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北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛産業、我が国防衛力を構成する重要要素の将来展望? 業界再編議論か投了か

2013-07-18 23:50:54 | 国際・政治

◆解決策は契約履行、統合は防需依存高め脆弱化

 妙手と考えられる施策も、時機を逸せば単なる投了となることが多いのですが、防衛産業についても一つ妙手といわれたものがあります。

Biimg_0683 それは業界再編、例えば戦車などは三菱重工のみの生産ですが、防衛関係の車両では小松製作所やトヨタ自動車などなど多数あり、艦船や電装品に誘導弾とこうした事例というものは意外と多く、防衛航空産業だけで三菱重工や川崎重工に富士重工と新明和工業などなど。

Biimg_0278 各社の防衛部門を一つに統合すれば無駄が無くなり、勿論競争入札が行えなくなりますが、実質的に各社は完成した装備品を生産する基盤は流用できず、実質的に例えば年度ごとに競争入札を行い、10式戦車を小松製作所は製造できませんし、96式装輪装甲車を日立製作所が生産することはできません。

Biimg_2105 ならば、経済産業省と防衛省主導の下で一社に統合し、日本重工や東京防衛重工などとして半官半民企業や国策企業とした方が、効率的に少ない防衛需要の下でも防衛産業を維持できるのではないのか、という、一社統合案や業界再編案、というものが奥の手や妙手として考えられてきました。

Biimg_1168 業界再編案こそ防衛産業維持の妙手、一社統合案こそ防衛生産基盤存続の奥の手、などなど、今でも一部で言われているようで、識者のかたや政治家のなかでもひとつの選択肢、それも有力な選択肢、と考え、自著や講演会などで御話ししている方もいましたが、実はこれ、当方は無意味ではないか、と考えています。

Biimg_0056 一発逆転、起死回生、いうなれば奥の手や妙手というのは、これを行うことは制度上難しいが、逆に言うならば、これを無理して行えばどうにかなる、という意味ともなります。しかし、業界再編や一社統合を行った場合、これは防衛産業維持へ押し進むこととなるのでしょうか。

Biimg_0315 約束は守るように、これは我が国では子供のころからの躾であり、既に国際公序ともなっています。しかし、この当然の規範意識が防衛装備調達に反映されていないことが、業界再編や一社統合では防衛産業自体を維持する必要な調達規模に水を差すことを意味します。

Biimg_5041 即ち、調達計画を最初に国が提示し、これを元に防衛産業が量産効果や物価上昇に原材料費高騰などを計算し、量産時の生産費用を明示する。そして防衛調達を行おうと概算要求を出すものの、財務省が調達縮小を迫る、結果量産効果が損なわれ価格が高騰する、以上を以て防衛省側の概算要求さえも翌年度から縮小、これではどうにもならない。

Biimg_0805 最初の生産規模の明示を元に企業は生産計画を立てるのに対し、途中で一方的に発注を終了させ、企業側の設備投資を無駄なものとし、損失を与えるのに対し、発注側は計画は契約ではないというような扱いを示し責任をとらない、これでは統合しようとしまいと、赤字が発生するという事象は変わらないでしょう。

Biimg_3152 逆に、民間企業では、例えばある重要な装備品を調達する防衛産業は、受注数が急減する可能性を見越したうえで、工作機械を従来型のままとした、という事例がありました。豊和工業と9mm機関拳銃のはなしなのですが、結局当初はもう少し広く配備されると考えられていたものの、空振りとなり、これが豊和工業の損失を少なくできたことは間違いないのですが。

Biimg_5297 これは、機関拳銃を削り出し加工により生産することとなったわけで、元来はプレス加工で大量に安く生産できるという設計を無視していることになり、批判されるかもしれませんが、こうした自衛策を採らなければ、仮に損失を出していた場合、民間企業では赤字の責任を採る必要があり、例えば日産自動車のように防衛産業から撤退を強いられることも出てくるかもしれません。

Biimg_1224 半官半民となれば、ある程度これを回避できるのでしょうか。残念ながら、調達計画が急激に縮小される可能性は今後とも捨てきれず、防衛産業を統合により維持できるという視点は、十年以上前までの一定以上の装備品を、まだ、毎年調達できていた時代ならばともかく、今では逆に無理ではないか、と考えるわけです。

Biimg_2793 また、この施策は、防衛産業を一社とするのですから、防衛需要に依存する割合が多くなることを意味します。結果、今では中小企業で特殊技術を以て部品を生産する企業では防衛需要への依存度が大きくとも、大企業であれば余力の一部を以て防衛装備品生産を行っていることが多いため、防需依存度が大きくなることで生じる脆弱性を無視しては話を進められない。

Biimg_6437 脆弱性とは、三菱重工や川崎重工に三菱電機や沖電気に東芝とトヨタ自動車に石川島播磨重工、その全体を国策として合併するという案ではなく、まあ、こんなことが実際に出来ればある意味凄いのですが、今はなされている内容は防衛産業部門を切り離して、防衛に特化した企業を構築するというもの。

Biimg_5107 つまり、防衛需要が低ければ、国のように他の民間企業が調達を一方的にきれば下請法に違反し損害賠償を突き付けられますし、設備投資の上で損失が生じれば当然ながら民事訴訟で訴えられます。だから、現状の防衛産業に突き付けられているような無茶苦茶な契約は、そもそもあり得ません。

Biimg_3856 こうして生じる損失でも、企業自体の防衛需要依存度が小さければ、防衛需要が限られていても、契約破棄により損失を被った場合でも、防衛産業が片手間であるならば本業で赤字を補てんすることが出来ないわけでもなく、もちろん、これはこれで赤字を消費者か株主が補填しているわけで理不尽な話には変わりありませんが、何とかは、なっている。

Biimg_6675_2 これが防衛産業の国策企業となれば、防衛需要が少なければ生産規模は限定されますし、生じた損失を補てんしようにも本業が赤字となれば維持できません。国策企業は、日本航空や日本通運に日本貨物航空や日本郵船などなど、いろいろありましたが、防衛産業の国策企業では、簡単に一般に製品を販売しサービスを提供し利潤を稼ぐことはできない。

Biimg_5264 だからこそ、防衛産業を一社に統合した場合、その一社が赤字により維持できなくなった場合、どうにもならなくなってしまいます。事実、中小企業で防衛需要が大きかった防衛産業では、受注が途絶えたことで廃業や転業となった事例もありますので、一社に統合したとはいえ大赤字となる可能性は否定できないということ。

Biimg_7341 この統合案は、お付き合いの関係もあり社名は伏せますが、例えば海外で国策にて業界再編を行い規模と技術でこそ世界有数の軍需産業が誕生したものの、規模に対して受注が少なく、気息奄々となった事例もあります。だからこそ、業界再編は妙手ではなく、逆に分散している方が、倒れにくいといえるかもしれません。

Biimg_9810 投了、即ち、防衛産業を再編する、というものでは、まあ、中小企業で町工場規模の部品製造を国策で集約、出来るかは別として維持する方法でもあれば、また考える余地はあるのかもしれませんが、大手防衛産業から防衛分野を切り離し、どうにかなるという考えは難しく、現状は投了と言わざるを得ないように考えるのです。

Biimg_8143 それならば、防衛産業維持に妙手はないのか、と考えられるでしょうが、正直なところ、妙手も奥の手も正攻法しかないと考えます。即ち、調達数を防衛省が明示すればそれを契約として締結し、防衛計画の大綱で明示された装備定数を維持できる規模で確実に調達に関する契約を履行する、ということ。

Biimg_8342_1 防衛産業維持の妙手は、防衛装備品の調達を着実に進め、安易に制度上前例のない方法を行うのではなく、防衛産業と防衛省に財務省が協同し維持の方策を防衛大綱に基づく防衛装備品数として検討し算出、これを政治が責任を以て政治主導により予算を確保し履行する、これ以外にないように考える次第です。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント (2)
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