明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 

陰影  


先日お邪魔した地元の陶芸家の先輩の工房には実家に帰るたびに遊びに行ったが、冗談でも一度もロクロの前に座ることはなかった。黒人ジャズ、ブルースシリーズから作家シリーズに転向してからも黒人は作らなかった。背景を先に撮影し、完成した人物をそこに配するようになってからは、片手に人形、片手にカメラで、というアナログな撮影は一度もしていない。あらゆる方面にけじめを付けずダラダラな私だが、こういうことだけは頑なである。であるから陰影を無くすならずっとその手法のみで行くつもりであった。しかし最初の三遊亭圓朝の3作目にして早くも寄席の前を行く圓朝に、寄席から漏れる灯りを当てたくて身をよじり、ゲンセンカン主人では半裸の女に行灯の灯りを当てたくて耐えられず。 そもそもが自分で粘土で作り出した陰影を、さらにライトを当てて強調して描ける、という写真のメリットを享受し作品化してきた。頭で考えた決めごとより、創作上の快楽を優先し、陰影を表現したい時は、我慢するくらいなら陰影を描こう、と決めた。先日書いた大リーグボールを相手によって投げ分けよう、という話である。 寝床で数年に渡って、ようやく完成した太宰治の首に、ライト一灯を当て、これだけ苦労させられたのだから、これから私に、創作の快楽で返して貰わないとならない。そもそも太宰の表情に陰影出さずに済まそうっていうこと自体が困難である。






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