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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

伊勢湾台風から50年 巨大台風を前に立ち向かった草創期の自衛隊

2009-09-26 23:30:34 | 防衛・安全保障

◆死者5000以上、巨大台風被害への災害派遣

 本日で、伊勢湾台風が東海地方を襲ってから50年、自治体や報道は、これを機会に災害に備えようと様々な活動を行っているが、今回は、その中でもあまり扱われない自衛隊の活動について掲載したい。自衛隊創設から五年目、本土を襲った猛威に、どう立ち向かったのか。

Img_3829  1959年9月26日から27火にかけて、大型の台風が和歌山県潮岬に上陸、半径300kmの超大型台風はそのまま紀伊半島に沿って東海地方に侵入した。台風は、富山湾に抜けたのち、再び秋田県の上陸、各地に大きな爪痕を残した。被害は特に伊勢湾沿岸に集中しており、東海地方の愛知県、三重県、岐阜県は壊滅的な被害を受け、不幸にも満潮の時刻と重なったことで名古屋市南部は一ヶ月間水が引かなかった。

Img_6537  こうして名古屋を中心に死者4700名、行方不明者400名、家屋流失は2400戸、全半壊した家屋は150000戸に及び床上浸水363000戸、被災者は実に153000名という激甚な被害をもたらし、第二次世界大戦を除けば、これほどの自然災害は阪神大震災まで無かった、未曾有の大災害だ。

Img_0323  28日に愛知県知事より災害派遣要請が出され、長官命令により陸上自衛隊は、即座に災害派遣命令を発し、守山の第10混成団、千僧の第3管区隊が中心となり中部地区災害対策本部を設置、北海道から九州までの自衛隊各部隊が投入され、延べ派遣人員は73万、災害派遣は12月17日まで続けられた。

Img_2387  第10混成団をはじめ派遣部隊の隊員は、濁流に押し流された堤防に飛び込んで杭を打ち込み、杭と杭とを土嚢で埋め、文字通り人海戦術で堤防を復旧させるとともに、倒壊家屋や流出家屋、流木の中で捜索救難活動を展開、犠牲者の遺体収容、行方不明者の捜索、破損した道路の啓開、救援物資の空輸に医療活動を実施した。

Img_6505  第10師団創設前の第10混成団時代、能力も装備も不充分ながら、隊員は全力でやれることをやろうと、遮二無二大災害に立ち向かった。なにしろ被害が大きく、本来避難所となる公共施設はもとより医療機関の被害も大きく、医官は数日間徹夜の診療活動にあり、入浴支援も、この伊勢湾台風で周知された災害派遣任務である。

Img_7005  海上自衛隊は、横須賀地方総監部総務部長が派遣部隊の指揮を執るべく先頭に立ち、横須賀基地より29日夜、救援物資を満載した災害派遣部隊が出港夜を徹して太平洋を伊勢湾に急行し30日早朝、名古屋港に到達した。救援物資を下すとともに決壊した堤防の補強作業を実施、加えて上陸用舟艇により、家屋を失った住民の避難を支援した。

Img_5789  しかし、大きすぎる被害を前に横須賀地方隊だけでは如何ともし難く、呉地方隊にも増援が要請された。今日としては当然のことではあるが、当時は異例のことであり、この伊勢湾台風災害派遣が最初の前例を築いたといってよい。こうして呉基地より、第2舟艇隊、掃海母艦桑栄も派遣され、延べ艦艇2726隻日、航空機延べ170機日が任務にあたった。

Img_0341  なにしろ、1959年と言えば海上自衛隊草創期、初代護衛艦むらさめ、が就役したものの、最新鋭の護衛艦あきづき、他は建造中、この年の9月18日に川崎重工岐阜工場にてP2V-7対潜哨戒機の初号機が完成披露式を迎えたばかりの頃、そんなときの伊勢湾台風災害派遣は文字通り全力で、その影響もあり、観艦式は二回連続で中止となっている。

Img_8109  伊勢湾台風を前に、最も混乱した状況下で任務にあたったのは航空自衛隊かもしれない。名古屋が被害、となれば名古屋空港に隣接する小牧基地が思い浮かぶかもしれない、しかし当時は無理だったのだ。何故か。今年、伊勢湾台風50年なのだが、同時に小牧基地開庁50周年ということと併せて考えれば、よくわかるのだが小牧基地が開庁したのは59年5月なのである。

Img_2987  松島から小牧に第三航空団が移駐してきたばかりの時期であり、その中で巨大台風に遭遇したのだ。当時、源田航空幕僚長はF-X調査団として渡米中、前年に編成されたばかりの浜松臨時救難航空隊がH-19ヘリを派遣して任務にあたった。手探り状態、今日では普通に防災システムに組み込まれている基地や部隊、その創設前の草創期ではあったが、精一杯、不可能と困難に立ち向かった彼らが、今日に至る精強な自衛隊を錬成したともいえるだろう。

HARUNA

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コメント (2)
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