最近TVを見ないので中学生のいじめについての話は知らなかった。 私の子供の頃にも当然のようにいじめはあったが、大分趣が違う。 東京の下町。中学3年の時である。二人の生徒を子分のように引き連れているNという生徒がいた。こいつの万引きが大胆で、ズボンの中に釣竿を入れてくるし、一人を背負い、その間に何十枚ものLPレコード、時にはプレイヤーやラジカセまで挟んで持ってきてしまうのである。初め笑って聞いていたが、子分の一人が、実は無理矢理やらされ苦しんでいることが伝わってきた。分け前を母親に見つかり、以来、そのたびに捨てているという。そこから密かに実態が囁かれ、1ヵ月後の放課後、先生、女子がいない教室で、男子全員が見守る中、二人を話し合わせた。普段大人しく無口だった子分は、母親とNの板ばさみでよほど辛かったのであろう。感極まり掴みかかっていった。取っ組み合いになったが、あまりの迫力にNは押され、鼻血が出た時点でストップ。今までのことをみんなの前で謝り、泣きながら頭を下げた。先生と女子のいない教室で一件落着。 翌日から何事もなかったように元に戻った。所詮子供である。一週間も経つとNも普通にはしゃいでいたが、あの件に関して誰も口にすることはなかった。 想いだしても感心するのは、当時の子供の正義感ではない。万引きを止める奴など誰もおらず、むしろそんな物はなかった。それより子供が恥じという物を知っており、武士の情けというものも理解していたということである。現在に至ってみると、世間はどちらかというと恥知らずな大人に溢れており、東京の特産品だと思われた“痩せ我慢の美学”というものも、製造中止になって久しいようである。
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