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【防衛情報】ポーランドM-1A2SEP-V3戦車250両契約とインドネシア国産ハリマウ中戦車実弾射撃成功

2022-05-17 20:20:58 | 先端軍事テクノロジー
■世界の防衛-最新論点
 自衛隊の戦車が今後どのようになるかについての参考までに、今回は戦車関連の最新情報を新型弾薬や国際協力を受けての国産戦車開発などまとめてみました。

 ポーランドは四月に入りM-1A2SEP-V3戦車250両と関連装備の取得に関する47億5000万ドルの契約に署名しました、これは当初計画を前倒しし正式契約に至ったものでポーランド政府が隣国ウクライナへのロシア軍侵攻に重大な危機感を実感し前倒ししたもの。これにより、ポーランドは欧州では初めてM-1戦車を採用し配備する事となりました。

 M-1A2SEP-V3戦車は英部ランス戦車の最新シリーズで105mm砲を搭載していた原型のM-1エイブラムスとは形状が同じであるものの性能は完全な別物です、ポーランド軍はM-1A2SEP-V3戦車250両に加えてM-1074重戦車橋17両及びM-88A2戦車回収車26両を導入します、M-88は車体系統ではM-60戦車の系譜にあり、訓練や予備部品等もふくむ。

 ポーランドがM-1A2SEP-V3戦車導入を発表したのは2021年7月のカチンスキ副首相によるタデウシュコチュシュコ第1機甲旅団視察の際です。なお、この契約から少し後、ロシア軍の侵攻を受けているウクライナのゼレンスキー大統領はこの新型戦車導入を受け、NATOへ余剰となるであろうポーランド軍のポーランド製PT-91戦車供与を求めています。
■新型砲弾M-339HE-MP
 APFSDS弾からMP弾の時代へ即ち戦車戦闘の対象が変容しつつあるのでしょうか。

 スペイン陸軍はレオパルド2主力戦車用の新型砲弾M-339HE-MP弾運用を開始しました。これはイスラエルのIMIシステムズ社が開発した戦車砲弾でHE-MPの名の通り多目的対戦車榴弾となっています。NATO標準砲弾としての規格を有するとともに、スペイン陸軍が運用するレオパルド2A6相当のL-55長砲身戦車砲にも適合する新型戦車砲弾です。

 M-339HE-MP弾は中程度の装甲目標と陣地攻撃を念頭とした砲弾で、特に5km程度の射程で運用が可能といい、市街地運用を想定しています。二重鉄筋コンクリートに対し200mmを貫徹した上で内部にて作動するPDDポイント遅延信管、空中炸裂など状況に合せた信管作動を選択可能、イスラエル軍のレバノン侵攻などでの戦訓が反映されています。

 APFSDS弾が対戦車戦闘に際しては重視されますが、近年では第3.5世代戦車同士の対戦車戦闘は中々発生せず、例えばT-72戦車やその改良型であるT-90等と云った脅威に対してはHE-MP弾によっても有効な打撃を与えられるとされており、一方で地域紛争への対応から多目的榴弾全般への需要が高まっている事もあり、新型砲弾開発がすすんでいます。
■アルタイ戦車用斗山製エンジン
 この種の技術は日本で扱いが酷過ぎるように思うのですが囲い込みで防衛産業を保護するのではなく実質は飼い殺しにしているようで心が痛む。

 トルコのアルタイ主力戦車用韓国斗山製エンジンがトルコへ到着しました。アルタイ主力戦車は韓国のK-2戦車をトルコ軍仕様として国際共同開発した主力戦車です。しかし韓国K-2戦車事態が国産エンジン開発に難航しドイツ製エンジンやトランスミッションを採用していました、しかしトルコの場合はドイツ製エンジンを搭載出来ない政治的事情が。

 トルコ政府のクルド人抑圧政策によりドイツ政府はトルコへの防衛装備品供与に制限を加えており、その規制は韓国との共同開発戦車にも例外ではありません。トルコが検討したのはMTU社製Gmbh1500hpエンジンですが、この実現が不可能となると三菱重工製エンジンなどを検討しますが海外輸出を希望するトルコに対し三菱重工も難色を示しました。

 韓国はK-2戦車用エンジンの国産化を断念した訳ではなく、あくまで2007年にK-2戦車試作車が開発された時点の状況であり、2020年代に入り漸く国産化の目処が立ちました。メーカーは韓国の斗山インフラコア社でDV27Kエンジンです。また韓国S&Tダイナミクスが開発したEST15K変速機もレンク社製変速機に代えて納入、開発目処が立ちました。
■ハリマウ中戦車初実弾射撃
 ハリマオとはマレー語でトラの事であるという始まりのドラマ”快傑ハリマオ”舞台は何故かインドネシアでしたね。

 インドネシア初の国産戦車ハリマウ中戦車は初の実弾射撃試験を成功させました。これは2022年2月24日から翌25日にかけて実施された評価試験の一環として実弾射撃が実施されたもので、西バンドン県のインドネシア軍歩兵教育センターにて実施されました。主砲はベルギーのコッカリル社製105mm砲塔に搭載されるCV105P高圧戦車砲です。

 ハリマウ中戦車は戦闘重量35tと中戦車とは言ってもT-55戦車や61式戦車並の重量を有しており、インドネシアのピンダットが開発を担当、トルコのFNSSが技術協力を行い国際共同開発を行い、基本重量は32tですが増加装甲を装着することで35tとなりNATO防弾規格STANAG4569換算ではレベル5の500m先からの25mm機関砲弾に耐えるという。

 今回の実弾射撃試験は1250m先の4m四方も標的に対してTPCSDS-T弾を用い実施され良好な成果を上げたという。砲弾としてはM-1061-HE対戦車榴弾にM-393A3粘着榴弾などに対応し、砲塔は自動装填装置を有しています。車体部分の設計はトルコ製装甲戦闘車の派生型で機動砲とも言い得るものですが、インドネシア戦車産業には偉大な一歩です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ウクライナ軍ハルキウ(ハリコフ)州全域奪還-ロシア軍三分の一喪失,フィンランドスウェーデンNATO接近の緊張

2022-05-17 07:02:07 | 防衛・安全保障
■臨時情報-ウクライナ情勢
 ウクライナ東部ではウクライナ軍が劇的な反撃を成功させている模様です。しかしロシア軍ウクライナ侵攻を受け衝撃を受けた北欧諸国のNATO加盟への動きが新しい波紋を広げている。

 スウェーデンとフィンランドのNATO加盟交渉開始をロシアのリャブコフ外務次官が強くけん制しました、これは16日に、両国のNATO加盟申請をロシアが看過するという幻想を抱くべきではない、と発言したもので、その具体例として、両国の安全保障が強化される事は無い、という軍事的恫喝を含む発言です。まだ具体的な軍事行動はありません。

 フィンランドが事実上の加盟申請を行った事に対して、スウェーデン国内では仮にスウェーデンだけが中立政策を維持しNATO加盟申請を見送った場合には北欧では唯一NATOに加盟しない軍事的空白が生じるとして、NATO加盟を支持する声はあるようです。ただ、フィンランド国内ではNATOの共通作戦運用への危惧を示すなど一枚岩でもないようです。

 CNN報道によればイギリス国防省の分析として、“ロシア軍はウクライナ侵攻時の地上戦力の内、三分の一を失った”可能性があるとのこと。ロシア軍は開戦当初に、首都キエフと東部第二都市ハリコフにロシア系住民の多いドンバス地方と南部要港オデッサを、ほぼ同一兵力で分散して狙う稚拙な戦略で大敗し、ドンバス地方へ再攻撃を行っていました。

 BTG大隊戦術群、ロシア軍は歩兵2個中隊からなる大隊を中心にその支援へ戦車中隊と3個砲兵中隊を加えた作戦単位を基幹として任務に当りますが、今回ロシア軍はウクライナ侵攻へ100個BTGを投入したもよう、これが既に30個以上のBTGが作戦能力を喪失しているとのこと。これも各々均一に歩兵や補給部隊を失い機能不随に陥っているかたち。

 三分の一の喪失は、通常軍事行動では攻撃と補助攻撃に予備隊と三体系を以て攻撃を行う為、その損耗率となった場合は二体系しか攻撃衝力を維持できなくなるために再編成しなければならないとされる数字です。この為、イギリス国防省は“今後30日間でロシア軍が大きな攻勢に出られる可能性が低くなった”と分析、ウクライナ軍防衛は成功しています。

 ウクライナ国防省はハリコフ市で知られるハルキウ州全体で反撃に成功し、ウクライナ軍第127旅団がロシア軍をロシアウクライナ国境まで押し戻したとのことです。これは15日夜に発表されたもので、ウクライナ国防省の公開画像にはロシアウクライナ国境を示す境界線の前に立つウクライナ軍部隊が大統領府へ反撃成功を報告する様子が含まれている。

 ハリコフ正面からロシア軍が後退していましたが、拘束部隊として当初はロシア軍が後退の際に遅滞行動を執りウクライナ軍のドンバス方面転進を阻止する目的があるようにも考えられましたが実際には潰走していたもので、国境まで押し戻すには驚くほどに短期間で実現した事となります。今後ウクライナ軍はドンバスへ兵力を集中が可能となるでしょう。

 架橋装備の不足、ロシア軍の行動が大きく遅れている背景には余りにBTG大隊戦術群へ戦力を標準化しすぎ、架橋装備のような建設工兵装備を充分に戦術へ内部化できなかった事が挙げられるのかもしれません。これはロシア軍がウクライナ東部ルガンスク州ビロホリウカ近郊において実施した渡河作戦が大失敗し、70両の戦車や装甲車両を喪失した例が。

 ルガンスク州ビロホリウカ近郊の渡河作戦はロシア軍の渡河点をウクライナ軍が事前に予測し、一定規模の部隊が渡河完了した頃合いに砲兵火力を集中し圧倒殲滅したもので、この殲滅戦により架橋装備ほかBTGほぼ一個丸々消滅した事となります。BTGを主体とした訓練では渡河より渡渉に留まり、大河を渡る運用体系が省略された可能性があるのです。

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