北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新防衛大綱と陸上防衛:北方西方両脅威下,戦車200両時代の覚悟と5000名師団再編の必要性

2018-11-23 20:09:42 | 国際・政治
■陸上防衛力,現状を直視すべき
 特集“新防衛大綱とF-35B&EA-18G”を掲載中ですが、今回は陸上防衛について、南西諸島への中国圧力に併せ近年はロシアの脅威が再興しつつある。

 新防衛大綱画定がいよいよ間近です。最大の関心は航空母艦としての能力を有する多用途運用母艦の建造と空母艦載機としてのF-35B戦闘機が明記されるかについてですが、航空母艦の任務が洋上航空優勢確保であるならば航空自衛隊の任務に海上自衛隊が支援する構図で、海上自衛隊が求めている制海権維持とシーレーン防衛とは必ずしも一致しません。

 しかし、もう一つ忘れられている視点は陸上防衛のものです。現行防衛大綱は戦車定数を300両まで縮小させ、冷戦終結時点の戦車1000両と比較したならば、その縮小は驚くべき規模です。戦車定数は新防衛大綱では200両まで縮小されるのか、日本列島は本州四国九州に北海道で2000kmもの長大弧状列島を構成しますが、機動運用の在り方が問われます。

 戦車200両時代の可能性、NATO諸国を俯瞰すればイギリスやフランスは戦車200両規模、ドイツ連邦軍は300両体制へ再拡充を決定しましたが一時的に225両まで縮小しました。オランダは一時戦車を全廃し近年のロシア脅威を受け一個中隊を再整備しています。戦車数字主義を採るならば、自衛隊の戦車300両定数が新大綱で200両へ削減の可能性はある。

 欧州の戦車削減は欧州地域への冷戦後脅威を周辺地域紛争の欧州波及と位置づけ、バルカン半島や北アフリカ地域の不安定が欧州へ波及するという、第一次大戦の原因をバルカン情勢に辿るある意味伝統的な安全保障観に依拠し、PKO国際平和維持活動等の任務に必要とする装甲戦闘車、冷戦時代は戦車に優先度が上回った装備への転換が為されていました。

 日本の戦車定数削減は主としてミサイル防衛への予算捻出、つまり削減された防衛力は純減されてゆく状況です,代替装備として機動戦闘車が入る。ロシアの脅威が欧州において再認識され、今年ロシアのプーチン大統領が年内の平和条約締結を安倍総理へ呼び掛けた際にもロシア軍は極東地域においてロシア側が30万規模と自称する大演習を展開中であり、実は脅威度は再構築中なのですが。

 装甲戦闘車を普遍的に整備する目的で戦車を更に100両削減し、冷戦時代の五分の一となる200両体制へ転換するのであれば、全否定はしません。装甲戦闘車の機関砲は戦車砲のような装弾筒を有しない為に下車戦闘中も火力支援が可能です、装甲車は下車戦闘を当面の敵を撃破する直前に実施しますが、装甲戦闘車は戦闘中に適宜実施し収容、継続します。

 自衛隊の装甲戦闘車は機甲師団である第7師団の一個普通科連隊に半数中隊が装備するのみであり、実のところ本格的な装甲戦闘車の運用、機動戦、本質的に理解し戦術として内部化しているかと問われますと、自信がありません。一方、装甲戦闘車は各国では戦車と同程度の火器管制装置を有し、第三世代戦車十五年前の取得費用とほぼ同額となりました。

 ミサイル防衛はイージスアショアを整備する新事業により明らかに多額の費用を要しますし、戦闘ヘリコプター再整備という事業も含め当面は防衛費は圧迫され続きます。すると、戦車をさらに縮小するという可能性、現状10式戦車の取得数の少なさから、90式戦車の延命改修を開始しなければ300両を割り込む可能性が生じます、しかし、200両というのは。

 新大綱、もう一つの視点は師団数と旅団数の去就です。現状では9個師団と6個旅団が北部、東北、東部、中部、西部、各方面隊隷下に維持されています。しかし、自衛隊の師団あ冷戦時代も9000名と7000名規模、アメリカや欧州NATOにソ連等の諸外国が11000名から25000名の規模を有している中で非常に小規模となっていましたが、現状更に縮む。

 師団旅団定数、陸上自衛隊は冷戦終結時点18万名体制より大きく人員を減じており、微増に転じたものの13万4000名と縮小された一方、9個師団6個旅団という基幹部隊を維持しつつ、水陸機動団、中央即応連隊、そして一部連隊の即応機動連隊改編等、人員増を繰り返しており、既に実員5000名規模の師団が形成され、最早師団の体裁を維持できません。

 9個師団6個旅団、しかし現状では師団定員と師団実員共に申し訳ないが師団とは言い難い。それでも従来は小さくとも特科連隊と戦車大隊があり戦術防空システムと固有の飛行隊を有する編制は、小型師団とも言い得たのですが、戦車と火砲は廃止され航空機は定数割れ、これでは申し訳ないが、名ばかり師団、編成で第一線で頑張る曹士幹部諸官に申し訳ない。

 師団数は維持されるのか、削減されるのか、5000名師団の放置をそのままでよいのか、実員に見合うよう自衛隊全体を増員するのか、その前提として足りない装甲車やヘリコプターをどう考えるのか、場合によっては即応予備自衛官制度と予備自衛官補制度を拡充し、予備役部隊である方面混成団を事実上の地域貼り付け師団代替として拡大、はありえるか。

 沖縄方式として、第15旅団のように方面航空部隊と方面高射特科部隊を第一線の旅団に集約し機動運用する施策も考えられるでしょう。第15旅団は方面隊が運用する03式中距離地対空誘導弾の高射特科群を旅団隷下に置き、急患輸送等を南西諸島全般に実施するべくヘリコプター隊を有しています。東北方面隊の第101高射特科隊等はその布石と云い得る。

 現在進む特科火砲の方面特科連隊への集約は、事実上、方面隊が師団の役割を担う構造であり、師団長を着上陸武力攻撃事態やグレーゾーン事態に大規模災害有事を想定した第一線部隊指揮官として割り切った上での方面隊の師団規模化、有事の際に方面隊は他方面隊隷下部隊の統合任務部隊化という実質の軍団化を見越した編成に割切っているようみえる。

 陸上総隊への部隊包括化、例えば方面総監部を指揮機能に特化させ、師団と旅団の機動運用部隊を全て陸上総隊隷下に集約、必要に応じ指揮系統を有する方面隊に配属する機動運用、というものはありえるのでしょうか。更に師団整理、師団の旅団への転換促進等は有り得るのでしょうか。師団隷下に旅団を置く編成というような改編も日本に在り得るのか。

 ヘリコプター、防衛大綱にはヘリコプターの上限は示されていません、しかし、ヘリコプター数の下限も示されていません。その上で、全国のヘリコプター部隊を俯瞰したらば第1ヘリコプター団や第12ヘリコプター隊等例外はありますが、観測ヘリコプター、対戦車ヘリコプター、多用途ヘリコプター、以上三機種の定数割れが深刻な状況となっています。

 ヘリコプター運用を考えた場合、現状師団飛行隊や旅団飛行隊は各機種2機程度が置かれる程度で、災害派遣などの初動は主として方面ヘリコプター隊等から師団旅団隷下へ派遣を受けた機体を進出させている点が、災害派遣発表に見て取れます。その上で60機調達予定のAH-64Dの13機、250機調達予定のOH-1は33機、多用途ヘリコプター調達は、と。

 陸上自衛隊航空集団というような自衛隊のヘリコプターを包括管理する陸上総隊直轄司令部を新編し、全国のヘリコプターを第一線部隊へ確実に可動させ展開させる機能を新たに創設するか、ヘリコプターの取得を根本的増強する必要があります。戦闘ヘリコプターを中央に集約し、第一線へは武装型多用途ヘリコプターへ置き換える等の施策も考えられる。

 新防衛大綱における陸上自衛隊は、北方におけるロシア脅威、特にクリミア併合とウクライナ東部紛争介入を契機とした欧ロ対立、シリア問題等を含めた米ロ対立、極東地域での大演習という脅威をどの程度認識するか、また、喫緊の課題である南西防衛力整備という問題もあります。しかし、多岐に及ぶ任務と新装備の前に運用と装備数が追い付かない実情を直視し、いつかは大綱へ反映させねばなりません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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