■あまつかぜ型イージス艦案
北朝鮮の昨日実施された核実験は70キロトンに達する威力といわれ、重大な脅威であると痛感しました。
あさひ型護衛艦の公試が開始され、5000t型護衛艦が長崎から洋上での試験を繰り返しているようです。あきづき型護衛艦と同じ基準排水量5000t、満載排水量7000tの護衛艦ですが搭載するレーダーが新型となり艦橋構造物に集約されている事で重厚な艦容となっており、しかも当初予測の倍に当たる32セルのミサイル垂直発射装置が搭載されたと判明しました。
あきづき型に続く護衛艦あさひ型を見ますと、基準排水量5000t程度の護衛艦にSPY-1DレーダーとスタンダードSM-3迎撃ミサイルを搭載する小型イージス艦、初のターターシステム艦となった護衛艦の二代目という位置づけで、あまつかぜ型イージス艦とでもいいましょうか、これを、護衛艦隊直轄のミサイル護衛艦として整備出来ないか、と考えてしまいます。勿論本型は対潜戦闘を念頭とした設計であり、そのままレーダーを載せ替えるだけでは完成しない事は当然ですが。
イージスアショア、政府は北朝鮮の相次ぐ核実験によりミサイル防衛を確実とするべく、現在のペトリオットミサイルPAC-3よりも遥かに広範囲の防空が可能となるイージスアショア、陸上型イージスシステムの調達を念頭として来年度予算に事項要求を盛り込みました。事項要求とは実施事項が明示され、予算を度外視し確実に整備事業を行う要求です。
しかし、イージスアショアを導入するくらいならば、小型のイージス艦を3隻から5隻程度増強した方が長期的にいいのではないでしょうか。海上自衛隊のイージス艦は、こんごう型4隻が満載排水量9500t、あたご型2隻満載排水量10000tの大型艦ですが、世界にはスペインのアルバロデバサン級という満載排水量5800tのイージス艦が整備されています。
現在の陸上迎撃はペトリオットPAC-3で、20km圏内の弾道ミサイルを迎撃するもので、対航空機用で100kmの射程をもつPAC-2の発射装置に搭載できる弾道ミサイル迎撃用の新型ミサイルを搭載したもので、航空機は揚力により飛行する為に爆発の破片などで機体形状を破壊変形させれば墜落しますが、宇宙空間から落ちてくる弾道ミサイルは無理です。
PAC-3はこの為、弾道ミサイルの弾頭部分に直撃させる事で高高度にて無害化できます。しかし、基地や指揮中枢を防空するもので、都市防空等の広範囲を防衛するための装備ではありません。迎撃範囲20kmでは狭すぎるとして改良型のPAC-3MSEが30kmまで延伸していますが、アメリカでは都市防空に射程250kmのTHAADミサイルを使用しています。
防衛省が導入の意向を示しているイージスアショアは射程1100kmのスタンダードSM-3迎撃ミサイルを運用する陸上のイージス艦です。海上自衛隊は6隻のイージス艦を保有し4隻が弾道ミサイル迎撃改修を実施、残る2隻が改修中で更に2隻の8200t型イージス艦が予算計上されていますが、更に二カ所程度陸上にイージスシステムを置くという構想です。
THAADは一式1250億円程度を要し、しかも射程が250kmですので日本全土を防空するには4セットから5セットが必要となります。対してイージスアショアの整備費用は700億円程度、1基で本州全域を、2基あれば北海道から沖縄まで日本全土を防空可能です。こう書きますとイージスアショアがコスト面で有利に見えますが、実は重大な問題がある。
イージスアショアは放物線を描く弾道ミサイルの中間段階を迎撃する、サッカーでいうならばミッドフィールダーに当ります。対してTHAADはTが終末や終点を意味するターミナルを示し、サッカーでいうならばディフェンダーとゴールキーパーを兼ねるものです。いかに優秀なミッドフィールダーが居ても、ゴール前ががら空きでは試合は心もとない。
ミサイル防衛に際し海上自衛隊のイージス艦が日本海に展開するものの、東京湾でミサイル防衛に当らないのはイージス艦のSM-3ミサイルが長射程であるものの、一定以下の高度では迎撃が出来ない構造となっている為です。SM-3迎撃能力はキネティック弾頭という日米共同開発の特殊弾頭ですが、これは一種宇宙空間で弾道弾を追うグローブのようなもの。
弾道ミサイルは短距離弾道弾で秒速3km、中距離弾道弾で秒速8kmという極超音速で飛行していますので、軌道修正姿勢制御装置を用い宇宙空間に正確に弾道の進路上に浮遊させる迎撃弾頭がまちかまえていれば、弾道ミサイルは電柱に激突する暴走オートバイと同じ運命を辿ります。この為、高度160kmという成層圏の上の電離層で迎撃を行う方式を採る。
スタンダードSM-3の迎撃下限高度は70kmとされ、この高度を下回る場合は迎撃できません。すると、移動できないイージスアショアそのものがミサイル攻撃された場合の脆弱性がありますし、仮に北朝鮮が潜水艦発射弾道弾等、意図しない方向からミサイルを発射した場合には、イージスアショアは考えられている程の正確な迎撃能力を発揮出来ません。
しかしイージス艦ならばどうか、イージス艦は独力航行出来、というよりも極めて高度な機動力を持つ水上戦闘艦です。勿論、イージスアショアよりも機関部はじめ各種装備を搭載する分、建造費は大きくなりますが、迎撃高度の問題から弾道ミサイルの中間段階を迎撃するという本質上、洋上に配置すべき装備です。能力的に実質終末迎撃を担えるのか。
北朝鮮の核実験が昨日実施された爆発規模が非常に大きく70キロトン程度と考えられています。この為、この規模の核爆弾が地上で爆発した場合の爆発半径はPAC-3の迎撃圏外に落下した場合でも影響が及びます。更に強力な核爆弾の開発を北朝鮮は進める意思を示しており、この点から現状の迎撃態勢が不充分という点でミサイル防衛強化が必要でしょう。
しかし、イージスアショアという結論には異論があります。勿論絶対反対ではありません、イージスシステムのSM-3派生型に当たる対航空機用長射程のSM-6ミサイルをペトリオットミサイルPAC-2の後継として採用し、SPY-1レーダー牽引型を開発し、自衛隊のミサイル体系をペトリオットからスタンダード陸上型へ切替えるならば方法として賛同し得ます。それ以外ならば、無理をせずあまつかぜ型イージス艦というような汎用護衛艦の艦名を冠する程度の小型イージス艦の量産とPAC-3MSEにより当面の脅威へ対処すべきでしょう。
北大路機関:はるな くらま
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北朝鮮の昨日実施された核実験は70キロトンに達する威力といわれ、重大な脅威であると痛感しました。
あさひ型護衛艦の公試が開始され、5000t型護衛艦が長崎から洋上での試験を繰り返しているようです。あきづき型護衛艦と同じ基準排水量5000t、満載排水量7000tの護衛艦ですが搭載するレーダーが新型となり艦橋構造物に集約されている事で重厚な艦容となっており、しかも当初予測の倍に当たる32セルのミサイル垂直発射装置が搭載されたと判明しました。
あきづき型に続く護衛艦あさひ型を見ますと、基準排水量5000t程度の護衛艦にSPY-1DレーダーとスタンダードSM-3迎撃ミサイルを搭載する小型イージス艦、初のターターシステム艦となった護衛艦の二代目という位置づけで、あまつかぜ型イージス艦とでもいいましょうか、これを、護衛艦隊直轄のミサイル護衛艦として整備出来ないか、と考えてしまいます。勿論本型は対潜戦闘を念頭とした設計であり、そのままレーダーを載せ替えるだけでは完成しない事は当然ですが。
イージスアショア、政府は北朝鮮の相次ぐ核実験によりミサイル防衛を確実とするべく、現在のペトリオットミサイルPAC-3よりも遥かに広範囲の防空が可能となるイージスアショア、陸上型イージスシステムの調達を念頭として来年度予算に事項要求を盛り込みました。事項要求とは実施事項が明示され、予算を度外視し確実に整備事業を行う要求です。
しかし、イージスアショアを導入するくらいならば、小型のイージス艦を3隻から5隻程度増強した方が長期的にいいのではないでしょうか。海上自衛隊のイージス艦は、こんごう型4隻が満載排水量9500t、あたご型2隻満載排水量10000tの大型艦ですが、世界にはスペインのアルバロデバサン級という満載排水量5800tのイージス艦が整備されています。
現在の陸上迎撃はペトリオットPAC-3で、20km圏内の弾道ミサイルを迎撃するもので、対航空機用で100kmの射程をもつPAC-2の発射装置に搭載できる弾道ミサイル迎撃用の新型ミサイルを搭載したもので、航空機は揚力により飛行する為に爆発の破片などで機体形状を破壊変形させれば墜落しますが、宇宙空間から落ちてくる弾道ミサイルは無理です。
PAC-3はこの為、弾道ミサイルの弾頭部分に直撃させる事で高高度にて無害化できます。しかし、基地や指揮中枢を防空するもので、都市防空等の広範囲を防衛するための装備ではありません。迎撃範囲20kmでは狭すぎるとして改良型のPAC-3MSEが30kmまで延伸していますが、アメリカでは都市防空に射程250kmのTHAADミサイルを使用しています。
防衛省が導入の意向を示しているイージスアショアは射程1100kmのスタンダードSM-3迎撃ミサイルを運用する陸上のイージス艦です。海上自衛隊は6隻のイージス艦を保有し4隻が弾道ミサイル迎撃改修を実施、残る2隻が改修中で更に2隻の8200t型イージス艦が予算計上されていますが、更に二カ所程度陸上にイージスシステムを置くという構想です。
THAADは一式1250億円程度を要し、しかも射程が250kmですので日本全土を防空するには4セットから5セットが必要となります。対してイージスアショアの整備費用は700億円程度、1基で本州全域を、2基あれば北海道から沖縄まで日本全土を防空可能です。こう書きますとイージスアショアがコスト面で有利に見えますが、実は重大な問題がある。
イージスアショアは放物線を描く弾道ミサイルの中間段階を迎撃する、サッカーでいうならばミッドフィールダーに当ります。対してTHAADはTが終末や終点を意味するターミナルを示し、サッカーでいうならばディフェンダーとゴールキーパーを兼ねるものです。いかに優秀なミッドフィールダーが居ても、ゴール前ががら空きでは試合は心もとない。
ミサイル防衛に際し海上自衛隊のイージス艦が日本海に展開するものの、東京湾でミサイル防衛に当らないのはイージス艦のSM-3ミサイルが長射程であるものの、一定以下の高度では迎撃が出来ない構造となっている為です。SM-3迎撃能力はキネティック弾頭という日米共同開発の特殊弾頭ですが、これは一種宇宙空間で弾道弾を追うグローブのようなもの。
弾道ミサイルは短距離弾道弾で秒速3km、中距離弾道弾で秒速8kmという極超音速で飛行していますので、軌道修正姿勢制御装置を用い宇宙空間に正確に弾道の進路上に浮遊させる迎撃弾頭がまちかまえていれば、弾道ミサイルは電柱に激突する暴走オートバイと同じ運命を辿ります。この為、高度160kmという成層圏の上の電離層で迎撃を行う方式を採る。
スタンダードSM-3の迎撃下限高度は70kmとされ、この高度を下回る場合は迎撃できません。すると、移動できないイージスアショアそのものがミサイル攻撃された場合の脆弱性がありますし、仮に北朝鮮が潜水艦発射弾道弾等、意図しない方向からミサイルを発射した場合には、イージスアショアは考えられている程の正確な迎撃能力を発揮出来ません。
しかしイージス艦ならばどうか、イージス艦は独力航行出来、というよりも極めて高度な機動力を持つ水上戦闘艦です。勿論、イージスアショアよりも機関部はじめ各種装備を搭載する分、建造費は大きくなりますが、迎撃高度の問題から弾道ミサイルの中間段階を迎撃するという本質上、洋上に配置すべき装備です。能力的に実質終末迎撃を担えるのか。
北朝鮮の核実験が昨日実施された爆発規模が非常に大きく70キロトン程度と考えられています。この為、この規模の核爆弾が地上で爆発した場合の爆発半径はPAC-3の迎撃圏外に落下した場合でも影響が及びます。更に強力な核爆弾の開発を北朝鮮は進める意思を示しており、この点から現状の迎撃態勢が不充分という点でミサイル防衛強化が必要でしょう。
しかし、イージスアショアという結論には異論があります。勿論絶対反対ではありません、イージスシステムのSM-3派生型に当たる対航空機用長射程のSM-6ミサイルをペトリオットミサイルPAC-2の後継として採用し、SPY-1レーダー牽引型を開発し、自衛隊のミサイル体系をペトリオットからスタンダード陸上型へ切替えるならば方法として賛同し得ます。それ以外ならば、無理をせずあまつかぜ型イージス艦というような汎用護衛艦の艦名を冠する程度の小型イージス艦の量産とPAC-3MSEにより当面の脅威へ対処すべきでしょう。
北大路機関:はるな くらま
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