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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

富士総合火力演習2009 詳報① 前段演習の火力展示・対戦車火力装備

2009-09-01 23:35:21 | 陸上自衛隊 駐屯地祭

◆平成21年度富士総合火力演習

 本日から順次、富士総合火力演習2009の模様を掲載してゆきます。一日当たり掲載できる能力には限界がありますので、15枚前後の写真を掲載します。

Img_1269  富士総合火力演習は、富士学校富士教導団に所属する近接戦闘を担当する普通科、対戦車戦闘及び機動打撃を担当する機甲科、対砲兵戦や火力支援、阻止火力を担当する特科の各教導部隊が協同し、現代戦闘の様相を富士学校などに入校する学生に展示し、加えて自衛隊の高い訓練水準を国民に広報し、各国駐在武官に誇示する目的で実施される公開実弾演習だ。

Img_7851  浜田防衛大臣、そして陸海空自衛隊の幕僚長が臨席のもと、前段演習が開始された。前段演習では、陸上自衛隊の各種装備の火力や運用方法などを実弾射撃を通じて展示することにあるが、その冒頭、航空自衛隊築城基地よりF-2支援戦闘機が近接航空支援の展示を行うべく轟音とともに飛来した。

Img_7871  F-2支援戦闘機は、750km/hという速度で飛び去り、刹那、紅蓮の焔が高く巻き上がり、鈍い音とともに空気が揺れる。爆煙はどす黒く大空へと立ち上り、航空機からの航空阻止は迅速かつ大きな影響を地上に及ぼすことが出来る。なお、実際に500ポンド爆弾を投射すると破片が広範囲に飛散し危険なため、地上にナパームを設置し、地上管制にて運用している。

Img_7838  築城基地の第8航空団には、F-2飛行隊とF-15飛行隊が展開しており、第6飛行隊がF-2を運用している。他方で、航空自衛隊は、航空優勢確保の観点から制空戦闘機の整備を最重要視しており、結果、支援戦闘機を装備する飛行隊は三個飛行隊のみ、その飛行隊が近接航空支援、対艦攻撃と要撃任務を掛け持ちしており、この数的不足は問題なのではないか、とも考える次第。

Img_1413  特科部隊が、航空攻撃の黒煙が未だ薄くたなびく射場を背景に次々と進入する。陸上自衛隊最大の火砲である写真の203㍉自走榴弾砲を筆頭に、牽引式の155㍉榴弾砲FH-70、そして最新の99式自走155㍉榴弾砲が順番に進入。停止すると乗員が飛び降り、手早く順次射撃準備に取り掛かる。

Img_7884  99式自走155㍉榴弾砲の射撃開始。一番最後に入場した99式であるが、最新の99式は停止から一分前後で射撃が可能となる。目標座標は大隊本部から送信され、停止直後に射撃が開始できるのだ、自動装てん装置により射撃速度も速く、相手が対砲レーダーにより我が射撃位置が暴露する頃には、99式は、次の射撃位置に移動を開始しており、この繰り返しにより損害を免れ、戦闘を継続する。

Img_7923  155ミリ榴弾は、M-107榴弾を用いた場合、空中さく裂により長径45㍍・短径35㍍の範囲に有効弾片を散布することが出来る。しかし、冷戦終結と財政赤字により特科火砲が減少しており、これを補うべく100㍍四方の範囲に子弾を散布し地域制圧を行う事が可能な03式多目的弾を開発した。しかし、日本が批准したオスロプロセスクラスター爆弾全廃条約に抵触する砲弾であることから、廃棄する必要があり、今後、少ない従来火力で如何に必要な任務を達成するかが課題となる。

Img_1548  迫撃砲の展示。特科部隊が運用する榴弾砲と異なり迫撃砲は普通科部隊が運用している。構造は簡単で信頼性は高いが、砲弾の初速が遅いため命中精度に難がある。しかし、陸上自衛隊は訓練で命中精度を向上させ、何故そこまで命中精度が高いのか、各国の武官が不思議がっているとのこと。連隊重迫撃砲中隊などに装備する写真の120㍉重迫撃砲RTと、中隊の迫撃砲小隊が運用する81㍉迫撃砲が射撃展示を行った。

Img_7941  陸上自衛隊は、火砲、それに戦車や小銃、機関銃に至るまで命中精度を高く保っていることで知られる。火砲と戦車に関しては、狭い演習場で少しでも弾着地を外れると民有地に大穴をあけて大問題になるため編み出された技巧であり、小銃射撃に関しては、剣道や柔道のように“道”として技術向上に向かう習慣が培ったものである。つい最近のタイ人狙撃銃導入まで、射撃技術は狙撃手よりも一般の小銃射手の方が上であったという凄いのか微妙なのか、という話もある。

Img_79021  FH-70による射撃。NATO標準牽引式榴弾砲として開発された砲で、80年代から陸上自衛隊の北海道以外の特科部隊に配備が開始され、現在、陸上自衛隊の標準火砲となった。高性能な砲であるが、FH-70の70は、70年代の標準砲、という意味であり旧式化が進んでいることも事実。そこで陸上自衛隊では、装輪車に搭載する簡易自走砲に興味を示しているといわれる。

Img_1541  富士山。少ない火砲で所要の任務を補うには、その一つの答えが訓練だ。特科教導隊のほかの火砲が後方の射撃陣地から一斉に射撃し、空中で砲弾を同時に炸裂させ、富士を模る“富士山”。高度な技術が必要であり、特に砲兵出身の駐在武官は難易度が尋常ではないことを知っているため驚きは想像以上とのこと。

Img_7963   対戦車部隊の射撃展示。東西冷戦下、津波のようなソ連軍機甲部隊の北海道上陸の悪夢に備えた陸上自衛隊は、徹底した対機甲戦術の構築と技術開発に邁進し、結果、航空攻撃に脆弱性の高い機械化部隊ではなく固定陣地と国産の対戦車ミサイルにより引き込んで殲滅するKZ戦術など、技術開発に邁進した。

Img_7958 写真は、世界の陸軍関係者羨望の的、96式多目的誘導弾システム。射程10km、光ファイバーで画像を転送し目標に到達する。秘匿陣地からの間接照準射撃が可能で、60kgの常識外の大きな弾頭が戦車の最も装甲の薄い上面から突入する。ただし、価格があまりにも高すぎるため、陸上自衛隊は各師団の対戦車隊に充足させることが出来ず、方面隊直轄装備となっている。

Img_7952  79式対舟艇対戦車誘導弾の射撃展示。89式装甲戦闘車にとう備されたものが射撃展示された。射程4km、有線誘導により目標に命中する。弾頭が大型であるので、上陸用舟艇に対しても威力を発揮する。可搬式と写真の車載式のものがあり、車載式のものは高価すぎて普及しなかったが、可搬式のものは73式小型トラックに搭載し運用、各師団の対戦車隊に配備され、師団長最後の手札として重宝、今日では一部の普通科連隊には対戦車中隊として集中配備されていることもある。

Img_7953  87式対戦車誘導弾の射撃展示。普通科中隊の対戦車小隊などに配備されている。射程2km、レーザー誘導方式のミサイルで、目標の戦車にレーザーを照射し、その反射に向かってミサイルが命中する。なお、現在、87式と79式双方の後継となる高機動車車載型の対戦車誘導弾が開発中である。

Img_7956  対戦車ミサイルは、今日では、ピンポイントで目標周辺だけを限定して破壊することが出来るため、市街地での戦闘において、その有用性がイラク戦争などで確認されている、あまり大きな威力の装備を市街地で使うと、無関係の民間資産も巻き込んで破砕してしまうためだ。国土を戦場とする専守防衛の国是には、重要な装備の一つである。

つづく

HARUNA

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コメント (8)
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