北大路機関

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【くらま】日本DDH物語 《第二四回》HSS-2対潜ヘリコプターとヘリコプター搭載護衛艦

2017-09-16 20:01:08 | 先端軍事テクノロジー
■ヘリコプター搭載護衛艦への道
 対潜空母建造計画や中古空母計画という困難な計画への検討の一方で着実な防衛力整備は抜かりありません。

 海上自衛隊はHSS-2対潜ヘリコプターの運用実績を着実に高めてゆきました。1970年の時点で館山航空基地の第21航空群は航空集団唯一の対潜ヘリコプター部隊であり、隷下の第101航空隊にHSS-2対潜ヘリコプター9機が配備されただけでしたが、地方隊では航空対潜哨戒任務の主力として小松島航空隊と大湊航空隊や大村航空隊へも配備されています。

 HSS-2は1973年までに実に55機が発注されます。現行のSH-60J/Kよりも機体規模は大きく、重量も空虚重量6.2tあり、これは超音速戦闘機F-104の空虚重量6.35tに迫るものでした。全備重量9.5t、全長16.7mと回転翼直径18.9m、上昇限度は4500mあり富士山を遥かに超える他、機内燃料は3180ℓを搭載し航続距離は約1000kmに達し、巡航速度219km/hという大型ながら当時として充分な機動力があります。

 三菱重工がライセンス生産基盤を整備した事も海上自衛隊のHSS-2への強い期待が見て取れます。HSS-2はアメリカ海軍が1961年に初飛行させ、1962年に新機種呼称のSH-3として海軍での運用が決定しました。この新鋭機を海上自衛隊が導入したのは1963年で、アメリカ海軍での運用が開始されて直後の導入で、新装備供与へのアメリカの姿勢が覗える。

 HSS-2対潜ヘリコプターは対潜ヘリコプターとしては特筆して高性能でした。三菱重工においてライセンス生産されたHSS-2は石川島播磨重工製の強力なCT58-IHI-110-2エンジンを採用し、1000kmという長大な航続距離を有するとともに対潜機材として当時最新のAN/AQS-10ディッピングソナーとAN/APN-130ドップラーレーダーを搭載していました。

 AN/AQS-10ディッピングソナーは7km以内の潜水艦の捕捉し、海面下で潜水艦を隠す海水変温層や塩分濃度層を越えてソナーを展開させる事が出来ます。また、AN/APN-130ドップラーレーダーは潜水艦が潜望鏡により襲撃行動に移る瞬間を見逃しません。更に夜間や濃霧等でも自動安定装置付自動操縦装置と電波高度計を用い対潜哨戒が可能でした。

 HSS-2の運用は、潜水艦に対する護衛艦の対潜訓練を大きく変容させるものとなりました。こう言いますのも、潜水艦の潜航水域へ直接飛行し、ホバーリングしつつ任意の深度へソナーを降ろし聴音します。潜水艦のソナーは護衛艦を追尾できますがヘリコプターは勝手が違う。この為、潜水艦は航行一つとってもヘリコプターを最大限警戒せねばなりません。

 三菱重工においてライセンス生産を開始したHSS-2はその後、順調に改良型が生産されてゆく事となります。国内に予備部品供給の基盤が構築されるのですから、稼働率を高め、更に近代化改修や改良型の開発等へも自由度が高くなる事を意味します。HSS-2は三菱重工にて実に185機もの多数が量産、HSS-2はHSS-2改良型で置き換えられてゆきます。

 HSS-2はその後、HSS-2A,さらにその改良型であるHSS-2Bへと発展してゆき、HSS-2には無かったソノブイ運用能力も改良型から付与されてゆく事となります。これは同時に、航空集団の他、地方隊航空隊へも配備が進められ海上自衛隊全般の航空対潜哨戒能力向上へも大きく寄与すると共に、大型ヘリコプター運用基盤を構築する事ともなりました。

 しかし、海上自衛隊はシーレーン防衛を強化し、海上交通を維持する観点から日本列島を遥かに超えて太平洋上に航空対潜哨戒の第一線を想定しなければなりません。特に1969年の小笠原返還、1972年の沖縄返還と共に海上自衛隊が対潜哨戒を行う範囲は必然的に長大化する為、ヘリコプター艦上運用、との視点が必然的となる時代が到来しつつありました。

北大路機関:はるな くらま
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