野田内閣が10月26日(2012年)、今年度予算の予備費を主な財源とした国負担最大4200億円、地方自治体負担分合計で事業費総額7500億円超の緊急経済対策を閣議決定した。
地方自治体負担分は3300億円だから、対策効果が出なかったら、政府の責任は重い。
果たして効果は期待できるのだろうか。
現在進行中の復興対策を例に取ると、予算の流用に目をつぶったとしても、芳しい復旧・復興の姿を取らない予算執行効果の状況から判断して、「緊急」と銘打っていたとしても、その効果につい疑いの目を向けてしまう。
先ず次の記事から見てみる。《緊急経済対策:最大4226億円、閣議決定》(毎日jp/2012年10月26日 12時36分)
後退懸念が広がる景気の下支えを狙いとした緊急経済対策だそうである。
と言うことなら、当然、即効性が求められることになる。即効性がなければ、景気の下支えにならないし、改めて予算案を成立させる必要のない今年度予算の予備費を使ってまでして行う緊急性に反する経済対策ということになる。
どのような方法を以って対策とするのかというと、〈首相が11月中のとりまとめを指示した中で特に緊急性が高い事業〉に位置づけている野田首相掲揚の成長戦略「日本再生戦略」施策の前倒しや東日本大震災の復興などを柱に据えているという。
しかし後者の東日本大震災の復興は復興予算を宛てがった対策が厳格な計画(?)に基づいて既に進行中であるはずである。にも関わらず、緊急経済対策予算と二本立てとするということは、復興予算事業が計画に応じた効果が出ていない、あるいは計画の範囲内の即効性を見い出していないということを政府自らが証明することになる。
事実、復興予算の流用問題を発端として復興の遅れを指摘する声が被災自治体内外から噴出している。
復興予算に基づいた実施事業がさしたる効果を出していないようなら、内閣府は実質国内総生産(GDP)を0.1%強押し上げ、4万人の雇用創出につながると試算しているそうだが、いくら緊急経済対策と銘打とうとも、試算に反して効果は期待できないことになりかねない。
特に記事が取り上げている対策事業の内訳のうち、iPS細胞による再生医療などの研究開発費に38億円、 中国の監視船が領海侵入を繰り返す沖縄県・尖閣諸島周辺などの領海警備強化のため、海上保安庁の巡視船やヘリコプターの購入を前倒しする費用170億円が果たして緊急経済対策の“緊急”に適合するのだろうか、奇異に感じた。
緊急経済対策と銘打ちながら、いわば流用に当たるのではないかという疑惑である。
閣議決定された経済対策だから、首相官邸HPにアクセスしてみた。
《経済対策の取りまとめに向けて(予備費の使用決定に際して)》と題して、PDF記事で紹介している。
報告者は誰なのか、口先前原が就任しているはずだが、「経済財政政策担当大臣」と肩書きが記されているのみで、報告者の顔が咄嗟には見えてこない。政権がそう遠くないうちに変る可能性を考慮して、名無しにしたのだろうか。
前書きは次のようになっている。
〈景気が弱めの動きとなる中、景気下押しリスクに対応し、デフレからの早期脱却と経済活性化に向けた取り組みを加速していくことが喫緊の課題となっている。
10月17日の内閣総理大臣指示に基づき、遅くとも11月中を目途に策定する経済対策の一環として、本日、現下の経済情勢を踏まえ、緊要性の高い施策について、予備費の使用を閣議決定した。これにより、「日本再生戦略」の重点3分野の施策のうち緊要性の特に高いものを加速するとともに、被災地からの要望の強い復旧・復興に必要な事業及び大規模災害に備えた防災・減災対策を緊急に推進することが可能となると考えている。
これらの施策の効果が早急に発現するよう、各府省庁において、施策を速やかに実施に移し、その進捗管理を確実に行っていくことが重要である。また、政府として、引き続き、経済対策の策定に向けて取り組んでまいりたい。〉――
この報告書のどこにも「緊急経済対策」という言葉はないが、「喫緊の課題」、「緊要性の高い施策」、「施策効果の早急な発現」と続けば、上記「毎日jp」記事が伝えている「緊急経済対策」ということになる。
記事自体がこの報告にも基づいて書いているのだろうから、当たり前のことだが、記事が伝える緊急性を符合させている「緊要性の高い施策」の云々ということであろう。
簡単に言うと、現況の「デフレからの早期脱却と経済活性化」にカンフル剤となる経済対策の実施ということになる。
このことを逆説するなら、現況の「デフレからの早期脱却と経済活性化」にカンフル剤とならない事業は緊急経済対策に値しないということである。
【カンフル剤(カンフル注射)】「活性を失った物事に対して即効的回復効果を期待して行う事柄」(『大辞林』三省堂)
言葉の意味としての「即効的回復効果」とは報告書の「施策効果の早急な発現」に相当する。
だとすると、先に奇異に感じたとして、「iPS細胞による再生医療などの研究開発」と「海上保安庁の巡視船やヘリコプターの前倒し購入」が果たして〈景気が弱めの動きとなる中、景気下押しリスクに対応し、デフレからの早期脱却と経済活性化に向けた取り組みを加速していく〉ための〈喫緊の課題〉であり、「緊要性の高い施策」と言えるのだろうか。
また緊急経済対策の条件に適うと見做して両者に予算を投入したとしても、経済的に「施策効果の早急な発現」を果たして期待できるのだろうか。
これらに対する予算投入がムダだとか、必要ないと言っているのではない。特に「iPS細胞による再生医療などの研究開発」は「施策効果の早急な発現」が望みにくい息の長さを必要とする研究開発であって、そうである以上、当然、息の長い政府支援が不可欠となる政策課題であるはずである。
いわば緊急経済対策に入れるべき条件を備えているとは言い難い。次年度予算では空白が生じるということなら、同じ今年度予算の予備費を使って、緊急経済対策とは別の項目で予算を投じるべきだろう。
このことは「海上保安庁の巡視船やヘリコプターの前倒し購入」についても言える。
「喫緊の課題」、「緊要性の高い施策」、「施策効果の早急な発現」を条件付けて緊急経済対策とし、デフレからの早期脱却と経済活性化のカンフル剤を担わせる以上、これらの条件に厳格に適合する厳格な線引きが政策選別に課せられるべきである。
被災地の復興・復旧を目的とした復興予算でありながら、線引が厳格でなかったから、被災地の復旧・復興に直接的な影響を持つものではない、被災地外の対策・事業にまで流用された。
一度融通を利かせて目的外の流用が成功すると、必ず慣習化する。
慣習化 の継続としてあった復興予算の流用ということもある。
「iPS細胞」の名前を入れれば、ノーベル賞を取ったばかりで、経済対策に尤もらしさを与えると考えたとしたら、緊急経済対策の緊急性に反することに変りはないのだから、見せかけの効果という夾雑物を紛れ込ませたことになる。
こういった姿勢が入り込むこと自体が既に予算編成が厳格な運用となっていない証拠となる。あるいは厳格な線引きを経た事業・対策の選択となっていない証拠となる。
何らかのメリットを見つけるとしたら、予算規模を大きくすることで、政府が真剣に経済対策に取り組んでいるという姿勢のアリバイ作りぐらいのものではないだろうか。