「【3】次々発覚する新事実。そして予想もしなかったスピード婚!
実は、この女性は吉岡一味斎(よしおかいちみさい)の娘・お園。一味斎とは六助の剣術の師匠であり、彼は六助の人柄と能力を見込んで、娘の結婚相手にしようと決めていた。つまり、六助とお園は顔を合わせたことはないが、許嫁という間柄だったのだ。
突然の思いがけない事実に戸惑いながら、まんざらでもない2人。それはそうと、六助はお園に一味斎の安否を尋ねると「父は同じ家中の者に殺害され、父親の敵を打とうとした妹も返り討ちにされました」と語る。悲しみにくれる2人に、奥の一間から声をかけたのはお幸という、さきほど六助に一夜の宿を求めこの家に通されていた老女。これまた偶然にも、このお幸は一味斎の妻、つまりお園の母親であったのだ。お幸は六助に夫の形見の刀を与え、お園と祝言させるのだった。」
突然の思いがけない事実に戸惑いながら、まんざらでもない2人。それはそうと、六助はお園に一味斎の安否を尋ねると「父は同じ家中の者に殺害され、父親の敵を打とうとした妹も返り討ちにされました」と語る。悲しみにくれる2人に、奥の一間から声をかけたのはお幸という、さきほど六助に一夜の宿を求めこの家に通されていた老女。これまた偶然にも、このお幸は一味斎の妻、つまりお園の母親であったのだ。お幸は六助に夫の形見の刀を与え、お園と祝言させるのだった。」
「貰い子である女子がイエを承継する」というのは、おそらく、「神武天皇と今上天皇は全く同じY染色体」であると信じている人たちには、一生理解出来ない思考だろう。
ここで作者(梅野下風・近松保蔵)は、こうした人たちに対するアンチテーゼを提示している。
すなわち、一味斎は貰い子であるお園をイエの承継者に指名したし、六助は弥三松を我が子のように養育し、幸(お園の母)は「私を母だと思って下さい」と六助に懇願する。
ここにおいて、生物学的親子関係(つまりゲノムの承継)が度外視されていることは明らかである。
これに対し、悪役である京極内匠(微塵弾正でもある)は、ゲノム的思考(結局はレシプロシテにつながっている)から逃れられず、結果的に破滅してしまう。
「実は、内匠はこの地で命を落とした明智光秀の遺児で、明智光秀の亡霊(中村又五郎)に引き寄せられたのでした。光秀は、この池に隠していた名剣・蛙丸(かわずまる)を我が子に託して、自らを滅ぼした真柴久吉への恨みを晴らしてほしいと託します。」
そう、内匠(あるいは弾正)の生物学上の父は明智光秀であり、光秀は、真柴久吉への復讐を内匠に託す。
「【4】運びこまれた老婆の遺体。孝行息子のフリをしていた男は因縁の敵だった!
折からここへ、杣(そま:きこり)の斧右衛門(おのえもん)が仲間たちと共に、母親の死骸を運びこみながら「この敵を討って欲しい」と懇願する。その死骸をよく見ると、なんと弾正が孝行したい母だと言い同行していた老女であった! 弾正は六助の優しさにつけ込み、斧右衛門の母を自分の母だと嘘をつき、六助に勝ちを譲ってもらうという計画を実行。用済みとなった老女を殺害したのである。しかもお幸の所持していた人相書と、お園が所持する妹の死骸に落ちていた臍緒書(ほぞのおがき:今でいう出生証明書)から、弾正こそ、一味斎を殺害した京極内匠という男であることがわかる。怒りにうち震える六助は、一味斎とその家族であり妻となったお園の敵討ちを遂げるため、衣服を改め、敵の後を追うのだった。」
ところが、久吉が許可した仇討ちによって、内匠は命を失うこととなる。
・・・というわけで、「彦山権現誓助剣」のポトラッチ・ポイントは、3人(一味斎、お菊と斧右衛門の母)を殺害した代償として内匠は命を失ったので、5.0:★★★★★。