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小牧基地航空祭2016/2015年度オープンベース【3】 小牧基地のKC-767空中給油輸送機

2016-03-27 21:22:07 | 航空自衛隊 装備名鑑
■KC-767空中給油輸送機
 小牧基地はC-130Hの基地、と前回紹介しましたが本日のお題はKC-767、原型がボーイング767で太平洋を無給油で飛行可能である初の双発旅客機です。

 KC-767,この装備化により自衛隊は大きく変わりました、先行するE-767の配備もそうでしたが。燃料を満タンとすれば旅客輸送でもニューヨークワシントンDC等アメリカ東海岸やロンドンパリといった欧州まで飛行できる旅客機です。航空自衛隊は初の空中給油機に輸送人員は200名程度輸送可能で航空パレット貨物6基か小型トラック4両の輸送能力を持ち航続距離は貨物搭載量30t時6500km以上を要求しました。

 自衛隊kとしては巨大な機体、KC-767の空中給油機としての性能は最大燃料重量91.627tで充分な飛行を維持しつつF-15J戦闘機15機分、自機用燃料を一定程度流用する事でF-15戦闘機22機分の燃料を搭載可能です。F-15は元々戦闘行動半径が非常に大きく、実は最新のF-35戦闘機を上回り戦闘行動半径は九州や北陸を拠点とした場合、中国の北京を含むほどではありますが、空中戦を行う場合燃料消費が激しい。

 空中給油機はこうした機動飛行を連続した場合に燃料不足となった戦闘機への給油による基地への帰投支援を行う事になります、満タンで最大22機というと少々心細く思えるのですがF-15戦闘機はフェリー航続距離で機内燃料の実の場合に3450kmあり、増槽を装着する事でこれは4630kmまで伸びます、ですからこの場合必ずしも満タンにする必要は無く基地も戻るだけならばさらに多くの機数への給油が可能でしょう。

 戦闘機の行動半径を伸ばす空中給油機にはもう一つ、爆装した機体への給油という能力が挙げられます。F-2支援戦闘機など、爆弾を搭載しますね。戦闘機には最大離陸重量というエンジン推力の限界に起因する離陸の上限がありますが、爆弾を大量に搭載すればそれだけ燃料が積載できなくなるわけです、そこで目いっぱい爆弾を搭載し、燃料を少々少なく搭載、離陸後に空中給油し航続距離を伸ばす、という用法もあるわけです。

 長距離を飛行できるというKC-767,KC-767の航続距離は貨物32t搭載時に9260kmもの性能を誇り、4.5t搭載と抑えるならば14075kmもの航続距離を有します。200名までの座席を搭載する事も出来、勿論与圧されていますので、パレット上にシートを搭載したシートパレットを機内に並べる事で人員輸送が可能となる訳です。ただ、窓がありませんので、眼下に俯瞰風景を楽しむことは出来ません。

 航空自衛隊はここ小牧基地の第404飛行隊に4機のKC-767を運用しているのですが、当初計画では8機から9機、可能であれば14機程度の機体導入を当初希望していました、しかし、KC-767を導入した当時は今と同様に財政難であった為、一挙に10機前後のKC-767を調達するだけの余裕は無く、一旦、4機を導入し運用研究を行ったうえでその後の判断を行う、という事としました。

 お試し導入、ではありませんが、これには4機といえども自衛隊が自前のKC-767を運用していることで、空中給油訓練を広く実施する事が出来ます、そして、航空自衛隊がF-15戦闘機やF-2支援戦闘機へ空中給油訓練を実施する事で、有事の際にアメリカ空軍が装備するKC-135空中給油機が支援へ展開した際に即座に空中給油を受けられるよう、KC-135はアメリカ空軍がB-52戦略爆撃機支援用に760機も導入した伝説の機体なのですが、増援を受ける公算もあったのです。

 航空自衛隊はKC-767の能力を高く評価し、そして財務当局も財政難は続いているものの、KC-767を導入する事で南西諸島防空へ現状の戦闘機を最大限運用できるという部分から増勢に賛同する姿勢を見せます、空中給油輸送機の増勢を認められなければ、代わりに戦闘機を、つまりF-35戦闘機を増勢するよう、防衛省よりも政治が要求するであろうことは目に見えていましたから、ね。

 良いものだったので、KC-767を増勢する、という指針を示しましたが、時機が悪すぎました、KC-767調達完了から暫く経っていますと、原型機が生産終了してしまい、調達する事が出来なくなったのでした。そこで、航空自衛隊は最初から次期空中給油輸送機選定を行う必要に迫られ、アメリカ製のボーイング767最新型を原型とするボーイングKC-46と、フランスのエアバスA-330を原型とするKC-45とで選定が争われる事となりました。

 期せずしてエアバスvsボーイング、となりましたが、航空自衛隊はKC-46に決定、増強する事となりました。実はこの選定について、エアバスは選定に不透明な部分があるとして抗議しています。航空自衛隊は既にKC-767を運用しているのですから、KC-767と整備機材やエンジンと操縦系統などでどの程度共通性があるかを重視している訳ですが、これを明示せずボーイング767とエアバスA-310という選定となった訳です。

 E-767やKC-767の機材を応用できる機体が欲しい、ここを最初に明示すればそもそもエアバスはKC-45を提示する事は無かったでしょう、航空自衛隊はKC-767のほかにE-767としてボーイング767系統の機体を運用しています。実際問題空中給油能力を見ますと機体はエアバスA-330の方が大型であるので選定には万全の自信を以てエアバスは臨んだといいます、しかし、結果はKC-767の系統の延長上にあるKC-46、と。

 公正こそ正当化の要件で言いたくとも言えない、此処が防衛調達行政の無理な公正化を目指した弊害といえるのですが、KC-767と完全に同型の航空機がない以上、新型空中給油輸送機を選定する事となるのですが、新型機をKC-767と共通性があるといって安易に決定すれば、随意契約や密室取引、と批判される可能性がある事もない事もないかも、という官僚的理由から行われた選定でした。しかし、これを表面に出すわけにはいかず、逆にエアバスからは非合理な選定とみえたのでしょう、ある意味当然といえる。

 さてこのKC-767は大きな空輸能力を持ち、その一端はアラスカやグアムでの実弾訓練へ空中給油任務として活躍しただけではなく、東日本大震災においては、全国からの救援物資を被災地へ空輸する航空自衛隊の重要な航空機として活躍しました、菓子パン等をメーカーからの提供により空輸したことで、被災地では、空飛ぶパン屋さん、という愛称で呼ばれたのだとか。

 小牧基地航空祭ではKC-767は、巨大な機体が来場者の注目を集めますが、飛行展示で迫力の飛行を展示すると共に、機内も一般に開放されます、ただ、来場者は多くとも一般公開される機体は1機のみですので行列はかなり長くなり、一時間以上並ぶこととなります。それでも普段旅客機に乗る機会はあっても空中給油機は中々見る事は出来ませんので、やはり人気の航空機といえるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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