安倍晋三のアベノミクスがアメリカ経済の写し絵ではないかと思わせる記事がある。《米の景気動向 企業堅調も弱い消費 雇用「統計、見せかけ」 賃金「伸び悩み」》(MSN産経/2013.8.2 09:12)
米国内で生み出された富の総額である実質国内総生産(GDP)は、4~6月期が市場予想を大きく上回る1・7%増(年率換算)。
その主たる要因。主要約1100社の手元資金は昨年末で過去最高の1兆4490億ドルに到達。銀行融資は2年近く拡大。株価も堅調。
但し、その恩恵は実体経済に広く及んでいないと解説している。
失業率は改善基調だが、まだ7%台後半の高水準。若年層を中心に職探しの断念で労働参加率低下。パート雇用増。賃金の伸び悩み、住宅の乏しい実需。米国のGDPの7割を占める個人消費の4~6月期の伸び悩みに現れた米国景気牽引の主役である消費の動きの鈍さ。
「雇用の改善は見せかけ」との見方を伝えている。
要するに企業は過去最高の利益を上げているが、その恩恵が一般消費者に波及していないアメリカ経済の格差状況を映し出している。
一方の日本の安倍晋三アベノミクスは7月30日発表の6月完全失業率が4年8カ月ぶりに3%台に改善、雇用環境に明るい兆しが出ているものの、その改善は非正規中心だと次の記事が伝えている。
《雇用改善も非正規中心 6月の失業率改善》(MSN産経/2013.7.31 01:18)
この状況を記事は次のように解説している。〈正社員の拡大など安定雇用の創出には至っていない。安倍晋三政権には、成長戦略の着実な実行で企業の設備投資意欲を引き出し、正規雇用の拡大と賃金を上げられる環境をつくり出すことが求められる。〉――
6月の完全失業率は改善して、雇用増の状況が生まれているが、非正規中心であって、このことは今に始まってことではないから、そこに格差が拡大してく状況が引き継がれているということであろう。
格差拡大という点で、安倍晋三アベノミクスは景気が良くなっていると言うものの、まさにアメリカ経済の写し絵となっていると言うことができる。
雇用統計発表7月30日当日の記者会見。
菅官房長官「(安倍政権の経済政策「アベノミクス」効果が)雇用にも波及し始めている」――
7月30日フエイスブック。
安倍晋三「(完全失業率が3%台へ低下したことに関して)リーマン・ショック以前の環境に戻った。さらに雇用状況を改善し、皆さんの賃金アップにつながるよう努力していきたい」――
相変わらず中身の状況を無視した成果誇示となっている。
記事は非正規中心の雇用改善であることの具体例として自動車産業と外食産業を挙げている。
この具体例のみで、非正規中心であることが理解できる。海外での販売好調が続く自動車メーカーの生産現場は非正規雇用が占めていて、外食産業はパート・アルバイトで雇用を成り立たせている。
非正規雇用は人件費抑制の役目を併せ持たせている。当然、記事締め括りの解説は次のようになる。
〈労働力市場全体に占める非正規の比率は6月も前月比0・1ポイント増加の36・4%となった。企業の採用意欲の高まりが、賃金や安定した雇用の増加に結びつくかは予断を許さない。〉――
同じ内容を扱ったNHK記事を見てみる。《6月の完全失業率3.9%で「改善」》(NHK NEWS WEB/2013年7月30日 9時14分)
5月比0.2ポイント改善、4年8か月ぶり3%台回復の6月全国完全失業率3.9%。
この統計内容だけを見ると、アベノミクスの効果が国民に利益となるプラスの形で全面的に出ている様子を窺わせる。
厚労省「完全失業者の数で見ると、男性が前の月より3万人の減少にとどまっているのに対し、女性は12万人と大幅に減っている。女性の就労者が多い医療、福祉や小売業で雇用者数が増えており、女性の雇用環境がよくなったことが完全失業率の改善につながったのではないか」――
要するに男性の雇用は3万人しか増えていないが、女性の雇用は12万人も増えている。増えている主な現場は医療、福祉、小売業だと言っている。だが、今までの例から言って、男性よりも女性の方が安価な人件費で雇用できるという事情で女性が優先される傾向を常態的伝統としてきているのだから、厚労省の解説は人件費抑圧の状況をも映し出しているはずだ。
菅官房長官の発言を詳しく伝えている。
菅官房長官「雇用情勢は着実に改善しており、『アベノミクス』による景気回復に向けた動きが雇用にも波及し始めていると考えている。政府としては、引き続き『アベノミクス』の『三本の矢』を一体的に進め、早期のデフレ脱却と民間主導の持続的な経済成長を実現していきたい。そのために全力を尽くして取り組んでいく」――
非正規雇用中心であることを無視した評価であることに変わりはない。非正規雇用中心を無視した場合、ただでさえ株高・円高で格差拡大状況を招いている上に経済格差は拡大の一途を辿ることになる。
では、政府の統計から、完全失業率の改善=雇用の改善の内容を見てみる。
《労働力調査(基本集計) 平成25年(2013年)6月分》(総務省統計局/2013年7月30日公表)
雇用形態別役員を除く雇用者(エクセル:32KB)
正規の職員・従業員(男女)
2013年5月 3323万人→2013年6月 3326万人 +3万人
非正規の職員・従業員(男女)
2013年5月 1891万人→2013年6月 1900万人 +9万人
6月の5月比で見た場合の対正規非正規増加率3倍は格差拡大を対応させていることになり、安倍晋三アベンミクスは現状では経済格差拡大に役立っていると言うことができる。
上記厚労省の解説が実際に人件費抑圧の状況を映し出しているかどうか、女性正規と非正規の増減から見てみる。
女性正規職員・従業員
2013年5月 1031万人→2013年6月 1037万人 +6万人
女性非正規の職員・従業員
2013年5月 1286万人→2013年6月 1283万人 -3万人
女性の場合の非正規は5月比で3万人減っている。中には退職者もいるかもしれないが、多くは正規に組み込まれていると見ることができる。
但し正規+非正規の全体で見た場合、役員を除く男女全雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合が36.4%であるのに対して女性の非正規率は女性全体の2321万人に対して55%にも上る。
少しは改善したかもしれないが、男性よりも人件費が抑制され、なおかつ女性の正規よりも非正規の女性の人件費が抑制されている雇用環境はさして変わらないはずだ。
いわば企業側の男性非正規雇用に対するのと同じように可能な限り安く使おうとする意思が働いている女性の非正規雇用環境でもあるはずだ。
安倍晋三がアベノミクスの柱の一つとして「女性の活躍」を打ち出し、女性が活躍しやすい環境づくりとして、「育児休業3年」を打ち出したにも関わらず、正規と非正規との経済格差に併行した男女経済格差(=男女地位格差)の状況、さらにアベノミクスが現状では経済格差拡大に役立っている状況に鈍感なまま、完全失業率が改善したとか、雇用が増えたとかアベノミクスの成果を誇ることができる。
実態に目を向けずに統計が示す表面的な数字だけを評価基準として自己の政治を誇った場合、国民が全体的に満足を得る方向への進路を政治は取ることができるだろうか。
現在のところ、格差拡大に役立っている安倍晋三アベノミクスはなお格差拡大の一途に向かって走り続ける危険性なきにしもあらずである。