◆マーシャル諸島より模擬ICBM発射、西海岸で迎撃
NHK等の報道によれば、米軍は明日5日、米本土へのミサイル攻撃を想定しGBI(Ground Based Interceptor)をもちいた迎撃実験を行う、とのこと。
迎撃実験では、今回は海上配備型ではなく地上配備型迎撃ミサイルGBIを使用し、アメリカ本土に飛来する大陸間弾道弾を迎撃するという想定で行われ、所謂指揮所訓練やシュミュレーションではなく、実際に太平洋上のマーシャル諸島より模擬大陸間弾道弾をアメリカ本土に向け発射、これを西海岸カリフォルニア州配備の地上配備型迎撃ミサイルの発射により、大気圏外で直撃させ無力化、迎撃を行う、実際のミサイル発射から迎撃までの手順を以て実験を行います。
GBIは航空自衛隊が運用するPAC-3や資料収集を開始したTHAADが中距離弾道弾を想定しているのに対し、大陸間弾道弾の迎撃を想定し開発が進められているもので、宇宙空間へ大気圏外迎撃機EKVを上昇させ、弾道ミサイルを破壊します。GBIについて、その射程は明示されていませんが、試作機では発射用ブースターに射程14000kmの大陸間弾道弾ミニットマンⅡを使用していることから一説には迎撃高度2000km以上、迎撃半径もそれ以上となるとされています。
弾道ミサイルは射程が大きくなればなるほど、飛翔距離と共に落下の速度が増大し、距離の面から対処時間には中距離弾道弾よりも若干の余裕は生まれるのですが、大きくなる落下速度のため、迎撃ミサイルによる迎撃は非常な精度を要し、索敵技術や追尾に関する技術と情報伝送技術の発展により大気圏外迎撃機EKVの開発に成功、一定の目処が立った、とされています。このGBIは現在、アラスカ州フォートグリーリー基地へ24基、カルフォルニア州ヴァンデンバーグ基地へ6基が配備中で、2017年までに更に14基が追加配備されるもの。
今回の実験は、北朝鮮の米本土への核攻撃能力への対処を念頭に置いたものとされます。従来、米本土への核攻撃の脅威は冷戦下のソ連によるものが基本であり、これは相互確証破壊秩序に基づく、核攻撃を一方が行えば双方の陣営が有する膨大な核戦力の全てを投じた報復攻撃が行われることで双方が確実に全滅するため、この現実に依拠して双方とも相互が確実且つ徹底した破壊に曝される確証を以て核戦争抑止となる秩序が、北朝鮮の核開発及び長距離弾道弾開発により対応出来なくなった実情に反映される、というべきでしょう。
北朝鮮の核兵器はこの点で非常に世界へ及ぼす脅威が大きいわけです。所謂核兵器国、これは核不拡散条約発効までに核兵器の保有を明言した国を除き核兵器の保有を禁じた核拡散防止の国際公序ですが、この中で核攻撃に際し、何処の主体による核攻撃であるかを確認する手段が、アメリカとロシアの一部しか有していない実情があり、例えば中国などは核兵器国ですが本土が核攻撃された場合、何処から攻撃されたかをレーダーによる早期警戒網や衛星情報により確認する術を持ちません。
この為、仮にの話ですが事故を含め中国国内で核爆発と認識される爆発があった場合、中国側は相手の宣言が無かった場合、確認が出来ないのです。これに対し、確証を行わず推測で周辺国へ核攻撃を行った場合、これが全面核戦争の引き金と成り得るわけです。こうした観点から、核兵器国を除く核兵器保有は阻止されなければなりませんし、核不拡散防止条約に明示されている核兵器国の核軍縮義務は、現在一国のみ増強されていますが、履行することで、核兵器国以外の核保有国を抑止しなければなりません。
加えてGBIの実験は、大陸間弾道弾の飛来を核攻撃と認識し反撃するという冷戦時代の構図が成り立ちにくくなっている実情の反映でも考えることが出来ます。こういうのも、大陸間弾道弾は核弾頭を有するのか、通常弾頭であるのかは着弾までは確認のしようが無いわけで、これまでの冷戦時代に取っていたような、飛翔体確認即核反撃、という構図も例えば北朝鮮が通常弾頭型弾道弾を米本土に発射したのを米軍が飛翔体確認の時点で核攻撃と誤認し、戦略核で反撃する、という構図は難しく、非常に大きなリスクを有するわけです。
我が国では野党、一時は連立与党にも加わった野党党首の発言として、一発ならば誤射かもしれない、という名言(迷言)がありますが、大都市が核攻撃された場合、東日本大震災の十倍近いの死者が出ることが1945年の人口35万という広島市への核攻撃で判明しており、誤射であってもこれだけの死者は許容できる国はありません。しかし、飛翔体確認だけで反撃できないのも実情であり、相互確証破壊も成り立ちにくい状況があるわけです。結果、まずGBIという盾で防ぎ、対応を熟慮する、という体制固めへ、GBIの実験の必要性が大きいことが、分かるでしょう。
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