペラの舞台裏や一般には馴染のない合唱指揮者という仕事について言及していた本があったので、借りて読んでみました。

   

著者の三澤洋史さんは、2001年9月から新国立劇場で専属の合唱指揮者を務め、1999年から2003年までバイロイト音楽祭で祝祭合唱団指導スタッフとして従事するなど、日本における合唱指揮者の第一人者として知られている方です。また、ミュージカルなどの作曲や台本、演出も手掛けています。

目次が内容をわかりやすく示しているので、掲げておきます。

第1部 こうして僕は指揮者になった 
     第1章 大工の息子が指揮者に  
     第2章 音楽の道へ

第2部 オペラ座へようこそ
     第3章 オペラ座の毎日  第4章 オペラ座のマエストロ 
     第5章 NOと言う合唱指揮者 第6章 燦然と輝くスター歌手

第3部 やっぱり凄かった! 世界のオペラ座
     第7章 聖地バイロイトの想い出 第8章 ベルカントの殿堂ースカラ座 
     第9章 熱い北京の夏ー日中アイーダ

第4部 指揮者のお仕事
     第10章 僕を育ててくれた指揮者たち 
     第11章 世界の巨匠たち、そして理想の指揮者とは?

「オペラ座の毎日」では、ベンジャミン・ブリテン作「ピーター・グライムズ」を例にして、オペラが作られていく過程を垣間見させてくれます。合唱団は、本番1か月前の立ち稽古までには読譜を済ませておくなど、早くから準備をしなければならず、合唱指揮者もその指導に当たる必要があり、たいへんな仕事であるとともに、オペラにおける合唱の重要性が理解できます。

オペラ座のマエストロでは、ネッロ・サンティやリッカルド・フリッツァの逸話や仕事ぶり、著者との友情が描かれ、スター歌手では、フロリアン・フォークトが登場するなど、このあたりはクラシックファンは面白く読めると思います。また、バイロイト音楽祭やミラノ・スカラ座での著者ならではの体験が語られていて、頗る興味深く読みました。

僕を育ててくれた指揮者として、若杉弘さんが登場しますが、パートごとにも演奏させて合わせていくやり方は、副指揮者だった著者の目を見開かさせるものでしたが、オーケストラの音づくりの難しさや面白さが伝わってきました。理想の指揮者として名前が挙がったのは、カラヤンとカルロス・クライバーです。

最後に理想的な指揮者像として、ジャズ分野のトランぺッター、マイルス・デイビスが挙げられたので驚きました。ジャズファンなら喜ぶ記述があるので、その部分を引用します。

『実に細かいサジェスチョンをマイルスは各奏者に出す。「リラクシン」というアルバムでは、美しいメロディーで前奏を弾き始めたレッド・ガーランドのピアノを口笛を吹いて止め、「和音のかたまりでやるんだ」とひとことだけ言う。レッドは考える。そして全く違うイントロを出した時、それに乗って吹き始めるマイルスのミュート・プレイの素晴らしさといったら! このように彼は、自分の言ったことに対して即座に結果を出して見せる。』

【マイルス・デイビスのアルバム「リラクシン」】

僕の持っているのは、日本盤のレコードです。このアルバムに収録されている「You're My Everything」で、三澤さんの指摘するイントロのやり直しが行われています。マイルスはもちろんですが、それにすぐに対応するレッド・ガーランド(p)も素晴らしい。