―― 一歩通行を逆走して取締まりに合い、一方通行であることを知らなかったからと言って道路交通法違反が許されるわけではない――
西川公也は国の補助金を受けていた選挙区内の木材加工会社から2012年に300万円の献金を受け取っていた。政治資金規正法は補助金の交付決定を受けた会社が1年間献金することを禁じている。
「Wikipedia」によると、この木材加工会社は2009年度に1億6100万円、2010年度にも3億7000万円、2012年度に7億円の補助金を国から受けていたという。一会社が12億以上もの補助金を受けているということはどういうことなのだろう。
西川公也はその木材会社が国の補助金を受けていたことは知らなかったと言い、「農林水産大臣という立場から道義的なことを考えて返金したから問題ない」としていた。
一歩通行を逆走して取締まりに合い、一方通行であることを知らなかったからと言って道路交通法違反が許されるわけではない。献金を受ける際、政治資金規正法を適正に運用するために補助金受領法人かどうか確認する責任を有している。
例え確認しなかった場合の罰則が政治資金規正法に規定されていなくても、国民の選択を受けて成り立たせている身分であることの資格を常に有効足らしめるためには確認を義務として自らを律する厳しさが求められているはずである。
だが、それを怠った。国民の選択を受けて成り立たせている身分ではあっても、選択を受ける資格はなかったことになる。大臣辞任だけではなく、国会議員も辞職すべきだろう。
西川公也はまた、自身の政党支部が2013年7月、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉に日本が初参加する直前に砂糖メーカーの団体「精糖工業会」(東京都千代田区)の運営するビル管理会社「精糖工業会館」(同)から100万円の献金を受けていた。
「精糖工業会」とビル管理会社「精糖工業会館」は社長は同じで、両者の役員は重なり、事務所も同じビルのフロアにあるとマスコミは伝えている。そして「精糖工業会」は2013年3月、農林水産省の「さとうきび等安定生産体制緊急確立事業」で13億円の補助金交付が決まっていたという。
「精糖工業会」は政治資金規正法が国の補助金の交付決定から1年間の政治献金を禁じていることを知っていて、ビル管理会社「精糖工業会館」を通して、いわば迂回させる形で100万円の献金をしたと疑うこともできる。
西川公也は「工業会館は、工業会とは別法人で補助金交付団体ではない」と身の潔白を訴えていたが、100万円を「違法性はないが、大臣の職責に鑑み、些かも疑問を持たれないよう、今朝一番で返金した」と2月17日の閣議後の記者会見で明らかにしている。
問題は西川公也の任命責任者であった安倍晋三自身にしても西川が木材加工会社からの献金を国の補助金を受けていたことは知らなかったから問題ないと擁護していて、献金を受ける際、政治資金規正法を適正に運用するために補助金受領法人かどうか確認する責任を問わず、蔑ろにしている点である。
2月25日、衆議院予算委員会での答弁。
安倍晋三「本人は一生懸命説明し、違法性はないと説明しているが、一般の方々にとってはなかなか分かりにくいものもある。日頃から説明をしていくことは当然求められ、要望があれば議員として応えていくのは当然だが、疑問があるとすぐにまるで罪があるかのごとく、大きな疑惑があるかのごとく決めつけていくことはいかがなものかという印象は持っている」(NHK NEWS WEB)
安倍晋三「西川前大臣は『献金を受けた相手方が補助金を貰っていたことは知らなかった』と説明しており、『知らなかったんだろうな』と思った。そうであれば、西川前大臣という受け手にとっては違法ではない。西川前大臣は『国民の皆様にはなかなかご理解をいただいていない部分もあるが、これから一生懸命説明していきたい』と話していた。農協改革など、西川前大臣が進めてきた仕事は多とするところだ」(同NHK NEWS WEB)
政治資金規正法の適正運用のために補助金受領法人かどうか確認する責任と確認を義務として自らを律する厳しさが常に求められることになる国会議員としての身分を成り立たせるための前提を一切無視している
特に過去の国会答弁に照らし合わせた場合、安倍晋三は任命責任者としてこの前提を無視してはならない。
政治資金規正法が外国人や外国法人から献金を禁止しているにも関わらず、宮沢洋一経産相が2007年と2008年に外国人が株式の過半数を持つ広島県の企業から計20万円の政治献金を受けていた問題で、宮沢洋一は「事務所としては、日本の企業であり問題ないとの認識だった」と、経営者が外国籍だとは知らなかったとして違法性はないとしていた。
2014年10月30日の衆院予算委員会。
安倍晋三「例えば私の場合はですね、私の場合は(外国籍だと)類推できない方からですね、寄付がある場合も、まあ、あります。その場合は入会のシオリを渡しまして、そこに日本国籍を有する者ということを一応念のためにですね、書いているわけであります」
要するに政治資金規正法を適正に運用するために禁止規定に触れないかどうかの確認を自らの責任事項とし、国会議員としての身分、あるいは一国のリーダーとしての身分を有効足らしめる義務として自らを律していた。
だとしたら、自分が首相として任命した閣僚に対しても同じ責任と義務を求めていいはずだ。「入会のシオリ等を渡して、政治資金規制法のこれこれの規定に触れる個人・団体からの政治献金は禁止されていますからとなぜ前以て認知させなかったのか。後になって外国籍であることは知らなかったとか、国の補助金を受けていたことは知らなかったでは政治資金規正法を適正に運用する責任を果たしていないばかりか、国会議員としての国民に対する義務も果たしていないことになる」と。
求めなかったことは自身の発言を裏切ることになるばかりか、自分が任命した者に対して身内の無責任と義務不履行を庇うために二重基準を施したことになる。
勿論、庇うということは西川の献金受領を断罪しないことによって自身の任命責任を回避できることから、そのことを意図した行為と言うことになる。
一国の首相である。このような任命責任回避のみで、首相としての資質を問うことができるはずである。