■米大統領選と英EU離脱投票
二〇一六年もあとわずかですが、本年は様々な変化の一年となりました。本年特に考えさせられたのは世界政治へのポピュリズムの影響です。しかし、この事象をもう一つ加え複合要素から考えてゆくべきなのかもしれません。
ロイター通信にて“焦点:ロシアのデマ作戦に負けた米国、大統領選でリスク現実に”という興味深いコラムが掲載されました。サイバー戦争の脅威は、大量通信技術確立と共に常にありましたが、ネット工作員、と揶揄された意図的な偽情報を流す一種の荒らし行為を、国家単位で行い、世論形成へ大きな影響を及ぼす、非常に意外な事といえるでしょう。
兵器無き電子戦争が展開している、こうした印象でしょうか。Webへの言論監視には各国ともに特に民主主義を長く標榜する国ほどその限界が大きく、一方、民主主義は国民の政治参加の度合いが薄まればポピュリズム即ち大衆迎合主義の台頭を醸成する事となりますが、IT革命と称された今世紀初頭以降情報流通量の増大がこれに拍車をかけたかたちです。
報道機関の様式を模倣し、誇張報道や虚報を誤解に加える形で報じ第三者の引用を誘い、敵対勢力の対立を煽るという方式で、表現の自由は民主国家にとりその原点というべきものですが、まさか敵対国家が国家予算により大量のデマ拡散公務員を雇用し、攻勢を仕掛ける、というもの、古典的手段を最新技術で行う事は意外なものと云わざるを得ません。
公的機関によるWebでの情報操作の懸念は今回の物が初めてではありません、公的機関によるWebでの世論形成は初期の代表的なものとして、2010年代前後に政府機関などがWeb百科事典などの政府関連情報や事業評価項目に関しての匿名編集を実施している事が明るみに出た際に問題視され、政治的な項目編集では様々なアクターが参加する一例でした。
参加型Web百科事典への編集は、履歴などから確認されるものですが、この事件では日本でも公官庁からの履歴が発見され騒ぎになりはじめましたが、編集項目がアニメーション関連キャラクター紹介等に偏重しており、単に業務怠慢とPC私用など、批判は他国程大きくはなりませんでした。しかし、難しい問題が萌芽し始めた時期と今日的に解釈できます。
今回問題視されているのは、単純な政治プロパガンダをWeb上において実施する、という単純な手法を用いるのではなく、自国に有利な競合国の内政情報や通商情報などを正確性を意識し広め、この中に伝統的な誇張表現を織り込むことで競合国の国内対立をあおるなどの措置をとっており、直接の脅威とはなりにくいものですが蓄積されれば顕在化する。
この種の情報は大量に、また、当事国向け以外にその友好国への敵対勢力醸成へ利用されており、これを阻むには中傷合戦を繰り返すか、全ての言語情報を監視し、誇張情報や虚偽情報を確認するほか、選択肢はないでしょう。しかし、全ての情報を監視する事はそれだけ費用を要しますし、虚偽情報訂正を全て行う事は巨大な偏重情報公開を必要とします。
ポピュリズムの台頭は、この潮流と不幸にも完全に波長を重ねてしまいました、プロパガンダ戦争により相手に対し必要な混乱や対立扇動を仕組む。ポピュリズムは支持者に合わせ現実性を必ずしも重視しない宣言的公約と討議排斥により形成されるのですが、例えばアメリカ大統領選やイギリス欧州連合離脱国民投票、この代表的な事例といえるでしょう。
サイバー空間におけるプロパガンダ戦争は、こうして新しい様相を呈していますが、難しいのは民主国家にとり保守勢力と革新勢力の競合へ政府が介入せず、一方で意図的なデマ情報を織り交ぜた疑似報道を監視し取り締まる事は、単純な思想取締りとの境界が不明確となる点です。言論の自由には原点として思想の自由市場という原則があるとされます。
思想の自由市場、危険情報であるのか否かは一旦思想の自由市場へ広めてから判断する事が基本です、その上で悪質なデマと判断する主題がどれだけ正統性と正当性を主権者から得ているか、難しい問題です。特に正統性と正当性が多文化共生やグローバル化による自由競争の拡大により確たる価値観の共有、一元論が変容しつつあり、難しくなりました。
情報を精査する努力、自衛措置として最も簡単な手段に挙げられます、大勢と異なる論調を報じる事例に対し、最後まで一次情報の上流へ遡上する事で、誇大情報や情報源に不明瞭な媒体を経由していないか。一方、こうした簡単な解決策は簡単な問題に塞き止められます、即ち、全ての情報を個々人が精査し理解するには余りに時間が足りないということ。
民主主義とは主権者の政治参加により醸成される正統性に依拠したものですから、主権者は政治参加の時間を捻出しなければなりません、同時にこの過程には討議と妥協を経ての合意形成が必要であり、この積層が民主主義を構築する訳ですが、諸問題への共通知と知識集約への参加が必要となります、が、現在の経済構造は、その為の余暇を許容しません。かつて国民国家形成と共に国民は自らの時間から国家へ軍事力を提供する事で国民を自らの物としましたが、今日では情報精査と政治参加という自らの時間を投じる必要を突き付けられているのかもしれません。
北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
二〇一六年もあとわずかですが、本年は様々な変化の一年となりました。本年特に考えさせられたのは世界政治へのポピュリズムの影響です。しかし、この事象をもう一つ加え複合要素から考えてゆくべきなのかもしれません。
ロイター通信にて“焦点:ロシアのデマ作戦に負けた米国、大統領選でリスク現実に”という興味深いコラムが掲載されました。サイバー戦争の脅威は、大量通信技術確立と共に常にありましたが、ネット工作員、と揶揄された意図的な偽情報を流す一種の荒らし行為を、国家単位で行い、世論形成へ大きな影響を及ぼす、非常に意外な事といえるでしょう。
兵器無き電子戦争が展開している、こうした印象でしょうか。Webへの言論監視には各国ともに特に民主主義を長く標榜する国ほどその限界が大きく、一方、民主主義は国民の政治参加の度合いが薄まればポピュリズム即ち大衆迎合主義の台頭を醸成する事となりますが、IT革命と称された今世紀初頭以降情報流通量の増大がこれに拍車をかけたかたちです。
報道機関の様式を模倣し、誇張報道や虚報を誤解に加える形で報じ第三者の引用を誘い、敵対勢力の対立を煽るという方式で、表現の自由は民主国家にとりその原点というべきものですが、まさか敵対国家が国家予算により大量のデマ拡散公務員を雇用し、攻勢を仕掛ける、というもの、古典的手段を最新技術で行う事は意外なものと云わざるを得ません。
公的機関によるWebでの情報操作の懸念は今回の物が初めてではありません、公的機関によるWebでの世論形成は初期の代表的なものとして、2010年代前後に政府機関などがWeb百科事典などの政府関連情報や事業評価項目に関しての匿名編集を実施している事が明るみに出た際に問題視され、政治的な項目編集では様々なアクターが参加する一例でした。
参加型Web百科事典への編集は、履歴などから確認されるものですが、この事件では日本でも公官庁からの履歴が発見され騒ぎになりはじめましたが、編集項目がアニメーション関連キャラクター紹介等に偏重しており、単に業務怠慢とPC私用など、批判は他国程大きくはなりませんでした。しかし、難しい問題が萌芽し始めた時期と今日的に解釈できます。
今回問題視されているのは、単純な政治プロパガンダをWeb上において実施する、という単純な手法を用いるのではなく、自国に有利な競合国の内政情報や通商情報などを正確性を意識し広め、この中に伝統的な誇張表現を織り込むことで競合国の国内対立をあおるなどの措置をとっており、直接の脅威とはなりにくいものですが蓄積されれば顕在化する。
この種の情報は大量に、また、当事国向け以外にその友好国への敵対勢力醸成へ利用されており、これを阻むには中傷合戦を繰り返すか、全ての言語情報を監視し、誇張情報や虚偽情報を確認するほか、選択肢はないでしょう。しかし、全ての情報を監視する事はそれだけ費用を要しますし、虚偽情報訂正を全て行う事は巨大な偏重情報公開を必要とします。
ポピュリズムの台頭は、この潮流と不幸にも完全に波長を重ねてしまいました、プロパガンダ戦争により相手に対し必要な混乱や対立扇動を仕組む。ポピュリズムは支持者に合わせ現実性を必ずしも重視しない宣言的公約と討議排斥により形成されるのですが、例えばアメリカ大統領選やイギリス欧州連合離脱国民投票、この代表的な事例といえるでしょう。
サイバー空間におけるプロパガンダ戦争は、こうして新しい様相を呈していますが、難しいのは民主国家にとり保守勢力と革新勢力の競合へ政府が介入せず、一方で意図的なデマ情報を織り交ぜた疑似報道を監視し取り締まる事は、単純な思想取締りとの境界が不明確となる点です。言論の自由には原点として思想の自由市場という原則があるとされます。
思想の自由市場、危険情報であるのか否かは一旦思想の自由市場へ広めてから判断する事が基本です、その上で悪質なデマと判断する主題がどれだけ正統性と正当性を主権者から得ているか、難しい問題です。特に正統性と正当性が多文化共生やグローバル化による自由競争の拡大により確たる価値観の共有、一元論が変容しつつあり、難しくなりました。
情報を精査する努力、自衛措置として最も簡単な手段に挙げられます、大勢と異なる論調を報じる事例に対し、最後まで一次情報の上流へ遡上する事で、誇大情報や情報源に不明瞭な媒体を経由していないか。一方、こうした簡単な解決策は簡単な問題に塞き止められます、即ち、全ての情報を個々人が精査し理解するには余りに時間が足りないということ。
民主主義とは主権者の政治参加により醸成される正統性に依拠したものですから、主権者は政治参加の時間を捻出しなければなりません、同時にこの過程には討議と妥協を経ての合意形成が必要であり、この積層が民主主義を構築する訳ですが、諸問題への共通知と知識集約への参加が必要となります、が、現在の経済構造は、その為の余暇を許容しません。かつて国民国家形成と共に国民は自らの時間から国家へ軍事力を提供する事で国民を自らの物としましたが、今日では情報精査と政治参加という自らの時間を投じる必要を突き付けられているのかもしれません。
北大路機関:はるな くらま
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