北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

西日本豪雨(平成三〇年度七月豪雨),政府主導支援と地方分権時代の地方自治体危機管理を問う

2018-07-19 20:02:49 | 防災・災害派遣
■巨大水害は想定外であったか
 西日本豪雨災害発災から本日で二週間となりました。まず最初に被災された方々へ心からお見舞い申し上げます。

 西日本豪雨自衛隊災害派遣は第13旅団と第3師団に加え、本日より新たに旭川第2師団、東千歳第7師団、真駒内第11旅団が北海道より展開し、航空自衛隊も那覇の南西航空方面隊が作戦加入、そして四国での災害派遣に目処がついた善通寺第14旅団隷下部隊も山陽地区へ転進し、海上自衛隊からは訓練部隊である江田島基地第1術科学校も増強へ加わりました。

 自衛隊災害派遣は3万1250名、派遣艦艇は傭船を含む28隻、航空機38機が派遣中で、300名規模の派遣地域だけでも74箇所に上ります。今回も考えさせられたのは、輸送ヘリコプターなどの空中機動能力の限界、そして輸送艦と傭船を含めた海上輸送手段の限界、これでも傭船はくおう運用等東日本大震災以降強化されつつ更なる強化の必要性を感じる。

 想定外の規模の豪雨災害であったのか、今回考えなければならないのはこれまでゲリラ豪雨にのみ観測されていました時間雨量100mm規模の豪雨が広域に継続する線状降水帯が同時多発的に発生し、従来想定された豪雨というものとは異なる被害を及ぼした形です。こうした豪雨、しかし全く想定外か、と問われれば昭和57年7月豪雨という先例がある。

 昭和57年7月豪雨とは、長崎大水害として知られるもので南下した梅雨前線の影響で熊本県と長崎県及び和歌山県で長時間豪雨が継続、時間雨量187mmという記録的雨量が長崎市北隣の西彼杵郡長与町で観測され、長崎県の長崎市を中心に河川氾濫と土砂崩れが各所で頻発し、死者行方不明者299名という大被害となりました。この再来といえるでしょう。

 摩耶大水害や阪神大水害と呼ばれる1938年の豪雨災害が今回の被災地に隣接する兵庫県で発生し、この時には神戸市を中心に715名もの犠牲者が出ています。大雨特別警報が発令されていた今回の西日本豪雨災害、異常気象や気候変動に地球温暖化と云われるところですが、実際のところ、西日本豪雨は想定内で長崎大水害の再来、といえるかもしれません。

 西日本豪雨災害、自治体としての理想は避難勧告の時点で地域住民は自治体発行のハザードマップに応じて避難所へ退避を行い、水防団と消防団が誘導を行う、市町村は都道府県と協力し協力企業と土木公務員や国土交通省と協力し、河川氾濫や被害地域の復旧を行う、という。しかし、避難勧告では不十分として2005年より避難準備情報が設定されています。

 防災、考えてみますと避難勧告と避難指示のどちらが切迫性が高いかが必ずしも明確ではなかったとして2016年より“避難指示(緊急)”との呼称が用いられています。逆に言うならば避難勧告の時点で避難する人も多くいる訳ですが一方で避難指示が発令されても住民個々人の防災意識多寡が避難行動へ移るのかを決定づけてしまうといえるかもしれません。

 政府主導支援のプッシュ型支援、政府が自治体の役割を代替するという東日本大震災での当時の反省から行われた災害支援方式が実施され、熊本地震に続く二例目の実施となりました。政府が地方自治体の支援要請を待たず、政府主導で一部自治体の業務領域を補完する形で行われており、地方自治法との整合性に留意した制度ですが、いち早い支援活動が行われています。

 防災制度としてのプッシュ型支援は要するに地方自治体が大規模な災害に際し被害状況や支援活動立ち上げ等が膨大な被害と情報に飽和状態となった際に平時には越権行為となり得る国主導の支援活動で、阪神大震災や東日本大震災のように自治体が機能不随となった状況下で政府が自治体の要請を待っていては手遅れとなる為に導入された経緯があります。

 地方自治の観点からは中央の越権行為であっても被災者第一主義という観点からは必要な選択肢ですが、加えて熊本地震において実施したプッシュ型支援での戦訓の反映として、受け入れ側の自治体職員の業務飽和を念頭に、中央官庁から支援職員を先行させ、必要な支援規模や支援内容を基に自治体に先んじて支援を行う、という手法が採られています。

 しかし、地方自治の観点からは安易に政府迅速凄い、と感嘆するのではなくプッシュ型支援に先んじて自治体が被害全容を確認し、都道府県が可能な救援内容、その上で必要な救援要請を国に対し示す事が出来る危機管理能力の整備が必要でしょう。現状では地方分権叫ばれる中、分権として権限譲渡される都道府県に対し、国が地方自治体の危機管理能力不足を暗に示唆している証左といえるのではないでしょうか。

 東日本大震災、阪神大震災、北海道南西沖地震、熊本地震、考えてみますと国の危機管理能力は不幸な災害が積み重ねられると共に血の教訓を蓄積し危機管理能力を強化しています。しかし、地方自治体は東北地方など一部を除き危機管理体制は強化されていない。地方自治体は特に都道府県では前例踏襲への拘りとは一概に言いませんが、危機管理へ、つまり非常事態が発生するまでは余剰となる人員を充分に抱える必然性を制度として理解できていないのではないか、地方分権を考えるうえで、これは一つの問題ではないかと考える次第です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする