■北海道対岸の三〇万巨大演習
ロシア軍は現在中国軍と共にあのザーパト81演習上回る、過去40年間で視ても最大の演習を極東において展開中です。
北海道地震から一週間、胆振東部地震の影響により自衛隊は北海道において10日より実施予定の日米合同演習中止を決定しています。この時期に予定された背景にはロシア軍が極東地域において大規模演習を実施する為で、過去にもロシア軍極東地区での大規模演習に併せ、北海道では航空部隊や戦車部隊を演習場に集結させ待機態勢を取った事があります。
ロシアのプーチン大統領は安倍総理大臣とウラジオストクで開催中の東方経済フォーラムに併せて共同記者会見に臨み、日ロ平和条約締結について、日本側が求める締結条件、北方領土返還を棚上げし無条件で年内に締結する提案を行いました。一見ロシアが日本へ平和を求めているように見えますが、極東地区では現在30万名が参加する演習が実施中です。
ロシア極東地域において9月11日より大規模な軍事演習ボストーク2018が開始されました。東シベリア地区の演習場において開始された演習は15日まで実施され、ロシア国内へ侵攻した大規模な地上軍兵力をロシア軍が中国軍と協同し撃退する、という大国間の大規模戦闘を想定したものです。近年までテロ勢力掃討が主眼で、大きな転換といえましょう。
軍事演習を背景に年内と期限を区切り平和条約締結を迫る。一方日本政府は北方領土が第二次世界大戦太平洋戦争の戦闘停止後に継続されたソ連軍の攻撃に対しその当初から抗議しており、千島列島の北海道に属する択捉島、国後島、色丹島、歯舞諸島、これらを北方領土としてソ連へ返還を求め続け、ロシアへ国家継承後も政府はこれを原則としています。
ボストーク2018演習は極東地域での四年に一度の大規模演習という位置づけですが、今回の演習は30万もの大規模、実際陸海空自衛隊の総数よりも遥かに多い、規模であると共に中国軍が3200名という自衛隊旅団規模に当る参加となっている点が特色でしょう。中ロ関係、実際の友好関係以上に第三国がこの地域へ関与する場合への牽制が目的と思われる。
本日13日にはプーチン大統領も演習を視察、ロシア軍と中国軍の演習参加要員を前に“ロシアの軍人に課せられた祖国に対する責務とは、国家の主権、安全、それに国益を守り抜くことだ。もし要請があれば、われわれは同盟国を支援する”(NHK13日1805時報道)と演説、この演習は原子力巡洋艦も参加しオホーツク海と北方領土周辺地域でも展開中です。
ボストーク2018演習、現在実施中のロシア極東地域における最大規模の軍事演習です。その規模は人員30万名と車両3万6000輌及び航空機1000機、 艦艇80隻が参加するもので、中国人民解放軍3200名と車両1000両も参加している。ロシア軍は陸軍兵力35万名、戦車だけでも現役2560両と予備役に12500両を保管しており、今を以て大きな水準です。
ザーパト81演習、ソ連時代の新冷戦期にソ連軍が実施した欧州正面における最大規模の軍事演習ザーパト81と比較しても、このボストーク2018演習は大規模である事が分ります。実際、ロシアのショイグ国防相もこのボストーク演習の規模を説明する際にザーパト81を明示しているほど。このザーパト81演習の参加規模が10万名ですので30万名は規格外だ。
冷戦時代のザーパト81演習はその規模の大きさと共に着上陸訓練を伴っていたことから、北海道に軍事脅威を抱えていた陸上自衛隊も大きな関心を以て情報を収集していました。ソ連、そして現在のロシアにとり、北海道は太平洋へ向う宗谷海峡に面する戦略上の要衝です。ボストーク2018と比較されるザーパト81演習ですが、その概要を視てみましょう。
バルト海沿岸白ロシア地方で実施のザーパト81演習は1981年9月4日から12日にかけ実施され、訓練統裁官にウスチーノフ国防相が陣頭に立ちました。ソ連軍は北軍と南軍の対抗方式で演習を実施、4日から9日までは大規模渡河訓練を含む機動訓練と物資集積や防空演習、艦隊運用と制空訓練を実施、9日からは陸上における対抗訓練が実施されています。
白ロシア地域に展開の北軍は状況開始と共に大量の戦車装甲車を以て縦深攻撃を実施し南軍防衛線を突破、南軍の逆襲部隊を撃破すると共に河川強行渡河訓練を実施、対する南軍はグダニスク湾東部バルチースク付近へ逆上陸を実施、空母キエフ、ヘリコプター巡洋艦レニングラード、強襲揚陸艦イワンロゴフを中心とした艦艇80隻による逆上陸を行う。
バルト海沿岸部での逆上陸は空挺部隊と呼応し南軍は北軍の侵攻に対し第二戦線構築に成功し、両翼包囲の機動を採りつつ北軍防衛線突破に成功、第一梯団による防御線突破に続く装甲戦闘車による第二梯団による戦果拡張というソ連軍電燈の縦深攻撃を成功させ、白ロシア北部の西ドビナ川を南軍戦車部隊が架橋渡河したところで、状況終了となりました。
ザーパト81演習は当時ソ連衛星国であった東欧諸国の東ドイツ、ブルガリア、ハンガリーポーランド、ルーマニア、チェコスロバキア、そしてソ連友好国のモンゴルやヴェトナム、キューバの国防大臣が招かれ、一方1973年の全欧安全保障協力会議ヘルシンキ宣言に基づく大規模演習事前通知制度に反するとして4日、アメリカはソ連政府へ抗議しています。
ボストーク2018演習、その演習状況の概要はまだ発表されていませんが、注目するべき点は冷戦時代、ソ連極東軍は中国人民解放軍の北上を警戒していた点に対し、今回は大規模な陸上侵攻への反撃を想定する演習で、中国人民解放軍を、非常に大きな規模で参加させている点に注目するべきでしょう。参加させる事は対中想定でない事の明示ともいえる。
中ロ関係は安定状態にありますが、中国が求める先端兵器の中国引渡にロシアが応じない、中国へ供与装備の納期が異常に長く遅れる、など友好関係はあっても蜜月関係とは言い難い状態があります。その上で友好関係を強調する事は、アメリカなどの第三国がこの地域の一つの国と緊張状態に及んだ場合にもう一方がアメリカに組しないことの強調でしょう。
アメリカに組しないとは、朝鮮半島情勢で米ロが緊張状態に陥った場合に中国はアメリカ支援に当らない、同時に、南シナ海緊張で米中間が摩擦状態となった際にロシアがアメリカへ支援しない、という、いわば中ロ関係の間に付け入る隙間は無い、という事を強調する事が、今回のボストーク2018演習へ中国軍3200名が参加した事の背景と考えられます。
しかし、30万規模という演習は異常です。また、前述の通りこれまではISILのような武装勢力の大規模浸透等、テロ対策を訓練場の名目としてきたロシア軍大規模演習が国家間戦争を念頭に転換された事は、アメリカに対する示威行為である解釈した場合も、アメリカが掲げる自由主義と開かれた海洋原則という国際公序を共有する日本へも向けられている。
安倍総理へ東方経済フォーラムにて平和条約を無条件で突き付けたプーチン大統領はそのままボストーク演習を視察しています。もちろん、国家間関係とは安易な友好関係と防衛安全保障を明確に区分して考える必要がある一方、ロシアとの友好関係の重要性は改めて強調するまでもありませんが、北海道の隣、こうした軍事力の存在を認識すべきでしょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ロシア軍は現在中国軍と共にあのザーパト81演習上回る、過去40年間で視ても最大の演習を極東において展開中です。
北海道地震から一週間、胆振東部地震の影響により自衛隊は北海道において10日より実施予定の日米合同演習中止を決定しています。この時期に予定された背景にはロシア軍が極東地域において大規模演習を実施する為で、過去にもロシア軍極東地区での大規模演習に併せ、北海道では航空部隊や戦車部隊を演習場に集結させ待機態勢を取った事があります。
ロシアのプーチン大統領は安倍総理大臣とウラジオストクで開催中の東方経済フォーラムに併せて共同記者会見に臨み、日ロ平和条約締結について、日本側が求める締結条件、北方領土返還を棚上げし無条件で年内に締結する提案を行いました。一見ロシアが日本へ平和を求めているように見えますが、極東地区では現在30万名が参加する演習が実施中です。
ロシア極東地域において9月11日より大規模な軍事演習ボストーク2018が開始されました。東シベリア地区の演習場において開始された演習は15日まで実施され、ロシア国内へ侵攻した大規模な地上軍兵力をロシア軍が中国軍と協同し撃退する、という大国間の大規模戦闘を想定したものです。近年までテロ勢力掃討が主眼で、大きな転換といえましょう。
軍事演習を背景に年内と期限を区切り平和条約締結を迫る。一方日本政府は北方領土が第二次世界大戦太平洋戦争の戦闘停止後に継続されたソ連軍の攻撃に対しその当初から抗議しており、千島列島の北海道に属する択捉島、国後島、色丹島、歯舞諸島、これらを北方領土としてソ連へ返還を求め続け、ロシアへ国家継承後も政府はこれを原則としています。
ボストーク2018演習は極東地域での四年に一度の大規模演習という位置づけですが、今回の演習は30万もの大規模、実際陸海空自衛隊の総数よりも遥かに多い、規模であると共に中国軍が3200名という自衛隊旅団規模に当る参加となっている点が特色でしょう。中ロ関係、実際の友好関係以上に第三国がこの地域へ関与する場合への牽制が目的と思われる。
本日13日にはプーチン大統領も演習を視察、ロシア軍と中国軍の演習参加要員を前に“ロシアの軍人に課せられた祖国に対する責務とは、国家の主権、安全、それに国益を守り抜くことだ。もし要請があれば、われわれは同盟国を支援する”(NHK13日1805時報道)と演説、この演習は原子力巡洋艦も参加しオホーツク海と北方領土周辺地域でも展開中です。
ボストーク2018演習、現在実施中のロシア極東地域における最大規模の軍事演習です。その規模は人員30万名と車両3万6000輌及び航空機1000機、 艦艇80隻が参加するもので、中国人民解放軍3200名と車両1000両も参加している。ロシア軍は陸軍兵力35万名、戦車だけでも現役2560両と予備役に12500両を保管しており、今を以て大きな水準です。
ザーパト81演習、ソ連時代の新冷戦期にソ連軍が実施した欧州正面における最大規模の軍事演習ザーパト81と比較しても、このボストーク2018演習は大規模である事が分ります。実際、ロシアのショイグ国防相もこのボストーク演習の規模を説明する際にザーパト81を明示しているほど。このザーパト81演習の参加規模が10万名ですので30万名は規格外だ。
冷戦時代のザーパト81演習はその規模の大きさと共に着上陸訓練を伴っていたことから、北海道に軍事脅威を抱えていた陸上自衛隊も大きな関心を以て情報を収集していました。ソ連、そして現在のロシアにとり、北海道は太平洋へ向う宗谷海峡に面する戦略上の要衝です。ボストーク2018と比較されるザーパト81演習ですが、その概要を視てみましょう。
バルト海沿岸白ロシア地方で実施のザーパト81演習は1981年9月4日から12日にかけ実施され、訓練統裁官にウスチーノフ国防相が陣頭に立ちました。ソ連軍は北軍と南軍の対抗方式で演習を実施、4日から9日までは大規模渡河訓練を含む機動訓練と物資集積や防空演習、艦隊運用と制空訓練を実施、9日からは陸上における対抗訓練が実施されています。
白ロシア地域に展開の北軍は状況開始と共に大量の戦車装甲車を以て縦深攻撃を実施し南軍防衛線を突破、南軍の逆襲部隊を撃破すると共に河川強行渡河訓練を実施、対する南軍はグダニスク湾東部バルチースク付近へ逆上陸を実施、空母キエフ、ヘリコプター巡洋艦レニングラード、強襲揚陸艦イワンロゴフを中心とした艦艇80隻による逆上陸を行う。
バルト海沿岸部での逆上陸は空挺部隊と呼応し南軍は北軍の侵攻に対し第二戦線構築に成功し、両翼包囲の機動を採りつつ北軍防衛線突破に成功、第一梯団による防御線突破に続く装甲戦闘車による第二梯団による戦果拡張というソ連軍電燈の縦深攻撃を成功させ、白ロシア北部の西ドビナ川を南軍戦車部隊が架橋渡河したところで、状況終了となりました。
ザーパト81演習は当時ソ連衛星国であった東欧諸国の東ドイツ、ブルガリア、ハンガリーポーランド、ルーマニア、チェコスロバキア、そしてソ連友好国のモンゴルやヴェトナム、キューバの国防大臣が招かれ、一方1973年の全欧安全保障協力会議ヘルシンキ宣言に基づく大規模演習事前通知制度に反するとして4日、アメリカはソ連政府へ抗議しています。
ボストーク2018演習、その演習状況の概要はまだ発表されていませんが、注目するべき点は冷戦時代、ソ連極東軍は中国人民解放軍の北上を警戒していた点に対し、今回は大規模な陸上侵攻への反撃を想定する演習で、中国人民解放軍を、非常に大きな規模で参加させている点に注目するべきでしょう。参加させる事は対中想定でない事の明示ともいえる。
中ロ関係は安定状態にありますが、中国が求める先端兵器の中国引渡にロシアが応じない、中国へ供与装備の納期が異常に長く遅れる、など友好関係はあっても蜜月関係とは言い難い状態があります。その上で友好関係を強調する事は、アメリカなどの第三国がこの地域の一つの国と緊張状態に及んだ場合にもう一方がアメリカに組しないことの強調でしょう。
アメリカに組しないとは、朝鮮半島情勢で米ロが緊張状態に陥った場合に中国はアメリカ支援に当らない、同時に、南シナ海緊張で米中間が摩擦状態となった際にロシアがアメリカへ支援しない、という、いわば中ロ関係の間に付け入る隙間は無い、という事を強調する事が、今回のボストーク2018演習へ中国軍3200名が参加した事の背景と考えられます。
しかし、30万規模という演習は異常です。また、前述の通りこれまではISILのような武装勢力の大規模浸透等、テロ対策を訓練場の名目としてきたロシア軍大規模演習が国家間戦争を念頭に転換された事は、アメリカに対する示威行為である解釈した場合も、アメリカが掲げる自由主義と開かれた海洋原則という国際公序を共有する日本へも向けられている。
安倍総理へ東方経済フォーラムにて平和条約を無条件で突き付けたプーチン大統領はそのままボストーク演習を視察しています。もちろん、国家間関係とは安易な友好関係と防衛安全保障を明確に区分して考える必要がある一方、ロシアとの友好関係の重要性は改めて強調するまでもありませんが、北海道の隣、こうした軍事力の存在を認識すべきでしょう。
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