――閣僚の行為を間違っていないとするなら、任命した者としてその閣僚を信用して、その地位と名誉を最後まで守り通さなければ、信頼されるトップ足り得ない――
西川公也(こうや)農水相が2月23日(2015年)安倍晋三と首相官邸で会談、自らの政党支部が国の補助金を受けた企業などから献金を受けていた問題などでこれ以上国会審議に影響が出ることは避けたいなどとして辞表を提出し、受理されたと、《西川農相 安倍首相に辞表提出》(NHK NEWS WEB/2015年2月23日 18時57分)が伝えていた。
農水相の政治資金規正法違反疑惑。
その1――農水相の政党支部が国の補助金を受けた栃木県内の木材加工会社から300万円の献金を受け取っていた。
その2――国の補助金を受けた砂糖の業界団体の代表が社長を務める会社からも100万円の献金を受けていた。
後任は林前農水相。
野党の違法だとする国会審議等での追及に対して。
西川農水相「違法性はないと判断している。農林水産大臣という職責に鑑みて、疑問を持たれないようにいずれも返金した」
「違法性はないと判断している」の「判断している」というところがミソである。この場合の「判断」は自身の解釈であって、政治資金規正法と照合して得た、客観性を持たせた「解釈」というわけではない。
二人はどんなことを話し合ったのだろう。
安倍晋三{お主、悪いのう」
西川公也「お代官様、あなたこそ」・・・・・・とでも?
安倍晋三とコソコソ話し合った会談後の記者団への説明。
西川公也「私がいくら説明しても分からない人は分からないということで、農林水産大臣の辞表を出してきた。安倍総理大臣からは『農業関係の仕事を大変よくやってくれた。引き続きできればやってほしい』ということだったが、私はもう自分で決めたので、政府から外れるということを申し上げてきた。安倍総理大臣も了承してくれた。
全部説明できたし、法律に触れることはないということは安倍総理大臣も分かってくれた。これから農政改革をやるときに内閣に迷惑をかけてはいけないということで、自ら辞表を出した」
要するに西川は自分は何も悪いことはしていないと自身の身の潔白を訴え、安倍晋三も、「農業関係の仕事を大変よくやってくれた。引き続きできればやってほしい」と慰留することと、「法律に触れることはない」と理解することで西川の身の潔白を認めたということになる。
だったら、少しぐらい国会審議が遅れようが何しようが、被任命者を信用して最後ま守り通すのが任命した者の責任であり、そうすることで信頼されるトップ足り得るはずである。
だが、安倍晋三は任命責任者として被任命者を信用して最後まで守り通すという信頼されるトップとしての務めを果たさなかった。
と言うことは、西川自身が自分は正しいとし、安倍晋三も間違っていないとしていながら、円滑な国会審議を優先させた、イコール安倍晋三は自己保身を優先させたということになる。
西川辞任について安倍晋三がどう発言しているか《安倍首相 「国民におわびしたい」》(NHK NEWS WEB/2015年2月23日 18時21分)から見てみる。
安倍晋三「西川大臣には、TPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉、農協改革に大いに力を発揮して頂いた。『是非、とどまって職を全うして頂きたい』とお願いしたが、『政策の審議に集中すべきだが、みずからの問題でそれが叶わない状況は変えたいと思っており、それには辞任しかない』という強い意志の表明があり、尊重することにした。大いに力を発揮していただいた方だが大変残念だ。
2年近く安倍政権で大臣を務め、党にあって農林水産戦略調査会長として、西川大臣とともに農協改革等に取り組んできた林芳正氏にお願いすることとした。
任命責任は私にあり、国民の皆様におわび申し上げたい。林新大臣の下、与党と協力してしっかりとした新しい農政を進め、若い皆さんが農業に魅力を感じる農政、そして農山漁村の所得倍増を目指して頑張っていきたい。政策を力強く推進していくことによって責任を果たしていきたい」
「TPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉、農協改革に大いに力を発揮して頂いた」と西川の能力とその人間性を認めているが、能力と人間性を認めていたからこそ農水相に任命したのだから当然であり、両者間にお互いに信頼し合うという固い絆を結び合わせていただろうから、「『是非、とどまって職を全うして頂きたい」というお願いも自身も最後まで全うしてこそ、任命責任者として西川に向けた信頼と、被任命者としての西川の任命者である安倍晋三に向けた信頼を双方共に損なうという人間としてあるまじき振舞いに及ばずに済むはずである。
だが、安倍晋三は西川を最後まで守り通すことはしなかった。守り通すことをしなかったばかりか、「任命責任は私にあり、国民の皆様におわび申し上げたい」と謝罪し、自身の任命責任を認めるという矛盾した態度に出た。
「『是非、とどまって職を全うして頂きたい』とお願い」している以上、西川の政治資金規正法違反疑惑を認めているわけではない。既に触れたように逆にその能力と人間性に信頼を置いているのである。
謝罪しなければならないことは国会審議中の閣僚交代という混乱、あるいは騒動に対してだろう。西川は正しいと見做している以上、任命責任とは関係ない。
被任命者に信頼されるトップとしての務めを果たさなかったばかりか、任命責任があるとしているわけでもないのに「任命責任は私にあり、国民の皆様におわび申し上げたい」の言葉は早いとこ任命責任を認めてしまって、混乱を、もしくは騒動を短時間に収拾してしまいたいとする自己保身そのものの魂胆からだろう。
当然、言葉だけの、あるいは口先だけの方便で認めた任命責任に過ぎない。
言葉だけ、あるいは口先だけで早々に任命責任を認めることで逆に任命責任を回避するという高等戦術を使ったのである。
安倍晋三が示すべきはもし被任命者が政治資金規正法に違反していないと見るなら、その地位と名誉を最後まで守り通して、被任命者の任命者に向けている信頼を失わないことでありながら、円滑な国会審議を口実に早々に辞表を受理して収拾を図ろうとしている。
自己保身の意識なくしてこのような信頼に悖ることはできない。自己保身には任命責任回避を当然の要素とする。
何というトップなのだろう。真に信頼される資格のあるトップと言えるのだろうか。