北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

陸上自衛隊アフガニスタン人道支援任務派遣問題を考える⑦ 航空救難輸送は可能か

2009-09-24 23:45:51 | 国際・政治

◆輸送ヘリ・多用途ヘリと護衛ヘリを派遣する案

 自衛隊には、イラクをはじめ様々な海外での経験がある。そして東西冷戦下では、NATOの支援を受けられた西ドイツとは異なり、独力で対岸のソ連を睨んでいた。

Img_7346  アフガニスタンへ自衛隊派遣の可能性、アフガニスタン情勢は危険ではあるものの、イラク情勢も極めて危険としか言いようがないほどに危険な状況にあった、そこを任務完遂全員帰還を達成したのだ。もっとも、現段階でアフガン派遣は確実ではない。現段階では、補給艦による給油を継続する、選択肢は残っている。

Img_6939  例えば国連安保理決議に依拠しない給油支援が問題というのであれば、来年一月までにアメリカが主体となって新しい安保理決議にて給油支援を必要とする枠組みを構築することだろうか。この他に、もう一度イラク復興人道支援、もしくはテロとの戦いに含まれようとしているソマリアへの派遣ということも考えられようか。

Img_6809_1  さて、陸上自衛隊であるが、それでもアフガニスタンへの派遣を求められることはあるかもしれない、こういう観点から掲載を続けてゆきたい。前回は、地雷処理と不発弾処理任務であれば支援することが出来るのではないかという点を提示した。今回は、更に踏み込んで陸上自衛隊の得意分野を活かすべきという観点からもうひとつ提案したい。

Img_9275  ISAFを、戦闘に直接参加せずに、且つ高い評価を得られる支援策を提示したい。考えられるのは、ヘリコプターによる救難輸送と、もうひとつは戦場監視任務であるが、今回は救難輸送任務を挙げたい。というのも、陸上自衛隊は高いヘリボーン能力を有しており、これを活かせないか、という考えが根底にある。

Img_4265  世界的に観ても比較的早い時期からヘリボーンの研究を実施しており、1960年の東富士演習場におけるS35統合演習、現在の富士総合火力演習に当たる演習だが、そこではさっそく、H-19中型輸送ヘリ、H-21大型輸送ヘリの7機により、空中機動による迅速な増援を展示したのがヘリボーンが一般公開された最初である。

Img_4323  S35統合演習では、その最終段階、装甲車や戦車と共に戦果拡大のための普通科の銃剣突撃を支援した。H-19、そしてバナナのような曲がった機体形状が特色のH-21は既にかなり以前に全機用途廃止となっているが、その後も地皺の多いわが国土の防衛にヘリボーンは最適とされ、整備は続けられている。

Img_9384  今日では、イギリスの第24空中機動旅団のような空中機動旅団こそ編成されていないものの、各方面隊にはAH-1Sによる空中打撃力と、中隊規模の空中機動を可能とするUH-1J/Hの飛行隊から成る方面航空隊を、北部、東北、東部、中部、西部に計五個有している。直轄普通科部隊や特科部隊こそないもののヘリは、かなりの機数だ。

Img_7207  中央即応集団は32機のCH-47J/JAを集中運用する第1ヘリコプター団と、第1空挺団を隷下に有している。第12旅団も、機数は少ないものの、戦車大隊を廃止した変わりにヘリコプター隊を新編しているので、輸送ヘリ、多用途ヘリを駆使したヘリボーン任務を可能とした編成を採っている。

Img_9234  陸上自衛隊と航空自衛隊を併せ、約80機のCH-47J/JA輸送ヘリコプターを配備、運用している。先頃、陸上自衛隊に配備されたCH-47Jの初号機が耐用年数限界により除籍されたが、川崎重工にてライセンス生産されていることにより高い稼働率を誇っている。

Img_7366  また、直輸入により一時的に調達して終わりではなく、川崎重工での製造は今も続いており、継続的に配備と運用を続けている。実は、50名以上が乗れるような大型輸送ヘリを80機運用する国というのは決して多くは無い。また同時に、CH-47は、その強力なエンジン出力から、アフガニスタンの高山部でも、安全に飛行することが可能である。

Img_8252  こうして、多数のCH-47J/JAを運用する自衛隊としては、アフガニスタンにおける戦闘救難輸送や航空救難輸送などが考えられるだろう。即ち、第一線で戦闘中にISAFから負傷者が発生した場合に、武装した普通科隊員とともに急行し、即座に発着地点を確保、続いて負傷者をヘリに収容しする。

Img_8287  機内で応急処置を行いつつ、後方の整った医療施設へ迅速に航空搬送する、というものである。CH-47JAであれば、航続距離が延伸していると共に、地形追随装置や気象レーダーを搭載しているので、悪天候下や夜間であっても救難任務に即応して対応することが可能である。

Img_7985  CH-47JAは、CH-47D規格である。このヘリは、テロとの戦いが開始された2001年から2002年にかけて、米軍でも不足した。特殊作戦用のMH-47が、アフガニスタンとフィリピンで一機づつ墜落したため、あの物量を誇る米軍でも大型輸送ヘリコプターの最新型は充分ではなく、不足するという状況に陥ったのだ。

Img_8183  アメリカ国内にあるシンガポール空軍向けの輸出用6機を代わりに購入しようとしたが政治的問題から断られ、英空軍に輸出され英軍仕様に改修待ちのCH-47D規格HC-3が8機あったので、こちらを後日新品の特殊戦仕様型に支援機材込で輸出する案を持ちかけたが、こちらも英空軍が難色を示した。結局メーカーに製造を急がせることで間に合わせた。同時期、陸上自衛隊にもCH-47JAのアフガニスタン派遣を当時の守屋事務次官に打診したとされており、派遣の需要はあるといえる。

Img_9020  もちろん、戦闘地域に乗りつけるのであるから、地上からの反撃は当然予想される。以上を以て、現在第102飛行隊のCH-47などに搭載されている機関銃を更に強化して自衛火力とする必要があるし、必要に応じてAH-64D戦闘ヘリコプターを護衛に付ける必要が出てくるかもしれない。

Img_8210  もしくは、監視技術の高いOH-1の派遣もあり得るだろうか。加えてアフガニスタンでは高山部を飛び越えるという特性上、機内には酸素マスクなどの改修を行う必要もでてくるだろう。また、防弾板の設置や通信機器の増強などを行う必要も出てくるかもしれない。安全ではないということは挙げておきたい。

Img_1024 ただし、戦闘救難任務も純然たる救命任務であるので、必ずしも戦闘任務という事が出来ない。それだけでなく、ISAFの兵士で重傷を負った場合でも、日の丸をつけたCH-47JAが駆け付けてくれる、という運用を行えば、一部で危惧されているようなISAFのお荷物となる心配は無く、NATO諸国と陸上自衛隊の関係を高めるとともに、行動を通じて日本の姿勢を世界に示すこともできるかもしれない。

Img_1351  もうひとつは、復興人道支援の一部として、現地で発生した緊急を要する患者の航空搬送、自衛隊が離島において災害派遣として恒常的に実施している任務であるが、これをアフガニスタンで実施できないか。競合地域での医療支援や農業支援を行い、信頼構築を行う事で、当該村落の敵対勢力からの心理的遮断を図る任務は、特殊部隊の任務の一つとして知られるが、医官の派遣と併せてこのように実施してみるのも一つの方法といえよう。

Img_6266  陸上自衛隊のヘリコプターによる緊急輸送任務、もちろん激烈な戦闘の場合に出動することが出来るのか、自衛戦闘ではあるが、戦域に向かい飛んでゆくことは救難といえども集団的自衛権の行使に当たるのではないか等など、問題点は考えられるものの、自衛隊の得意分野でISAFの任務を効果的に支援でき、加えて戦闘に直接かかわらない任務としては、考えられるのではないか、と考える次第。

 次回は戦場監視について考えてみたい。

HARUNA

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コメント (4)
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