《全国防災対策費についての考え方(概要)》
復興予算の中から振り分ける形の「全国防災対策費」の趣旨・目的等を書いた内閣府防災担当のWeb記事がある。関係個所のみを抜粋してみる。
○被災地域と密接に関連する地域において、被災地域の復旧・復興のために一体不可分のものとして緊急に実施すべき施策
○東日本大震災を教訓として、全国的に緊急に実施する必要性が高く、即効性のある防災、減災等のための施策
緊急性
近いうちに発生が懸念される地震・津波(三連動地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝地震)等の災害に備えた施策等
即効性
○ 効果の発現が直接的かつ無条件であること
○一連の施策のパッケージ化
○ 早期の効果発現(少なくとも5年以内) 等
事業規模
○全国的な緊急防災・減災事業 1兆円程度
先ず「全国防災対策事業」実施地域は被災地域と密接に関連する地域とし、その事業は、被災地域の復旧・復興と一体不可分性を備えていて、復旧復興にとって緊急性を要することを条件としている
いわば被災地域の復旧・復興に一体不可分に関わって緊急に必要とされている事業でなければならないと規定している。
次に被災地外の実施事業自体に関しても緊急性を必要とし、その緊急性を満たすために少なくとも5年以内に効果発現が見込まれる、即効性ある防災・減災等の事業でなければならないと厳しく条件付けている。
では、今一度「全国防災対策費」が被災地域の復旧・復興と一体不可分性と緊急性を抱えた、どのような緊急性ある事業に使われたかを見てみる。
《「流用」が指摘された主な事業》(時事ドットコム/(2012/10/18-22:50)
(10月)18日の参院決算委員会で復興予算からの「流用」が指摘された主な事業は以下の通り。
一、反捕鯨団体による調査捕鯨妨害対策費(農水省) 23億円
一、北海道、埼玉県での受刑者の職業訓練費(法務省) 2800万円
一、国内立地推進事業費補助金(経産省) 2950億円
一、全国防災対策費(国土交通省など) 1兆579億円
一、リチウムイオン蓄電池導入支援事業費(経産省) 210億円
「全国防災対策費(国土交通省など)1兆579億円」が具体的にどのような対策・事業に使われたのか分からないから、直ちに評価できないが、他の項目は被災地域の復旧・復興と一体不可分性・緊急性を備えていると同時に対策・事業自体に防災・減災に関わる緊急性を抱えていると果たして言えるのだろか。
一体不可分性・緊急性に該当しないということなら、一般会計から支出すべきだったろう。一般会計から支出しないで復興予算を流用し、流用することで浮く一般会計支出分を他の対策・事業に回すといった錬金術師紛いのことをしていないとも限らない。
次の記事――《復興予算 バラマキ色濃く 河川整備7割被災地外》(TOKYO Web/2012年10月14日 07時02分)に以下の記述がある。
〈国土交通省によると、復興予算が充てられた本年度の河川事業費は、復興庁からの計上分も含め477億円。このうち被災地で使われるのは青森、宮城、茨城、千葉各県分の計137億円。全体の7割に当たる残り340億円は、徳島県の那賀川、熊本県の緑川、新潟県の信濃川など、その他の地域に支出された。〉――
勿論、被災地外の河川事業は必要不可欠であろう。だが、被災地域の復旧・復興に直接的に役立つ一体不可分性と緊急性を抱えているようには思えない。
役人だけが抱えていると見えるのだろうか。
まさに一般会計で補うべきを補わない復興予算からの流用そのものであろう。
記事は、〈復興に名を借りたバラマキ型公共事業復活の構図が、色濃く浮かぶ。「減災」が目的に加えられた消費税増税も、同じ道をたどると懸念する識者もいる。 (森本智之)〉と危機感を見せている。
この危機感は記事自体が触れている、〈今夏成立した消費税増税法では、付則18条2項で「成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に重点配分する」〉の規定を根拠としている。
具体的には、「消費税増税法」の付則18条2項は次のようになっている。〈税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する。〉・・・・
言っていることは尤もらしい、そうかなと思わせる内容となっているが、果たして「財政による機動的対応」を可能とした時代があったのだろうか。
これまでの日本はその多くを赤字国債を元手とした公共事業依存型経済を主流とし、それは官僚を共犯とした政治家の地元利益誘導によって経済効果を伴わない過剰投資・過大投資となって現れ、益々国家財政を借金体質としていった。
その現在の結末としてある消費税増税であるはずである。
いわば“財政の機動的対応”を可能としていなかった、不能としていた、あるいは機能不全としていたことの反映としてある先進国屈指の現在の財政悪化であり、その尻拭いとして持ち出した消費税増税であろう。
上記以外の、一体不可分性をそこに見て、緊急性を要すると見做したはずの事業を見てみる。
税務署耐震改修費(約12億円)
アジア・北米地域等との青少年交流(約72億円)
沖縄の国道整備(約6000万円)
自殺対策(37億円)等――
多分、被災地以外の税務署の耐震改修を緊急に行えば、そのことが一体不可分的に直ちに被災地の復旧・復興に役立ち、被災地住民の生活の現状以上の向上に貢献していくと見たのだろう。
結構毛だらけ、猫灰だらけである。
驚いたことに各府省がこれまでは一般会計扱いの事業を復興予算に付け替えて継続を図る流用まで行なっていたと伝えている記事がある。《復興へ付け替え横行 省益優先 予算奪い合い》(TOKYO Web/2012年10月17日 朝刊)
画像を見た方が分かりやすいから、画像を無断利用させて貰うことにする。
マスコミによって復興予算の流用と指摘されている各防災対策と比較したなら、被災地域復旧・復興と一体不可分性は抱えてはいないが、抱えていない以上、復興予算を使うべきではないが、緊急性を要するはずの防災対策として公共建造物の耐震化がある。だが、その緊急性に反して一定程度しか進んでいない。
《耐震基準満たす官庁施設 61%にとどまる》(NHK NEWS WEB/2011年10月18日 5時26分)
会計検査院による4012棟を対象とした調査。
国の「耐震促進法」は中央官庁や出先機関が入る建物の耐震診断を行って、必要に応じて補強を行うよう定めているが、このような施設のうちの一定の大きさ以上の建物4000棟余りのうち、必要な耐震基準を満たしているのは2449棟、全体の61%。
483棟は震度6強以上の揺れで倒壊の危険性。
この危険性の範囲内の最高裁判所は大理石を使った構造上、補強工事が難しく、地震で使えなくなった場合にどのように業務を続けるかの計画もできていないとのこと。
広島市にある「広島地方合同庁舎2号館」は、災害時に道路の応急復旧などを担う国土交通省の出先の中国地方整備局が入っているが、昭和47年の建設以降、耐震補強が行われておらず、新庁舎の建設のメドも立っていない。
国立病院などの医療機関280カ所の調査では、災害で停電した際に必要な電源を確保できていない施設が47%の132施設。
患者の生命(いのち)を守るとう点で最大緊急性を要するはずだが、国交省は沖縄の国道整備に復興予算を使っている。
名古屋市にある「国立病院機構名古屋医療センター」は、南海トラフ巨大地震の際には地域の拠点病院として電源確保が72時間程度必要とされているが、14時間程度の燃料しか備蓄していないため、燃料タンクの増設などを目下検討している。
要するにそれ程緊急性を痛感していなかったということになる。
記事は次のように締めくくっている。〈国の施設に地震への備えが不足していると、大災害での応急活動に影響を及ぼすことから、会計検査院は、重要度や緊急性を考慮して計画的に耐震化を進めるよう、国に求めています。〉――
緊急性を要するとして一般会計から支出して公共施設の耐震化対策を進めているだろうが、しかし現状の耐震化の進捗率から見たこの程度にとどまっている緊急性に反して被災地復旧・復興と一体不可分性も緊急性も抱えていない対策・事業に復興予算を流用している見せかけの緊急性の充足は政府・府省の“財政の機動的対応”の不能、あるいは機能不全を示す証拠としかならないが、会計検査院にこのような指摘を受けるということ自体にしても、同じく政府・府省の政治・行政の不能、あるいは機能不全を示す証拠となるはずである。
的確な使い道とはなっていないということである。
このことはその他の公共施設の耐震化についても言えるはずだ。
《公立小中学校の耐震化85% 倒壊恐れなお3545棟》(MSN産経/2012.8.2 21:21)
文科省の調査。全国の公立小中学校の校舎や体育館などの耐震化率が4月1日時点で84・8%(前年比+4・5ポイント)。100%達成した市町村は4割超。
進んでいる理由。〈昨年3月の東日本大震災を受け、予定を前倒しして耐震化を実施する動きが進んだためとみられる。〉
84・8%と言うと、かなりの進捗率に見えるが、大規模地震で倒壊の恐れがある施設は3545棟もあると言うから、無視できない数の緊急性からの取り残しであって、このような取り残しも、被災地復旧・復興と一体不可分性も緊急性も抱えていない全国防災対策に復興予算を流用させている予算の使い方と相互反応する“財政の機動的対応”の不能、あるいは機能不全の一端を示す証拠となるはずだ。
市町村単位では、耐震化率100%達成自治体は750市町村、全体の42・1%、前年比+9・3ポイント。
50%未満自治体65市町村(全体の3・7%)
震度6強の大規模地震で倒壊の危険性が高いとされる施設は3545棟(前年比-1069棟)
都道府県単位では、耐震化率が最も高いのは東海地震への警戒が強い静岡県の98・8%。
次いで宮城県と愛知県(いずれも98・0%)、三重県(96・8%)、東京都(96・7%)となっている。
一部で耐震化が進まない理由を文科省は危機感の低さや資金面、政策の優先順位などを挙げているという。
〈文科省は平成27年度末までの全棟耐震化を目指し、自治体への支援を実施しており、今年度末には90%に達すると見込んでいる。〉
同じ国がカネを出すのなら、また被災地復旧・復興と一体不可分性を抱えていなくても、復興予算から支出する「全国防災対策費」は青少年・児童の生命(いのち)を守るという観点から先ずは学校耐震化に集中的に投資するのが、有効な“財政の機動的対応”というになると思うが、そうはなっていない。
堤防の耐震化も進んでいないと報道している記事もある。《堤防の耐震、河川4割、海6割で不十分 検査院指摘》(MSN産経/2012.10.17 21:31)
これも検査院の指摘で、宮城、岩手、福島など東日本大震災の主な被災地を除いた東海・東南海・南海地震で大きな被害が予想される15都道府県が調査対象。
記事。〈耐震工事が必要なのに未実施だったり、工事の必要性すら調査していない堤防もあった。耐震の必要性は東日本大震災以前の想定や指針に基づいたもので、巨大地震に備えた工事が必要な堤防はさらに多いとみられる。検査院は国土交通省などに計画的な整備を求めた。〉・・・・・
平成19年、国交省が耐震、津波調査の指針を示し、都道府県に川を遡上(そじょう)する津波の高さなどを分析するよう求めていた。
今年3月時点で分析を行っていたのは4府県のみ。
11都道県は費用面などから未対応。
調査対象となった堤防計約2169キロのうち、分析に基づき工事を終えたのは約3.8キロ(全体の0.2%)。
対策が必要なのに工事が終わっていない約137キロと、必要性の有無が不明な約687キロを合わせると、全体の38%の堤防で地震、津波対策が不十分。
中央防災会議の被害想定や液状化状況をもとに検査院が調査。大震災時には少なくとも6道県の90河川で氾濫(はんらん)の可能性。
海岸堤防では計約3408キロのうち、約2022キロで堤防点検が不十分。耐震性不明。
工事の必要がありながら未実施の堤防は84.4キロ、海岸堤防では全体の61.8%で災害時の効果を疑問視。
同じく検査院調査で、約812キロで震災時に想定される最大規模の津波の高さより堤防が低い状態。
この体たらくは赤字国債を元手とした公共事業依存型経済の不完全さを示すと同時に、政府・府省の“財政の機動的対応”の不能、もしくは機能不全をも示す事態であるはずだ。例え地方の財政責任であっても、国のカネ不足が影響している地方のカネ不足でもあるだろうからである。
以上見てきたことから窺うことができるのは国の予算支出に関わる一体不可分性とか緊急性等の判断がいい加減であること、いい加減であるからこそ、“財政の機動的対応”の機能不全を常態としているということであろう。
だからこそ、巨額の財政赤字を成果とすることができた。探しに探したなら、ムダは至る所にあるはずだ