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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

イージスアショア五〇〇〇億円へ建設費高騰,当初見積はイージスシステム単体費用の単純計算

2018-07-24 20:15:47 | 防衛・安全保障
■一基八〇〇億円概算が大幅超過
 秋田県と山口県に配備予定の弾道ミサイル防衛システム、建設費が相当増大するもよう。

 地上配備型イージス弾道ミサイル防衛システム所謂イージス-アショアについて、政府は北朝鮮弾道ミサイル脅威へ対応する観点から山口県と秋田県にイージス-アショアを建設し、射程1300kmのSM-3迎撃ミサイルを運用する事で山口県秋田県二箇所から日本全土への弾道ミサイル防衛体制を構築する事業を推進中ですが、予算面で不確定要素が生じました。

 2023年までに整備目指すイージス-アショア、この巨大防衛事業は当初イージス-アショアは一基当たり800億円程度で取得でき、二基の整備費用は1600億円程度に収まるとの見通しでしたが、新型レーダーの採用や地上支援施設の建設、イージス-アショア本体への防衛システム整備と諸費用が加わる事で、建設費が当初見積もりを大幅に上回る可能性が、と。

 ロッキードマーティン社製SSRレーダーシステムの採用を決定、これは今月4日付記事で紹介しましたが、元々は海上自衛隊のイージス艦が運用するレイセオン社製SPY-1系統のレーダーシステムが採用されるものと考えられていた機種が、富士通社製素子を採用しており長期的に安価としてSSRが選定、この新レーダーが費用増大の一要素とされています。

 5000億円を超える可能性、本日24日付TBS報道ではこうした数字がでており、22日付毎日新聞報道では2500億円、23日付産経新聞報道では6000億円以上、という数字が示されています。2500億円から6000億円とは随分な幅ではありますが、この点について本日、小野寺防衛大臣は防衛省記者会見室会見にて、6000億円という数字は否定しませんでした。

 800億円という当初の見積もりは、本日24日の防衛大臣定例記者会見において、8200t型護衛艦、今月30日に横浜で進水式を行う新型イージス艦の建造費が1700億円であり、護衛艦としての推進システムや機関装備とイージスシステム以外の装備品等の建造費用が900億円弱であることから、差し引800億円という当初見積もりを出した、としています。

 8200t型ミサイル護衛艦の建造費と比較し三倍以上の見積もりも報じられる中、それならばイージス艦を三隻増備した方が安価ではないか、と考えてしまいますが事業費用について大臣記者会見では、イージスア-ショアのシステム構成や配備場所も含め相当に変動する事から現時点で確たる事業費用は示せず、概算要求を待ってほしい、と回答を保留しました。

 THAAD終末高高度迎撃ミサイル、弾道ミサイル防衛においてアメリカ陸軍が運用する新装備ですが、1個射撃中隊当たり1250億円程度の費用を要するとしてイージス-アショアの方が安価である、いわば費用面がイージス-アショア選定の背景にありました。一方、イージス-アショアは終末段階迎撃能力が現段階で無く、中間段階にて迎撃する難点があります。

 終末段階とはミサイルが地上に落下する最終段階、即ち落下して来る為に極超音速に加速した状況で直撃する精度を有し、サッカーでいうゴールキーパーにあたります。対してイージス-アショアは中間段階、弾道ミサイルの弾道を描く放物線の中間段階で受け止め破壊、サッカーでいうミッドフィールダーの役割を担い、実は最適な迎撃装備ではありません。

 スタンダードSM-6-Dual-Iとしてイージス艦やイージス-アショア用の終末迎撃装備は開発中で、この原型であるRIM-174スタンダードERAMは390km圏内の航空機や巡航ミサイルを迎撃可能である為、同時に脅威が増している巡航ミサイル攻撃も対応でき、スタンダードSM-3Block IIAとして射程を2500kmに伸ばした改良型も開発中、将来発展性は高い。

 しかし6000億円は高い、という実情でしょう。ライフサイクルコストを混同した数字かもしれませんが、仮に建設費だけならば2023年度までに整備する事は即ち年間1200億円を要する訳であり、3900t型護衛艦二隻分以上、F-35A一個飛行隊分に迫る費用を毎年五年間捻出せねばならず、そもそも自衛隊は島嶼部防衛や南西諸島防衛を筆頭に各種新装備に巨大費用を捻出しており、必要な費用に対し現時点で全く防衛予算が不足している。

 イージスシステム導入費用を念頭に算出していたという防衛大臣の発言ですが、護衛艦であれば電力を機関部から供給されるに対して地上配備型であれば電力が必要です。電力会社任せでは高圧電線が切断されれば電力喪失万事休すですし、発電するならば発電装置が、しかも、イージス-アショアは動けませんので本体そのものの防衛システムも必要でしょう。

 イージス艦が担ってきましたミサイル防衛ですがイージス艦の主任務は艦隊防空であり、海上自衛隊としては限られたイージス艦を日本海に常時貼り付けるには現在の6隻では全く不十分、という厳しい実情がありました。だからこその地上配備型迎撃システムなのですが、イージスシステム単体費用から算出した見積、少々甘かったといわざるを得ません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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