北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

9.11米本土同時多発テロから17年,自民党総裁選論点に“憲法自衛隊明記と非常事態条項明記”

2018-09-11 20:02:40 | 北大路機関特別企画
■9.11,日本安全保障の転換点
 世界貿易センタービルへ旅客機が体当たりし炎上する様子が日本でもテレビ中継、その後世界中が非常事態の緊張に包まれた9.11、皆様はあの時何をしていましたか。

 9.11、本日は2001年同時多発テロから17年目の鎮魂の日となります。ただ、2005年のWeblog北大路機関創設当時と異なり、やはり17年の月日は長い。その上で明記しますと、9.11同時多発テロは当時の我が国安全保障政策の転換点となったことは確かです。有事立法さえ未整備であり、集団的自衛権行使に関する国会討議は一種禁忌に近かった時代です。

 自民党総裁選2018、あの同意多発テロから17年となりますが、安全保障環境はその後大きく変容を続け、自民党総裁選の公約に大きく憲法問題が掲げられ、安倍信三代議士の憲法改正による自衛隊明記、石破茂代議士の自衛隊明記を時期尚早としつつ非常時に憲法を停止する非常事態条項盛り込み、実のところ戦後憲政転換点となる論点が上がっています。

 アメリカ本土同時多発テロ、ハイジャックした旅客機をハイジャッカーがアメリカ本土中枢施設へ体当たり攻撃を行うという、外征型のアメリカ本土防衛の空隙を衝いたテロは、ニューヨーク世界貿易センタービル、アメリカ国防総省庁舎へ旅客機が衝突し、世界貿易センタービルは崩落、要塞構造の国防総省庁舎も旅客機衝突部分が大きく破損しました。

 テロとの戦い、東西冷戦構造終結後に新しい脅威は国家主体同士の戦いではなく、非国家主体の従来型軍事行動の定義外で行われる非対称の戦い、として新しい時代の戦争が始まり、これは我が国を服得た世界中の軍事機構や防衛戦略の根底に大きな影響を及ぼしました。そして我が国も1996年日米新防衛協力指針に続く安全保障法制の転換を迫られます。

 武力攻撃事態法が1998年の周辺事態法に重ね制定されたのは、9.11同時多発テロ後の海上自衛隊対テロ海上阻止行動給油支援としてアラビア海派遣を常続的に実施、また、テロ支援国家による大量破壊兵器拡散阻止を主務としたアメリカのイラク攻撃、2003年イラク戦争に伴う緊張とともに当時最大野党、民主党の賛同を以て有事法制三法が成立しました。

 日本政治は、自民党総裁選が現在進められ、現在二期目にあたり内閣総理大臣を務める安倍信三代議士と自民党幹事長や防衛庁長官を歴任した石破茂代議士が党首選に臨んでいます。実のところ武力攻撃事態法を制定した小泉内閣を継承した第一次安倍内閣が当時掲げたのは戦後レジームからの脱却、当初から憲法改正を志向し首相の職責に臨んでいます。

 安倍氏の憲法観は、憲法改正による自衛隊の存在明記を強く掲げ、次期国会に自民党改正案を提出できるよう取組、早期の発議を目指す、としています。自衛隊は合憲であるという反論はありますが、果たして自衛隊の装備が陸海空軍に当らないのか、集団的自衛権行使を伴う防衛強力が憲法上禁じられた国権の発動たる戦争に抵触しないかは議論の余地が。

 自衛隊は合憲と考える声が現在既に多く憲法改正の必要はない、という論調に対しては自衛隊の任務を含めて一国で脅威に対応できる最大限の防衛力を整備するか多国間防衛協力枠組を構築する、この部分まで含め合憲かは余地があり、自衛隊の存在理由たる外敵直接侵略に対する防衛へ武力攻撃事態法や平和安全法制を含め合憲かと問われれば一概には言えません。

 自衛隊を憲法に明記する事は、当然自衛隊の任務も含む。即ち現状司法府が統治行為論として政治問題は行政府の判断が司法府の判断となる旨に対し、我が国は自衛権を有する事を憲法上明記する、という憲法上曖昧とされた部分への明確な意思の表明であると共に、自衛権の上限を明確に示す事で事勿れ主義的な運用へ新しい指針を示す事となるでしょう。

 石破氏の憲法観は、自衛隊の憲法上明記に緊急性は無いとしつつ、参議院合区解消を挙げつつ、併せて大規模災害に対応するための緊急事態条項新設を優先するべき、としています。自衛隊明記の緊急性なし、とは言い換えれば緊急性生じた場合には、緊急対応する手段を内包している事が、緊急事態条項新設の優先性に盛り込まれている、とも考えられる。

 緊急事態条項新設、実は比較憲法として各国憲法を研究しますと、緊急事態条項とは非常事態に際して憲法上の財産権や基本的人権において明記されている条項を、勿論日本国憲法も公共の福祉という視点で留意させる条文となっているのですが、各国緊急事態法制では憲法を一時停止できる部分を盛り込んでいます。非常事態、平常ではない状況という。

 災害対策基本法として1961年には災害時の緊急時法制が整備されています。2011年の民主党政権時代の原子力災害特別措置法原子力緊急事態宣言も強制移住等を盛り込む一種の非常事態法制でしたが、憲法に盛り込むという意味は此れとは比較にならない。憲法上に非常事態宣言を盛り込むという改憲案は、自衛隊の明記以上に幅広い非常事態対処を、なにしろ憲法九条を停止できる、幅広く盛り込むといえる。

 安全保障は、有事法制制定以前は非常時に防衛庁内局が緊急検討し政府へ一括提出し、国会で速やかに成立する、として第一類、第二類、第三類が示されるという冷戦時代の枠組がありました。実は防衛庁部内で研究されているのではないかとの建前、緊急時に即座に成立するとは言っても非常時は短期的に超法規措置を強いられる可能性も指摘されました。

 同時多発テロは日本にとって、イスラム過激派の目標となる可能性は当然ありましたが、それ以上に日本ではオウム真理教による1995年地下鉄サリン事件を筆頭としたテロ事件の記憶が新しく、日本国土が戦場となる可能性を、実際に緊張度はありつつもその着手以前に冷静な議論が可能な時機に討議する、いわば一つの転換点となった事だけは確かでしょう。

 自民党総裁選は9月20日に国会議員票と党員票を以て新しい自民党総裁が選ばれます。これは即ち議院内閣制の我が国では最大与党党首は内閣総理大臣の選出を意味するのですが、その総裁選に臨む二人の候補が憲法観に憲法改正を共に提示し、一人は長らくの課題であった自衛隊の明記を、もう一つはより進んだ非常事態条項明記を提唱、時代は変わったものだと痛感します。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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