◆宮古島・石垣島案は、演習場環境が限定
毎日新聞などの報道によれば、防衛省は近く創設する南西諸島初動担任部隊拠点として沖縄本島米海兵隊キャンプシュワブ内を検討中とのこと。
初動担任部隊は、離島への侵攻事案に際し第一波を迅速に展開するもので、防衛省によれば南西諸島初動担任部隊の創設は2010年度制定中期防衛力整備計画に基づき行われるものとされ、キャンプシュワブへ配置することにより日米連携強化などを含め検討していると考えられます。
この初動担任部隊は離島防衛の警備部隊として考えられていたものが該当すると考えられ、特にその部隊の任務に初動を行うと共に本土からの増援部隊を受け入れ、というものがありますので、本部管理中隊と一個普通科中隊を基幹とする対馬警備隊型の部隊が当初考えられました。
しかし、今回の報道は、どちらかと言えば西部方面普通科連隊を小型化したような、第一波を緊急展開させ、可能であれば独力で脅威を排除、困難であれば後続部隊の橋頭堡を維持する、という地域警備部隊の増援方式ではなく、独立した戦闘を遂行する部隊のもよう。
沖縄本島へのこのキャンプシュワブ内への部隊駐屯が検討されている背景には、先島諸島への直接配備を行う場合、駐屯部隊の練度維持を行うには演習場を確保する必要があり、この演習場を新設する地域的余裕が物理的に考えられないという点が問題視され、沖縄本島が選ばれた、とのことです。
ただ、沖縄本島が演習場環境に恵まれているかと言えばそうでもありません、事実、第15旅団は、第1混成団時代から中隊規模の演習は九州の日出生台演習場などに移動し実施しており、沖縄本島では無反動砲や迫撃砲といった普通科部隊の装備でさえ、自衛隊の訓練場では実弾射撃が行えません。
ここで今回考慮されていると考えられるのは、”共同使用を拡大できる機会を検討”という米軍再編に際しての日米合意の理念で、この文言は日本側の本土の訓練施設を米軍側に提供することで沖縄の基地負担軽減を期する視点よりつかわれていたものですが、併せて沖縄の米軍施設を日米共同運用できる視点にもなることに気づくでしょう。
例えば沖縄本島には米軍が運用する78?の北部訓練場があります。これは自衛隊の矢臼別演習場の168?には遠く及ばないものの富士総合火力演習が行われる東富士演習場が88?でこれに迫り、沖縄の第15旅団が演習を行う九州の日出生台演習場が49?ですから、これよりも広いことがわかります。
米軍管理の演習場を日米共同使用することが出来れば、特に日米協力の具体事例を蓄積できるほか、米軍専用地を日米共同地域として用いる布石となる事にも繋がります。これは何のこともないようにに考えられがちですが、政治的には米軍基地負担を公正に考える大きな一歩ともなるもの。
沖縄の基地問題を考える際に、狭い沖縄に全国の米軍基地の70%以上が集中、と主張が集まりますが、これは日本の米軍施設の多くが例えば厚木基地や岩国基地に佐世保基地や横須賀基地、キャンプ座間や最近では横田基地など、米軍専用施設ではなく日米共用施設が多いため、米軍だけの施設が多く残るのが沖縄になっている、ということ。
そして自衛隊用地と米軍用地を包括して軍用地と考えた場合、基地負担というもので沖縄の負担は自衛隊の演習場が無く部隊も限られていることから、全国比率で2.2%程度ということになります。狭い沖縄には全国米軍基地の70%以上が、と聞いた場合に比べ、狭い沖縄には全国の軍用地の2.2%が集中、と聞くと印象は変わりませんでしょうか。
もっとも、狭い沖縄に全国の約半分の対領空侵犯措置任務が集中、狭い沖縄に全国の大半の公船領海侵犯事案が集中、と言い換えると、何故沖縄ばかりを周辺国が狙うのだろうか、という視点にも変わってきそうなものではありますが。それはさておき、即応部隊を配置すると共に、日米共同の区域を広げ、広い意味での防衛用地の負担などを考える機会となれば、とも思うところです。
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