明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



河童は鎮守の杜の姫神様に気をつかって、案山子の着物を剥いで着てくる。鏡花のことであるから、主役の着物がどんな模様だ、と書いていないのは無地だろうと思っていたが、20数センチほどの河童が、濡れて甲羅の形どころか色まで透けるような生地にしたい、と考えると、布の質感に期待はできない。となると無地ではあまりに愛想がない。正絹の端切をネットにて注文。河童のサイズを考えて小紋を選んでみた。 もうほとんどのカットの背景は完成していて、あとは異界の住人を参入させるだけである。河童が自分を棚に上げ、人間に復讐をしてもらおうと鎮守の杜に出かけてくるのだが、人間共が、自分たちが街中でしゃもじやスリコギを持って踊ってしまったり、こんな妙なことをしてしまうのは、神様に障ったせいであろう、と奉納の踊りを捧げる。ととたんに河童の機嫌がなおり帰っていくことになる。翁はカラスに付き添いを命じる。陽も暮れかかり街は行水時である。娘の尻を触ろうとしてケガをした河童が、行水中の娘のスネに迷って落ちてしまいかねないからである。このクライマックスを迎えるあたりがかなり性急であり、どう処理してよいか決めかねている。面白い描写満載ではあるが、数行ごとに画にしているスペースはない。子供の頃は、こうして機嫌が急に治ると“今泣いたカラスがもう笑った♪”とからかわれたものである。 去年の今頃だったろうか。ファンのR子さんに性転換して今は男だ、といわれてすっかり信じた60歳過ぎの陸(おか)河童がいた。何をバカなことを、とならずに私の方を向いて「知ってたの?!」といったときは笑うこともできず唖然としてしまった。それからしばらく下を向いて死んだフナみたいな顔をしていたが、「そんなわけないだろ」といってあげる人は誰もいない。そのほうが大人しくて助かるし、断然面白いからである。しかし撮影の手伝いに房総へ行ってもらうことになっていた私は「冗談に決まってる」。といってしまった。そのとたんの満面の笑みにすぐ後悔してしまい、今だに後悔しっぱなしである。R子さんにはそろそろ、次の妖怪封じの護符発行をお願いしたいところである。

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