明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 

一日  


午前9時過ぎ、いつも採り立てのピーマンを届けてくれるSさんが迎えに来る。真向かいの小学校でSさんが育てている菊を撮影して欲しいと頼まれている。声だけ聞いていると坂上二郎にしか聞こえない78歳のSさんは、30年もの間、小学校の植物やウサギその他、ボランティアで面倒をみている。毎年小学生がSさんに感謝状を送ることになっているそうだが、この小学校の図工室でお見合いだか結婚式だかをしたと聞いているから、よほどの縁である。Sさんの案内で校庭に入り、生徒が育てた菊を撮り、学校の裏にある、30年の間、拠点としている手作りの小屋に案内される。プレハブ製の納屋には、様々な道具に溢れ、手製の階段をミシミシと上がっていくと、工事現場用のパイプで組まれ、床に板を張ったビニールハウスになっており、丹精をこめた菊が整然と並んでいる。作業スペースには、熱さ対策の大きな扇風機まであり、不思議な空間。まるでオペラ座の怪人だが、ここに巨大な鐘がぶら下っていれば、ノートルダム・ド・パリである。ロープに飛びつき、満面の笑みで鐘を鳴らすSさんを想像してしまった。 撮影も終わり、屋根裏の散歩者の慎重さで階段に向かうと、私の体重で床がベキッと不吉な音。幸いSさんには聴こえなかったようで、内緒にして階段を降りる。裏庭には、30年にわたる成果、ピーマン、茄子、苦瓜、ヘチマ、枇杷、黒松の植木などなど。懐かしい風呂用ヘチマを土産にもらって帰宅。

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