30年ほど前は、「就職協定」なるものがあって、10月1日が「採用内定開始日」、一般企業では7月1日が「会社訪問開始日」とされていた(ネットで検索してもなぜか「7月1日」という日が出て来ないが、間違いない。)。
要するに、7月1日より前は採用を目的とした接触を禁じるという内容の、大学と経団連との紳士協定が存在したのである。
だが、これを遵守する企業の方はごく僅かであり、現在のヨンダイが行なっているような「青田買い」が横行していた。
ちなみに、民間企業の中で最も人気が高かったのは金融機関であり、とりわけ長期信用銀行(特に興銀)は都市銀行(今でいうメガバンク)を上回る人気を誇っていた。
金融機関を含む大手企業は、おおむね5~6月中に内々定を出した後、7月1日(及び8月1日)に学生を召集し、10月1日に内定式を開催するところが多かった。
「1950年代半ばに大型景気が到来すると、早い時期から就職・採用活動が活発化しました。これがいわゆる企業による学生の青田買いと言われるものです。景気が良くなるにつれ企業の選考早期化に拍車がかかり、制定された就職協定は遵守されることはありませんでした。
このような企業の採用活動に対し、1961年に就職問題懇談会は新たな就職協定の改定を決議しましたが、青田買いの勢いは衰えることはありませんでした。大手企業は7月末に採用活動を終了しているような状況だったのです。
就活解禁日には、学生を拘束し、他社の応募を阻む動きをする企業も現れました。1970年代~90年代も採用企業の学生の青田買いは続き、文部省は経済団体や企業に協定遵守を申し入れましたが、事態は元には戻らず就職協定では企業の採用活動を制御できませんでした。」
こうした状況なので、「就職協定」を順守して「会社訪問開始日」以降に会社訪問をすると、「うちは今年の選考は終了しました」と門前払いを食らうか、「採用する気のない、形だけの面接」を受けて無駄に時間を費やすか、ということになってしまう。
つまり、正直者が馬鹿を見るのである。
(これを止めることが出来たのは国(政府)しかないと思われるのだが、官公庁も「青田買い」に奔走しており、毎日学生を深夜まで拘束するのも珍しくなく、「就職協定」を守っているのは(旧)文部省、(旧)労働省と(試験を主宰する)人事院だけといった状況である。)。
当然のことながら、学生は、「青田買い」に協力しなければ就職先を失うという「恐怖心」を抱くことになる。
同時に、「表向きルールが存在しても、それを厳格に守ると馬鹿を見るので、裏で抜け駆けする」という”大人のやり方”というか一種の世間知を学ぶこととなる(実際、これは入社後も至るところで実践されている。)。
ところが、これによって学生は、意図せずして、社会における「クソな競争」にエントリーしてしまうのである。