萩生田の「安倍談話は本人の専権事項」発言は有識者会議が安倍歴史認識追認装置に過ぎないことを意味する

2015-02-11 08:52:06 | 政治


 萩生田光一「(「安倍晋三戦後70年談話は)与党も野党も、事前検閲のように、いろいろな話が出ているが、それは、わたしはちょっと行き過ぎだと思っていまして。一語 一句、与党の皆さんの了解を取って出すという性格のものではないと思っています。やはり総理の、言うならば、専権事項としてやられたらよろしいと思います」(FNN/2015/02/10 04:40)

 2月9日夜、BSフジの「PRIME NEWS」に出演して、こう発言したそうだ。

 この記事の発言を補うために次の記事の発言も加えることにする。

 萩生田光一「与党には、ある程度、最終的な発表の前に了解いただくことになると思うが、与党協議は馴染まないと思う。安倍総理大臣は、既に戦後50年や60年の談話を踏襲すると公言しているので、良識に任せてもらいたい」(NHK NEWS WEB) 

 後者の発言は2月9日夜、記者団に話したものだという。テレビ局から出てきたところを捕まえたのだろうか。

 萩生田光一は何てたって安倍総裁特別補佐の重職にある。その上自民党筆頭副幹事長まで務めているだけあって、有権者の心に響く声を持っていらっしゃる。単に低音気味の重々しげな声の響きだけのことを言っているわけではない。声によって発せられる言葉の意味・内容まで含めてのことなのは断るまでもない。

 前者の記事では「談話は安倍晋三の専権事項だ」との萩生田の発言を紹介し、後者は「与党協議は馴染まない」の発言を紹介している。「専権事項」という言葉には協議を排除する意味が含まれるから、言葉は違っていても、同じ意味のことを言ったことになる。

 後者の記事は「与党協議は馴染まない」の発言は公明党から政府・与党で認識を共有した上で作成すべきだという意見が出ていることを念頭に踏まえた発言だと解説している。

 要するに萩生田はそうしたい、そうすべきだということなのだろう。

 但し問題が二つある。

 一つは与党協議を求める声を“事前検閲のような動き”だとしていることである。

 検閲とは特に国家権力がその権力維持に不都合な意見・表現(=権力批判)を排除し、権力維持に都合のいいように手直しさせる、あるいは権力維持に都合のいい意見・表現(権力肯定)のみを採用することを言う。

 ここには上から下への一方的な問答無用の強制力が働く。

 「協議」の「協」の字源は「衆人が心を合わせ、力を合わす」意だと漢字辞典に出ている。だから、心を表す立心偏となっている。「叶う」の意だそうだ。

 「議」は「意見を出して話し合う」ことを言う。「協議」には意見を出し合う点に於いて上も下もなく、双方向からの対等な力が働く。そのような力が働かなければ、正式な意味での「協議」とは言えない。特に民主主義の時代に於いてはどちらか一方の強制力は排除されなければならない。

 萩生田光一は安倍晋三の総裁特別補佐をしているだけあって、心を合わせて意見を出し合い、話し合おうと求めていることを“事前検閲のような動き”だと見做して、あるいは「安倍晋三の専権事項」だとして戦後70年談話に関わる意見・表現を排除しようとしている。

 要するに萩生田こそが安倍晋三の歴史認識に都合のいい肯定的な意見・表現は採用するが、不都合な否定的意見・表現は排除しようとする事前検閲意思の持ち主だということになる。

 さすが、安倍晋三と心を合わせているだけあって、不都合な情報の排除・抑圧はお得意のようだ。

 もう一つの問題。
 
 安倍晋三は今年2015年1月5日伊勢神宮に参拝し、参拝後年頭記者会見を行っている。

 安倍晋三「戦後70年の節目を迎えるに当たりまして、安倍政権として、先の大戦への反省、そして戦後の平和国家としての歩み、そして今後、日本としてアジア太平洋地域や世界のために、さらにどのような貢献を果たしていくのか。世界に発信できるようなものを、英知を結集して考え、新たな談話に書き込んでいく考えであります」

 1月28日参院本会議。民主党の柳田議員に対する答弁。

 安倍晋三「先の大戦への反省、戦後の平和国家としての歩み、今後、日本として、アジア太平洋地域や世界のために、さらにどのような貢献を果たしていくのか、世界に発信できるようなものを英知を結集して考え、新たな談話に書き込んでいく。具体的な内容は、今後、有識者のご意見を伺いながら政府として検討していく。安倍政権としては、村山談話をはじめ、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、今後も引き継いでいく立場だ」(NHK NEWS WEB

 「有識者のご意見を伺いながら」と言っていることは、近々歴史学者などからなる有識者会議を設置して議論を本格化させるということだから、有識者会議を指す。

 安倍晋三が言っている「英知を結集する」、「有識者のご意見を伺う」は協議を意味する。決して批判的意見・表現を排除する検閲意思の介在を示しているわけではない。

 このことは萩生田光一の露骨な検閲意思に反する。だが、二人は特に歴史認識に関して心を通わせ合っている。萩生田の発言は「安倍晋三戦後70年談話」に関わるホンネが自ずと出たもので、そのホンネは「70年談話」に反映することになる安倍晋三の歴史認識を代弁していて初めて心の通い合わせを証明し得る。

 このことの証明のために何度でもブログに用いた安倍晋三の発言を再度利用することにする。

 2012年5月11日の産経新聞のインタビュー。

安倍晋三「自民党も下野してずいぶん歯がゆい思いをしてきたが、ムダではなかったと思ってるんですよ。

 例えば先日まとめた憲法改正草案は平成17年の新憲法草案よりはるかに良くなったでしょう。前文に『日本国は国民統合の象徴である天皇を戴(いただ)く国家』と記し、国防軍も明記した。やはり与党時代は現行憲法に縛られ、あらかじめ変な抑制を効かせちゃうんだな…。

 それにかつて自民党は歴代政府の政府答弁や法解釈などをずっと引きずってきたが、政権復帰したらそんなしがらみを捨てて再スタートできる。もう村山談話や河野談話に縛られることもない。これは大きいですよ」

 「河野談話」についてはより具体的に拒絶反応を示している。2012年の9月12日の自民党総裁選挙立候補演説。

 安倍晋三(「河野談話」が従軍慰安婦の強制性を認めていることについて)「孫の代までこの不名誉を背負わせるわけにはいかない」――

 萩生光一と安倍晋三が歴史認識で心を通わせ合っていると言うよりも、心を一つにしていると言うことができる。
 
 萩生田光一の口を通して言わしめた「安倍晋三70年談話」に関わる二人のホンネは安倍晋三が言っている「英知を結集する」にしても、「有識者のご意見を伺う」にしても、協議の体裁を取るように見せてはいるものの、あるいは検閲意思の不介在を示唆しているかのように見せているものの、安倍晋三がよく使う手だが、安倍晋三と歴史認識を似通わせた有識者で多数派を占める会議を開く形で実際は協議を排除し、検閲意思を介在させる情報操作に持っていって、安倍晋三の歴史認識を談話に表現させようとしていることにあるはずだ。

 いわば結果として萩生田光一の発言は有識者会議が安倍晋三の歴史認識を追認する装置に過ぎないことを炙り出していたと言うことができる。

 安倍晋三はこの手の権謀術数には生まれながらの才能なのか、母方の祖父岸信介の血を教えとして引き継いだのか、異常なまでに長けている。

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