写真の古典技法の一つである『オイルプリント』は紙にゼラチンを塗布したゼラチンペーパーを自製しなければならない。逆にいえば、和紙であろうとなんであろうと、好きな紙を選んで使える、ということでもある。この難関を突破さえすれば、扱いに注意を要する薬品を使用する点を別にすれば、ブラシで油性絵の具を叩いて画像を出す点など、子供でも面白いに違いない。 私は古書店で買い集めた技術書を元に制作を始めたが、テキスト通りにやっているつもりでも、一向に画があらわれない。欠けたページがあるのではないか、と何度ページを確認したことであろうか。当時、オルタナネイティブ・プロセスなどという言葉も一般的でなく、相談する人もいない。結局は用紙に塗布するゼラチンの具合がまずは肝心なことが判ってくる。精製されたゼラチン、菓子用のゼラチン、色々試したが、それぞれ使えることは判ったが、問題は気温が高いとゼラチンが硬化せず、厚くひくことが困難なことであった。ゼラチン層が薄いと満足する諧調が出ない。よって一年分の用紙を冬の間に作りためなければならなかった。西武百貨店と京都造形芸術大での過去二回のワークショップでも、可哀そうなことに、冬に暖房を切った中でゼラチン紙の制作を行った。 当時のテキストには特に気温に触れられていないのが不思議であったが、現在写真用とされるゼラチンは、その他のゼラチンに比べ硬化しやすいことが判った。何しろ普通にゼラチンペーパーが販売されていた時代から考えれば常識も違う。顔料を使う写真でなければ芸術にあらず、などという今となっては考えられない論もあったのが大正から昭和の始め頃の時代である。 最近は湿版写真にまい進中の田村写真の田村さんに、近日中のゼラチンペーパー試作をお願いした。ゼラチン紙はオイルプリントにとどまらず、その他のオルタナネイティブ・プロセスに使用できる。田村印のゼラチンペーパーがあれば、色々試みる人も現れることであろう。ばらつきのないゼラチンペーパーは三色分解によるオイルプリントのカラー化にも不可欠である。
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