学童保育はメリットだけで、デメリットはないのか

2013-08-21 08:34:52 | 教育


 
 利用者数に関しては記事の題名が全てを物語っている。《学童保育の利用者 過去最多に》NHK NEWS WEB/2013年8月16日 11時8分)

 学童保育の指導員らで作る全国学童保育連絡協議会が今年5月、全国の市区町村を通じて調べた。

 親が仕事などから帰宅するまでの間、放課後の児童を預かる学童保育利用児童数約88万8700人。昨年同時期比約4万1700人増。

 小学校や児童館等を中心とした学童保育施設数は2万1600カ所、昨年比約800カ所増。これも過去最多。

 政府が子育て支援策の一環として施設の拡充を目指している一方で、利用を希望しながら、定員が一杯で空きを待っている待機児童は最少見積もりで約6900人。前年比+1000人だということだから、施設拡充が追いついていないということなのだろう。

 その原因として、〈都市部を中心に施設の設置場所や児童を見守る指導員をどのように確保するかが課題になっていて、現在、厚生労働省が検討を進めてい〉るという。

 詳しくは「全国学童保育連絡協議会」HPの《学童保育の実施状況調査の結果》に載っているが、2010年1月政府策定の「子ども・子育てビジョン」で、学童保育の受入児童数を2017年度末までに129万人に増やす目標を立てていると記している。
 
 要するに政府お声掛かりにも関わらず、施設拡充や指導員確保を上回る勢いで学童保育希望者が年々増加していて、世の中は学童保育志向の傾向にあると言い替えることもできる。

 全国学童保育連絡協議会「学童保育を行う施設の増加に伴って利用する子どもも増えたとみられる。学童保育は子どもの居場所作りだけでなく子育て中の親の安心にもつながるので国や自治体は整備を急いでほしい」――

 「子どもの居場所作り」、「親の安心」――学童保育のいいこと尽くめを言っているが、デメリットは何もないのだろうか。

 学童保育では預かった子どもにどのような時間を提供しているのか調べてみた。『平成23年度 かながわ子ども・子育て支援推進調査研究事業』のHPから見てみる。

 《家庭教育を補完する放課後児童クラブと小学校教育との連携に関する調査》

 「放課後児童クラブ」とは学童保育の変更名称で、多分、内容の充実を図っていくうちに「学童保育」では幼稚に見えて、より高級感のある尤もらしい名前をつけたくなったといったところかもしれないが、中身が伴わなければ、高級感も意味を失う。

 「活動内容」について次のように記載している。

1.子どもの健康管理、出席確認をはじめとした安全の確保、情緒の安定を図ること、
2.遊びを通しての自主性、社会性、創造性を培うこと、
3.子どもが宿題・自習等の学習活動を自主的に行える環境を整え、必要な援助を行うこと、
4.基本的生活習慣についての援助、自立に向けた手助けを行うとともに、その力を身につけさせること、
5.活動状況について家庭との日常的な連絡、情報交換を行うとともに、家庭や地域での遊びの環境づくりへの支
  援を行うこと、
6.児童虐待の早期発見に努め、児童虐待等により福祉的介入が必要とされるケースについては、市町村等が設置
  する要保護児童対策地域協議会等を活用しながら、児童相談所や保健所等の関係機関と連携して対応を図るこ
  と、
7.その他放課後における子どもの健全育成上必要な活動を行うこと、

 勉強も教え、遊びも教えて、特に遊びを通して、学校教育では満足にできていない、あるいは一般の教師たちでは満足に成し遂げることができていない自主性、社会性、創造性を培う高い目標を掲げている。

 スローガン倒れにならないことを祈る。

 では、具体的にどのようなカリキュラムで行っているのか調べてみた。公立小学校で行っている学童保育のカリキュラムは見つけることができず、民間学童保育のカリキュラムを見つけることができた。

 《横浜 学童保育 ワールド・キッズ・くらぶ》
  
 最初に宿題を教え、学力に合った国語・算数のプリント、英語レッスン、理科実験やバター作りといった各種製品作り、料理、パソコンの基本操作、工作、そろばん、デジタルカメラの基本操作、フラワーアレンジメント、マット運動を中心とした体操等々となっている。

 こう見てくると、勉強に関しては塾程強力ではないが、趣味や体操を通した運動能力の向上に関しては塾を上回ることになる。

 夕方学童保育を終えてから、そのまま夜の塾に通えば、学童保育では左程期待できない学力を塾で、塾では望むことができない程々の運動能力向上を学童保育でといった具合に補い合うこととなって、最強となる。

 民間の学童保育はカネがかかる分、カリキュラムが充実しているだろうから、民間の学童保育と塾を併せれば、最強中の最強ということになる可能性は高い。 

 当然、学童保育も塾も利用せずに学校教育だけでは、学校教育から与えられる学力やその他の能力の上積みは望むことができないことになり、利用している児童との間に学力差や運動能力差が現れることになる。

 親の側から言うと、学力の差をつくるために塾に通うのであって、そのために塾は存在していた。そこに学童保育が加わったということだろう。

 当然、塾に通わせないことで生じることになる学力差がつくことへの恐れを免れるために子どもを塾に通わせていた親の強迫観念は学童保育に通わせるか通わせないかにも働くことになり、世の中の傾向として通わせる方向に圧力が向かうことになる。

 特に収入の面で塾に通わせることができない家庭は、せめて学童保育にと欲するに違いない。

 こういった傾向が学童保育児童の増加という形で現れているはずだ。

 家の収入が十分にあって、子どもを民間の学童保育に通わせ、なおかつ塾に通わせた場合、子どもは親の所得格差が教育格差となる構造のより有利な受益者となり得る。

 だが、学童保育に留意しなければならない点は、親の安心は重要な要素ではあっても、三昔も四昔も前の子どものように自分たちで自由に遊ぶ子どもの数を減らすことになることだろう。

 自身の発想で自由に遊ぶ子どもの減少である。

 例えば野球やサッカーは幼い頃から地域のチームやクラブに所属し、監督という大人の指示に従って、技術を身につけ、高めていくが、それが正しい指導として役立ち、正しい技術の習得につながったとしても、他発性に従った自発性という制約を受けることになって、自由な創造性という点でも制約を受けることになるが、大人の指導を受けない近所の子供同士で仲間を組んだチームであったとしても、自分たちの自由な発想でプレーしながら、如何に上達するか、仲間同士がお互いに競争し合い、自分なりに工夫していくうちに技術を習得していく自発性はどのような制約も受けない自由な創造性という点で優ることになる。

 このことは日本のJリーグのサッカー選手とブラジルのサッカー選手との能力差に現れている。日本の選手がクラブや地域のチームを出発点としているのに対してブラジルのサッカー選手は近所の仲間同士が自由にプレーするストリートサッカーを出発点とし、〈ストリートサッカーで高度な技術を身に付けた選手を国内のクラブがスカウト〉(Wikipedia)して、その技術をさらに高度に高めていく育成方法に従っているが、その出発点に於ける自発性の制約のなさと自由な自発性に対応した自由な創造性が大きく影響して獲得することになる高い技術であるはずである。

 特に幼い頃から大人の指導を受ける場合、型にはめられ過ぎると、遊び(=自発的な自由な発想の部分)の創造性が抑えられて、躍動性を失うことになる。

 このことは学童保育についても言えることであるし、塾についても言えるはずだ。学校教育で「自分で考えることの大切さを教える」と言っていることは、教師が教えたり社会の大人やマスコミが与える様々な考えに児童・生徒一人ひとりが取り組むときの自由な自発性と自由な創造性の重要なことを指しているはずだ。

 学童保育が学習の機会や運動の機会を与えるからといって、メリットばかりではない。当然、デメリットに留意しなければならない。

 昔の子どもが減るということは飼い慣らされた子どもが増えるということでもあるはずだ。社会の安心にとっては価値ある傾向かもしれないが。

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