架空の地名ではあるが、鏡花のいわゆる房総物といってよいのだろう。丁度今頃梅雨の季節が舞台である。冒頭、河童が実に陰気に“しょぼけかえって”登場する。それに加え逢魔が時から夜にかけての話である。全編ほぼドンヨリしている。しかし物語の発端となる海辺のシーンは快晴であり、河童はノンビリ日向ぼっこをしている。 晴れた海辺といえば、三島由紀夫へのオマージュ展では『潮騒』を手掛けた。テーマが『男の死』で、あまりに殺伐としているので健康的な女性が登場する作品として選んだのだが、海女のシーンばかり多くても、と没にしたカットがある。海辺の一風景として流用しても良いのではないか。そう思ってチェックしてみた。しかし程なく、使い物にならないことに気付いた。 物語の発端とは、河童が海辺でノンビリしている所に、東京からの旅行者が現れる。その中の若い娘の着物のすそからのぞく白いふくらはぎに、ムラッときた河童が、そっと尻を触ろうとする。ここから事件が始まるのである。そう考えると、その辺りに濡れて身体の線が露になった海女がいたなら、河童はまずそちらに行ってしまうだろう。再びボツとなった。 仮にオブザーバーとしてのKさんに意見をきいても、同じ答えが帰ってくるに決まっている。
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