■戦訓に学ぶ-日本の防衛
自衛隊は39口径のFH-70榴弾砲後継に52口径の19式装輪自走榴弾砲を配備してゆく方針ですが、この潮流への一石が投じられたもよう。

ロシア軍砲兵部隊は何故M-777榴弾砲に苦戦するのか。ウクライナ戦争では侵攻したロシア軍は圧倒的な砲兵火力を発揮する筈が、ウクライナ軍砲兵隊に苦戦を強いられています。稼働状態の火砲でロシア軍の方が有力であるはずなのですが、ウクライナ軍が徐々に建て直し、特にアメリカ製M-777榴弾砲やフランス製カエサル装輪自走砲が供与されると。

カエサル装輪自走榴弾砲は、非常に優れた装備です、これにロシア軍が圧倒されるならば理解できる、こういうのも52口径砲という長砲身砲は物理的に牽引する事は不可能と判断したGIAT社が、それならばトラックで曳くのではなく荷台に載せてしまえ、という発想で、兎に角52口径の長砲身なので射程が50km近くに上るのですね。しかし、M-777は。

M-777榴弾砲はイギリスのロイヤルオーディナンス社が1990年代に開発した、105mm砲の重さで155mm砲をという超軽量砲でチタンとアルミを多用し重量は4.2tしか無く、自衛隊も採用したFH-70榴弾砲の9.6tと比較すると驚きの性能です。ただ、M-777は39口径砲で射程延伸弾を用いて射程が30km、通常榴弾の射程は24kmと平均的なのですよね。

M-777,この最大の長所は軽量である点なのですが、軽量という水準はこの重量ですとUH-60多用途ヘリコプターにより空輸できる点にあります。この為、アメリカ陸軍と海兵隊が注目しM-198榴弾砲の後継として採用したほどです。逆に開発したイギリスはじめ欧州では155mm砲は自走砲へ転換してゆき、この種の火砲の任務は120mm迫撃砲が担う。

ロシア軍火砲はソ連時代の2A65榴弾砲が射程25kmで射程延伸弾では29km、これは47口径152mm榴弾砲です。そしてロシア軍自走砲の2S19ムスタ自走榴弾砲はこの2A65を48口径に長砲身化したものですので、射程延伸弾では射程が36kmと延伸しています。ただ、これにはもう一つ近代化の遅れというものも差し引く必要があるのかもしれません。

2S3アカツィヤ自走砲、数の上での主力はソ連時代の1971年に制式化された2S3アカツィヤ自走砲で、これは34口径152mm砲を装備しています、陸上自衛隊の75式自走榴弾砲時代のもので、射程は17kmと射程延伸弾を用いた場合で24kmです。当時としては極めて高性能だったのですが、これに対抗したものがFH-70榴弾砲やM-109の改良型でした。

しかし、射程は極めて重要な要素ですが射程というものは対砲兵戦装備によりかなり補えるのも事実です、例えば1991年の湾岸戦争では米軍砲兵部隊は火砲射程で完全にイラク軍の後塵を拝していましたが、対砲兵戦装備、相手の座標を標定する技術が圧倒的に進んでいた為、イラク軍はその最大射程を活かす事が出来ず、各個撃破された過去があります。

対砲兵戦は相手の火砲を数十km先の誤差数十mの誤差で標定しなければなりません、これには地中マイクロフォンと対砲レーダ装置を用いて砲弾を探知した上で逆算し砲弾の弾道から火砲の位置を標定する方法と、通信部隊が電波発信源を標定する方法、ヘリコプターや無人機で直接発見する方法があり、この情報を即時情報処理することが勝敗に繋がる。

75式自走榴弾砲が自衛隊で開発された時代は此処が徹底されており、1効力射3発30秒と陣地進入から射撃と陣地変換まで3分といい、撃ったら移動し敵の反撃を避けるという運用が徹底されています。2010年代の派米訓練では第7特科連隊の99式自走榴弾砲が陣地変換を200回以上繰り返し米軍に唖然とされるも最後まで生き残った事例があるほどです。

特科情報装置3型などはその為に開発されたような装備で砲撃受け1分で標定し1分後に効力射を加え1分後に陣地変換するのですが、ウクライナ軍は今回の戦争にGS-Artaという、無人機とGPS座標を電子マップ上に表示し隷下砲兵部隊とを結び、目標発見から射撃まで1分間という運用を展開しています。この水準にロシア軍は対抗出来ていません。

BTG大隊戦術群、ロシア軍の運用面でもう一つ不確定要素であるのは、歩兵大隊1個に3個砲兵中隊を点けて作戦単位とするロシア軍の運用が、果たして砲兵の火力を充分に生かせる体制なのか、という疑問符にもつなげる事が出来るかもしれません。BTGの編成図を俯瞰すると歩兵中隊2個からなる大隊に3個砲兵中隊と戦車中隊が支援している編成だ。

恐るべき砲兵の密度だ、とは考えたのですが、3個砲兵中隊が遠距離目標を砲撃している中で歩兵中隊が2個では歩兵の密度が薄くなり簡単にウクライナ軍の戦術機動に翻弄され側面を突かれている構図がありますが、もう一つ、BTGは伝統的な自動車化狙撃連隊を大隊単位に削減した後に構想された編成であり、大隊幕僚の人数が少なすぎる難点があった。

砲兵の苦戦はこの点に加えて、前進観測班や対砲兵装備などがBTGの編成と任務煮勝ちしていないのではないかと云う事です、対砲レーダ装置は情報中隊が必要で諸兵科連合の大隊ごとに配備できるようなものではありません、そして歩兵中隊が2個では随伴できる前進観測班も規模は限られ、結果、火砲の性能を最大限活かせない側と活かす側の戦いに。

39口径榴弾砲というは過去の装備と錯覚していましたが、ウクライナでのM-777の運用を見ますと、対砲兵戦データリンクと標定が適格ならば、ここまで充分能力を発揮できるという点に改めて驚かさせれたかたちです。自衛隊は39口径榴弾砲を全廃し52口径砲である19式装輪自走榴弾砲に置換える構想ですが、39口径砲も中々、と考えてしまうのですね。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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自衛隊は39口径のFH-70榴弾砲後継に52口径の19式装輪自走榴弾砲を配備してゆく方針ですが、この潮流への一石が投じられたもよう。

ロシア軍砲兵部隊は何故M-777榴弾砲に苦戦するのか。ウクライナ戦争では侵攻したロシア軍は圧倒的な砲兵火力を発揮する筈が、ウクライナ軍砲兵隊に苦戦を強いられています。稼働状態の火砲でロシア軍の方が有力であるはずなのですが、ウクライナ軍が徐々に建て直し、特にアメリカ製M-777榴弾砲やフランス製カエサル装輪自走砲が供与されると。

カエサル装輪自走榴弾砲は、非常に優れた装備です、これにロシア軍が圧倒されるならば理解できる、こういうのも52口径砲という長砲身砲は物理的に牽引する事は不可能と判断したGIAT社が、それならばトラックで曳くのではなく荷台に載せてしまえ、という発想で、兎に角52口径の長砲身なので射程が50km近くに上るのですね。しかし、M-777は。

M-777榴弾砲はイギリスのロイヤルオーディナンス社が1990年代に開発した、105mm砲の重さで155mm砲をという超軽量砲でチタンとアルミを多用し重量は4.2tしか無く、自衛隊も採用したFH-70榴弾砲の9.6tと比較すると驚きの性能です。ただ、M-777は39口径砲で射程延伸弾を用いて射程が30km、通常榴弾の射程は24kmと平均的なのですよね。

M-777,この最大の長所は軽量である点なのですが、軽量という水準はこの重量ですとUH-60多用途ヘリコプターにより空輸できる点にあります。この為、アメリカ陸軍と海兵隊が注目しM-198榴弾砲の後継として採用したほどです。逆に開発したイギリスはじめ欧州では155mm砲は自走砲へ転換してゆき、この種の火砲の任務は120mm迫撃砲が担う。

ロシア軍火砲はソ連時代の2A65榴弾砲が射程25kmで射程延伸弾では29km、これは47口径152mm榴弾砲です。そしてロシア軍自走砲の2S19ムスタ自走榴弾砲はこの2A65を48口径に長砲身化したものですので、射程延伸弾では射程が36kmと延伸しています。ただ、これにはもう一つ近代化の遅れというものも差し引く必要があるのかもしれません。

2S3アカツィヤ自走砲、数の上での主力はソ連時代の1971年に制式化された2S3アカツィヤ自走砲で、これは34口径152mm砲を装備しています、陸上自衛隊の75式自走榴弾砲時代のもので、射程は17kmと射程延伸弾を用いた場合で24kmです。当時としては極めて高性能だったのですが、これに対抗したものがFH-70榴弾砲やM-109の改良型でした。

しかし、射程は極めて重要な要素ですが射程というものは対砲兵戦装備によりかなり補えるのも事実です、例えば1991年の湾岸戦争では米軍砲兵部隊は火砲射程で完全にイラク軍の後塵を拝していましたが、対砲兵戦装備、相手の座標を標定する技術が圧倒的に進んでいた為、イラク軍はその最大射程を活かす事が出来ず、各個撃破された過去があります。

対砲兵戦は相手の火砲を数十km先の誤差数十mの誤差で標定しなければなりません、これには地中マイクロフォンと対砲レーダ装置を用いて砲弾を探知した上で逆算し砲弾の弾道から火砲の位置を標定する方法と、通信部隊が電波発信源を標定する方法、ヘリコプターや無人機で直接発見する方法があり、この情報を即時情報処理することが勝敗に繋がる。

75式自走榴弾砲が自衛隊で開発された時代は此処が徹底されており、1効力射3発30秒と陣地進入から射撃と陣地変換まで3分といい、撃ったら移動し敵の反撃を避けるという運用が徹底されています。2010年代の派米訓練では第7特科連隊の99式自走榴弾砲が陣地変換を200回以上繰り返し米軍に唖然とされるも最後まで生き残った事例があるほどです。

特科情報装置3型などはその為に開発されたような装備で砲撃受け1分で標定し1分後に効力射を加え1分後に陣地変換するのですが、ウクライナ軍は今回の戦争にGS-Artaという、無人機とGPS座標を電子マップ上に表示し隷下砲兵部隊とを結び、目標発見から射撃まで1分間という運用を展開しています。この水準にロシア軍は対抗出来ていません。

BTG大隊戦術群、ロシア軍の運用面でもう一つ不確定要素であるのは、歩兵大隊1個に3個砲兵中隊を点けて作戦単位とするロシア軍の運用が、果たして砲兵の火力を充分に生かせる体制なのか、という疑問符にもつなげる事が出来るかもしれません。BTGの編成図を俯瞰すると歩兵中隊2個からなる大隊に3個砲兵中隊と戦車中隊が支援している編成だ。

恐るべき砲兵の密度だ、とは考えたのですが、3個砲兵中隊が遠距離目標を砲撃している中で歩兵中隊が2個では歩兵の密度が薄くなり簡単にウクライナ軍の戦術機動に翻弄され側面を突かれている構図がありますが、もう一つ、BTGは伝統的な自動車化狙撃連隊を大隊単位に削減した後に構想された編成であり、大隊幕僚の人数が少なすぎる難点があった。

砲兵の苦戦はこの点に加えて、前進観測班や対砲兵装備などがBTGの編成と任務煮勝ちしていないのではないかと云う事です、対砲レーダ装置は情報中隊が必要で諸兵科連合の大隊ごとに配備できるようなものではありません、そして歩兵中隊が2個では随伴できる前進観測班も規模は限られ、結果、火砲の性能を最大限活かせない側と活かす側の戦いに。

39口径榴弾砲というは過去の装備と錯覚していましたが、ウクライナでのM-777の運用を見ますと、対砲兵戦データリンクと標定が適格ならば、ここまで充分能力を発揮できるという点に改めて驚かさせれたかたちです。自衛隊は39口径榴弾砲を全廃し52口径砲である19式装輪自走榴弾砲に置換える構想ですが、39口径砲も中々、と考えてしまうのですね。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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