北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新防衛大綱,いずも型護衛艦へF-35B運用能力付与改修方針-南西諸島西太平洋防衛力強化

2018-11-27 20:17:00 | 国際・政治
■米海兵隊F-35B運用が可能に
 防衛計画の大綱、五年ごとの中期防衛力整備計画を方針づける閣議決定が来月にも予定されています。

 政府は来月画定する新防衛大綱へ、多用途運用母艦の将来導入を視野に護衛艦いずも型の改修を実施し、南西諸島や日本周辺の太平洋の防衛力強化を行う方針を明らかにした、NHKが27日付で報道しました。いずも型は満載排水量27000tの全通飛行甲板型のヘリコプター搭載護衛艦で、自衛隊が保有する全種ヘリコプターが発着可能、最大30機が収容できる。

 いずも型護衛艦の改修は、護衛艦を多用途運用母艦へ改修し、その分に開いた護衛艦枠を別の護衛艦建造で充足するのか、護衛艦の運用形態として多用途運用母艦型護衛艦いずも型となるのか、いずも型での運用研究を行った上で、将来必要な能力を有する多用途運用母艦、あかぎ型、ながと型かは不明ですが、建造するというのかについては未定とのこと。

 政府が新防衛大綱にどの程度のF-35B部隊運用を想定しているのかは未知数です。恐らく、中長期的に10機程度の航空隊を当面一個取得する念頭に、しかし運用母艦側の改修や飛行隊創設は一朝一夕にはできませんので、教育航空集団隷下か第51航空隊飛行試験隊へ研究用として2機から4機程度を取得するか、米海兵隊F-35Bの研究が盛り込まれるだけかもしれません。

 率直に、中期防衛力整備計画へ海上自衛隊F-35B戦闘機導入には政府は慎重になるのではないか、少なくとも防衛計画の大綱がかつての中期防衛力整備計画数期分の十数年先を見据えた時代であれば長期計画として盛り込まれる可能性もありましたが、現在の様に五年間の防衛力整備を明示する中期的な防衛大綱であれば、五年間で航空自衛隊以外の運用基盤構築は難しい。

 F-35Bを導入するかについては未定、NHK報道では明記されています。ただし、いずも型の改修は垂直離着陸可能である最新戦闘機運用としてF-35Bという名称がそのまま用いられており、自衛隊が導入するかについては明示しないものの、アメリカ海兵隊が運用するF-35Bの発着と運用が可能とする方針で、緊急時の補給等ができるようになるとのこと。

 防衛大綱は元々、長期の防衛計画を画定する防衛指針でしたが、現在は五年ごとの中期防衛力整備計画に併せて五年ごとに改訂される状況が常態となっています。この為、五年間の中期見通しではF-35B導入方針を明示する事が、そもそもF-35B調査研究さえ充分ではない現状では示せない現状があるやもしれません。特に海上自衛隊には操縦要員が居ない。

 次々中期防衛力整備計画には自衛隊独自の航空隊を創設するという方針で、つまり今回の防衛計画の大綱ではF-35Bの調査研究を本格化させるのみとして、先ずF-35B要員の養成に着手するのか、米海兵隊F-35Bの運用受入に特化するのか、という程度の方針可能性もあります。諸手を挙げて歓迎する事も出来ないのが実情です、特に人員不足という実情が。

 新しい航空機を導入するには人員の増勢が必要です。言い換えれば、新防衛大綱にF-35B導入が明記されるかという点以上に、人員不足の解消、海上自衛官定員の増員か、海上自衛隊任務の陸空自衛隊への移管による人員余裕捻出、若しくは部隊整理統合や民間軍事会社整備支援や兵站支援受け入れ等の具体的な施策が盛り込まれるかのほうが重要でしょう。

 F-35Bは将来的には導入の候補となる可能性があります、護衛艦の寿命は長い。海上自衛隊としてはSH-60K哨戒ヘリコプターを補完するセンサーノード機を必要としている事は確かです。その根拠としてSH-60K後継機にNH-90やAW-101派生機等のより高性能機が提示されつつ、一種妥協といえるSH-60系統を維持している点に現れているといえます。

 NH-90等の取得費用の大きな機種を断念しつつ、しかし海上自衛隊としては対艦ミサイル射程が各国で400km規模から500km規模へ延伸する中、射程200km規模のハープーンやSSM-1で将来にも楽観視しているとは考え難く、しかし長射程ミサイルの索敵誘導に当るセンサー機として敢えて不充分なSH-60系統を維持するには別の理由があると考えるゆえ。

 かが退役は2040年代後半となるでしょう、F-35Bについて新防衛大綱へ護衛艦搭載が明示されずとも、次々次々次々次期防衛大綱までに導入したならば、その搭載は可能となるでしょうし、それまでの期間に日中関係の劇的良好化、尖閣諸島や台湾問題の解決と海洋政策の海洋閉塞から海洋自由主義へ転換したならば、そもそもその必要性が解消の可能性も。

 F-35B,センサーノード機としては最適とはいえ、海上自衛隊の現時点での喫緊課題は深刻な人員不足であり、ここ数年の無理を通すという状況が常態化しており、何れ深刻な事故を引き起こす要因となるでしょう。人員不足は深刻で例えば装備定数だけが増える。潜水艦定数が防衛大綱改訂により16隻が22隻へ増強された際も人員は増勢されませんでした。

 30FFMとして3900t型護衛艦がコンパクト護衛艦として建造され、コンパクト艦により人員節減、と説明されていますが置き換えるのは2000t型あぶくま型と2900t型はつゆき型であり、30FFMは満載排水量ではミサイル護衛艦たちかぜ型よりも寧ろ大きく、自動化を進展させ省力化に成功したと説明されますが、大型化も補給処等の負担は別途変りません。

 現時点で海上自衛官定員を潜水艦増勢分と護衛艦大型化分で700名程度増員しなければ、中長期的には補給処や陸上施設維持を自衛官以外の傭員、旧軍時代の軍属や米海軍民間乗組員制度でも発足させないかぎり、遠からず影響が表面化します。その上でF-35Bを導入するとなれば、F-35Bは整備基盤が自動化されているとはいえ、人員面で厳しいでしょう。

 SH-60K等のヘリコプターよりもF-35Bは確実に整備負担が大きくなります、搭載燃料や搭載弾薬の管理だけでも艦上では人員が必要です。いずも型2隻、ひゅうが型2隻、前者に各7機と後者に各5機、センサーノードとして運用するならばこの規模でも稼動機と即応機をローテーションできましょうが、合計24機仮に取得するとして人員増員が不可欠だ。

 喫緊の課題か、と問われますと、海上自衛隊は現在、NSSM新型対艦ミサイルを国産開発中で30FFMからの搭載が見込まれています。NSSMの射程は未公表ですが、現状のSSM-1やハープーンを抜本的に延伸させているとは考えにくい。その為、センサーノード機としてSH-60Kが完全に能力限界を迎えるまでには時間的余裕があり、次々期中期防でもよい。

 F-35B戦闘機以外にもセンサーノード機として運用する選択肢は決定した訳ではないといい、次々期中期防まで待てば開発される可能性もあります。例えば将来的にMQ-25無人機の短距離離着陸型のような機体が開発されましたらば、F-35Bを自衛隊が導入せずともステルス無人機により、必要なセンサーノード能力を獲得する事が出来るかもしれません。

 MQ-25無人機はアメリカ海軍がニミッツ級航空母艦から運用する無人空中給油機で、無人ステルス攻撃機X-47Bの技術的延長として開発されました。離陸速度等は未公表ですが、選択肢として30ノットで航行する護衛艦いずも型からも目一杯加速したらば運用可能という可能性もあります。もっとも、現時点でMQ-25の輸出可能性も搭載可能性もありません。

 護衛艦へF-35Bの搭載を明示せず、航空自衛隊が有事の際の局地防空用にF-35Bを導入し南西諸島の地方空港等に臨時分散運用を行う可能性もあります、これならばF-35A戦闘機導入は開始されていますので、整備補給や要員教育をその延長線上として実施することも可能です。この場合海上自衛隊は着艦受入負担だけが増えるだけで得るものはありません。

 しかし、政府が求めるF-35B戦闘機の能力が艦隊戦闘におけるセンサーノード機ではなく、垂直離着陸が可能であるが故の飛行場施設のミサイル攻撃などによる機能不随時への補完的運用としてのF-35Bの能力を重視しているのならば、こうした取得方式も考えられるでしょう。この場合、前述の通り海上自衛隊としてはまだF-35Bは喫緊の装備ではない点が。

 NSSMミサイルを当面運用するため、まだ海上自衛隊には時間がある。例えばS-70系統のヘリコプターを海上自衛隊がSH-60Kとして導入しつつ航空自衛隊が救難ヘリコプターUH-60Jとして、KV-107大型ヘリコプターを航空自衛隊が救難ヘリコプターとして導入し海上自衛隊が掃海ヘリコプターとして運用したように海空が同種の機体を用途に分けて取得する事も考えられます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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