今年はブロードウェイミュージカルの来日公演が目白押しだが、長い歴史を誇る「シカゴ」はその筆頭に挙げられる。
私は、ミュージカルはもちろん映画も観ていない純粋な”未修者”ということで、先入観なく観た。
すると、これが何と、刑事裁判にまつわるいわば身近な話だったのである。
法的な問題については、知財法の分野で著名な福井健策先生がリーガル・アドバイザーとして関与していらっしゃるのだが、それでもポリコレ的な問題点を指摘することが出来る。
(1)弁護士に対する不当な偏見の助長
まず、挙げるべきは、「被告人に虚偽の証言をさせる弁護士」、ビリー・フリンの問題である。
アメリカ法では被告人にも証人適格が認められるので、殺人罪の被告人:ロキシー・ハートが宣誓の上「正当防衛」や「妊娠」などの虚偽の証言を故意に行うと、当然偽証罪が成立するはずである。
もちろん、弁護人のビリーにも偽証罪の教唆が成立するはずであり、こんなことをする弁護士は、少なくとも今日では到底考えられない。
なので、この設定を真に受けると、「弁護士は犯罪まがいのことをする悪い人間だ」という不当な偏見を抱いてしまう恐れがある。
(2)外国人(移民)差別
次に、外国人(移民)差別の問題が挙げられる。
具体的には、ハンガリー人の囚人:ハニャックの扱いが問題となる。
彼女は、"Not Guilty" 以外の英語を話せず、セリフは意味不明の言葉として表現される。
彼女は、おそらくは資金不足のために「国選弁護人」しか頼むことが出来ず、結果的に絞首刑となる。
この際、「ハンガリー人の綱渡り」という描写があり、絞首刑後にロープが登場するのだが、これはさすがにポリコレ的に危ないだろう。
ハンガリーの人は、怒りを感じるかもしれないからである。
(3)国選差別
さらに問題点を挙げると、
「私は無償の国選弁護人なんだ。有罪という主張しか考えられない」(記憶に基づいて再現しているので、ちょっと不正確かもしれない)
というセリフには、”国選差別”の印象を抱く。
「国選弁護人は無償で働くんだから、どうせ大した弁護活動はしないでしょ」という偏見のあらわれのように感じるのである。
・・・ところで、このミュージカルでは、「演技性人格障害」が疑われる人物が主要キャストを務めている。
筆頭はやはりロキシーで、彼女は幼い頃から「自分の名前が新聞に載ること」を夢見ており、その夢は実現された。
彼女の殺人事件のことが、一面で
”ROXY ROCKS CHICAGO”
と大々的に扱われたからである。
有頂天の彼女は、自分が無罪になるかどうかという最重要の問題について、
「そんなことはどうだっていいの」
と言ってのけてしまう。
同房の殺人犯:ヴェルマも似たような人種であり、さらに言えばビリーもスター気取りの悪徳弁護士である。
このミュージカルのテーマは、「演技性人格障害」なのではないか?