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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

富士総合火力演習2009 詳報④ 前段演習 戦車部隊の射撃

2009-09-04 15:00:36 | 陸上自衛隊 駐屯地祭

◆富士総火演09

 前段演習も今回で掲載は四度目、いよいよ本日の記事は戦車による射撃展示である。90式戦車、そして74式戦車が発砲焔とともに実弾を目標に向け射撃する展示だ。

Img_1265  90式戦車の進入。制式化から19年を経たが、防御力や攻撃力の面では第一級の性能を保っている。その背景には東西冷戦終結後、米ソを中心に展開されていた戦車開発競争がひと段落し、攻撃力よりは地域紛争などにおける対戦車火器からの防御力に重点が置かれるとともに機甲師団同士の戦闘の可能性が限りなく低下している背景がある。

Img_8099  他方で、現代戦闘は、湾岸戦争・略戦争やユーゴスラビア空爆などでは、如何に敵の戦車を無力化するかに重点が置かれており、逆にいえば当方に戦車が配置されているという事実が、わが国全般に対する軍事的な脅威の行使を押し留める巨大な抑止力として機能している。これは即ち、専守防衛を国是とする我が国においては武力紛争に持ち込まれぬよう機能する防衛力が必要であり、そうした意味では戦車の重要性は低下していないといえる。

Img_8101  90式戦車は、120㍉滑腔砲を搭載し、運動エネルギー弾や化学エネルギー弾双方に防御力を有する複合装甲を採用、1500馬力のエンジンにより70km/hを発揮する高い機動性を誇る第三世代戦車である。技術的特徴としては、同世代の戦車が55~65㌧と巨大化するのに対して、自動装てん装置を採用したことにより乗員を三名とすることができ、一人当たりの装甲重量を維持したまま集中防御方式が可能となり、防御力を落とさず重量50㌧のコンパクトな車体に収めることが出来た点だ。

Img_8110 一部には90式は軽量であることから防御力は低いと誤解されるが、車内容積を小さくしたことで装甲を要する範囲を小さくし、防御力と両立できた訳である。他方で、携帯対戦車火器の同時命中等に対しては、脆弱性を有しているともいわれ、側面の防御力が高くない点が、今日、問題ではないかともいわれており、地域紛争への展開よりは、国土において正規軍同士の戦車戦を想定した、日本らしい戦車ともいえる。

Img_8128  90式戦車の射撃!。自動装てん装置は揺れる車内でも四秒毎毎分十五発の手法射撃を可能としている。砲は、砲塔に砲安定装置が装備されており、如何に車体が高速走行し飛び跳ねようとも目標を狙い続けることが可能で、目標に一旦照準をあわせたならば砲が自動追尾する機能を有する。120㍉滑腔砲から射撃される装弾筒付翼安定徹甲弾いわゆるAPFSDSは、砲から飛び出ると砲弾を包んだ装弾筒、つまりカバーが外れ、安定翼をもつ矢のような徹甲弾、硬度が極めて高い炭化タングステンの砲弾が音速の五倍で目標に突き刺さり、1㍍程度の鋼板ならば貫通して敵戦車を破壊する。

Img_8129  高い攻撃力と防御力を有する90式戦車であるが、難点は一つ、それは、戦車の通信ネットワーク能力が装備されていない点で、現代の戦車は、テレビゲームのように他の戦車の相互位置や敵情報を共有し戦闘に当たる。しかし、90式戦車が装備された時点ではそうした運用思想は確立しておらず、結果、90式戦車にもそうした機能は搭載されていない。そこで、陸上自衛隊ではReCS基幹連隊指揮統制システムとして情報端末などを搭載し、戦車を情報ネットワークとともに協同させ戦闘を遂行する実験を進めている。

Img_8163  74式戦車の進入。1974年に制式化された74式戦車は、主砲射撃用の弾道コンピュータを世界で初めて搭載した戦車で、第二世代戦車に属する。極めて低くまとめられた38㌧の車体に105㍉ライフル砲を搭載した戦車で、砲塔は丸みを帯びた一体形状防弾鋼製、砲弾が命中したとしても、滑るような形状となっている。

Img_8167  最大の技術的特色は、油圧式サスペンションによる姿勢変更装置を採用している点である。戦車戦のみならず、陸上戦闘では、伏せて少しでも相手に自らを暴露しないことが求められるが、74式戦車は車体を上下左右に姿勢を変更することにより、地隙に車体を隠し、有利な地形で待ち伏せを行う事が出来る。

Img_8168  見敵必殺の標語とともに射撃位置に進入。制式化間もないころには、上富良野で火山岩が車体下部のオイルパンを何度も叩き破損したり、真駒内ではモータープールで急激な気温低下にて油圧サスペンションがへたるなどの不具合が発生したが、その都度改善され、陸上自衛隊の戦車としては最多数にあたる873両が調達された。

Img_4174  105㍉砲の射撃。戦車の射撃は、空気が叩かれる衝撃波、これに尽きる。この数百分の一秒照らす発砲焔、燃焼ガスが空気に触れて瞬時に発火とともに、強力無比な砲弾は、一直線に目標に吸い込まれてゆく瞬間、戦車のポテンシャルは瞬時に理解することが出来よう。発砲の際には赤い小旗が掲げられる。緑の小旗は安全状態を示す。ちなみに橙色の旗は激発不良を示す。

Img_8173  105㍉ライフル砲は、旋条が刻まれており、命中精度などは120㍉滑腔砲に引けを取らない。また射程は特筆すべきものがあり、120㍉滑腔砲が発射する矢のような徹甲弾体では、初速が早く貫徹力に優れる一方、空気抵抗の問題などから射程は5km程度に限られるものの、L-7系105㍉ライフル砲は、第四次中東戦争において7km先のT-72戦車を破壊したこともあり、射程が長い。

Img_8176  74式戦車は、高性能ではあるものの、古いことは否めず、特に夜間戦闘能力の低さが指摘されている。6km先で新聞が読めるという赤外線サーチライトにより、目標を照らし夜間戦闘を行うのであるが、赤外線フィルターを相手が持っていれば逆に簡単に発見されてしまう。ただ、国際平和維持活動などでは、強力なサーチライトは暴徒に対する威嚇効果が高く、加えて待ち伏せなどの運用では、迫撃砲などから射撃される照明弾との協同など、戦術レベルの協同で対応できる部分もあり、戦車としての能力は高い。

Img_8178  74式戦車は、現在、順次退役中で毎年50両程度の74式が現役を退いている。一方で、三菱重工を中心に技術研究本部は40㌧台の新戦車が開発中で、自動装てん装置と120㍉主砲に加え側面防御力を重視したモジュラー装甲やアクティヴ式サスペンション、データリンク装置など見るべき点が多い戦車となっており、恐らく来年の富士総合火力演習では、新戦車は登場するのではないかと期待されている。

Img_8182  戦車の射撃が終了し、前段演習は最後の空挺降下へと移る。写真には飛びだした瞬間が収められている。そのむかしは、富士総合火力演習でも数機のC-1輸送機から空挺部隊を降下させていたこともあるのだが、演習場の制約とその他の事情からCH-47輸送ヘリコプターからの落下傘降下となっている。

Img_8190  会場には、“空の神兵”のメロディーが流される。空挺、空中挺身隊はその文字通り、落下傘により後方の連絡線遮断や後方撹乱など戦略的任務に用いられる精鋭部隊で、限られた火力や装備を最大限駆使して独立した任務にあたるため、危険度や困難も大きく、困難に臨む精鋭部隊としての地位を担っている。

Img_8194  降下しているのは第1空挺団の隊員。三個空挺普通科大隊を中心として、隷下部隊全てが千葉県の習志野駐屯地に駐屯しており、有事の際には木更津からヘリコプター、もしくは海上自衛隊の下総航空基地や航空自衛隊の入間基地に展開し、輸送機により全国どこへでも迅速に展開、首都東京に万一の事があれば俊足を以て駆けつける部隊だ。

Img_8406  こうして空挺降下の終了とともに前段演習は終了した。前段演習ののちに休憩時間を挟んで後段演習へと富士総合火力演習はすすむ。後段演習は、実際の防衛出動を想定したシナリオ形式で展開される。このとき、既に会場には三万人にのぼる多くの観覧者が詰めかけており、なかなかの盛況。休憩時間には音楽演奏も行われる一方で、演習参加部隊は順次待機位置への展開を開始していた。

HARUNA

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