■世界標準自走砲目指す勢い
99式自走榴弾砲の写真と共に韓国のK-9自走榴弾砲の話題です。
韓国のK-9自走砲が世界中で売れていますが、日本の99式自走榴弾砲と比較しますと幾つか気づかされる点があります。まず、K-9自走砲は2010年の延坪島砲撃事件に際し、APU補助動力装置の不備などで反撃に時間を要し、また砲身冷却装置などの容量不足による持続射撃能力の問題、更に標定装置との連接不備、民生用GPS装置の欠陥がありました。
K-9自走榴弾砲については、しかしあの事件が12年前のものであり、輸出される背景にはかなり改良が加えられているという実状があります。GPS装置の欠陥は安価な民生用GPS装置を用いたために妨害に脆弱性があり、アルミホイルをアンテナに巻いて応急対処していましたが、これらは軍用GPS装置に、喩え費用が高くとも、付け替え対処しています。
実戦という先例では後手があったことは否めないのですが、反撃に参加したのは砲兵一個中隊、対して北朝鮮軍は大隊規模以上の砲兵火力で奇襲をかけた構図、韓国軍の反撃でこれらを沈黙させたことは、一定の評価ができるものですし、なにより、実戦により問題が生じた事で改良の機会を得まして、その後の豪州などでの評価試験では良好な評価がある。
自動装填装置は搭載していません、砲弾が自動で装薬を手動で装填するという半自動装填方式を採用しています、砲弾の自動は今の時代、むかしのように砲弾を一発一発こう桿で砲身に押し込む方式の砲などは1970年代以降製造されていませんので、やや手堅い、言い方によっては古い、技術を採用しているのですがその分取得費用は他の自走砲に比べ安い。
しかし何より、K-9自走榴弾砲は1000hpのディーゼルエンジンを搭載している点が重要です、アメリカ製で世界標準自走砲となりましたM-109などは改良型のM-109A6でもエンジン出力は405hp、自衛隊の99式自走榴弾砲が600hp、ドイツのPzH-2000自走榴弾砲で漸く1000hpです。機動力について、自走砲の任務は機甲部隊への火力支援となるのです。
52口径155mm榴弾砲となりますと射程は通常砲弾で40km、誘導砲弾では60kmと京都から神戸まで届く水準となります、すると誤解しやすくなるのですが、戦車の機動力も年々強化されているため、第三世代戦車は30km程度の距離を数十分で躍進してしまいます、それは同時に自走火砲も戦車とともに躍進しなければ、戦車が進み射程外に出てしまう。
99式自走榴弾砲については、マヌーバの概念と運用を想定した北海道の戦場という概念が、600hpで充分という認識を与えたのかもしれません、これは例えば名寄駐屯地の特科大隊が音威子府に前進するだけで、稚内周辺に上陸した敵部隊の揚陸作業を特科火力で制圧できる射程ですので、何度も躍進する必要がないのです、その要求からは機動力は充分だ。
K-9自走榴弾砲は、有事の際に必要ならば平壌でも中朝国境でも、民主国家ですのでシビリアンコントロールにもとづき命令されるならば前進するための能力を織り込んでいるのでしょう、1000hpあればK-1A1戦車はもちろん、新型のK-2戦車についても充分随伴できます。そしてこの1000hpという機動力はもう一つ、各国に新しい可能性を示しました。
インド軍はK-9自走砲がヒマラヤで運用可能であったことに驚き、導入の増強を発表しています。ポーランドのボルスク装甲戦闘車、老朽化しているソ連製BMP-1装甲戦闘車の後継として開発された25tの装甲戦闘車なのですが、30mm機関砲とスパイク対戦車ミサイルを搭載しています、この車両の設計はK-9自走砲の車体を転用する構想がありました。
K-9自走榴弾砲は、なにしろ自走榴弾砲の車体配置は車体前部に機関部を置き後部を戦闘室とし、巨大な榴弾砲を備えた砲塔を搭載します、つまり構造の配置が車体部分に限るならば装甲戦闘車に応用が利く、という特性があるのです。実際、自衛隊の99式自走榴弾砲と89式装甲戦闘車などは部品や機関部と変速機などの互換性があるくらいですから、ね。
軽戦車型、インド軍はK-9自走榴弾砲の増強とともにK-9の車体システムを応用した軽戦車型の開発を韓国へ打診しています、これは戦車として考えるならば1000hpのエンジン出力は第三世代戦車と比較するならばやや力不足ですが、中印国境の中国軍15式軽戦車に対抗する手段がないインド軍にとってはヒマラヤで機動力を実証したK-9の車体は心強い。
PzH-2000榴弾砲でも、ある程度派生型を開発できる余地はあります、しかし、車体共通化を考えるならば、今の時代ではボクサー装輪装甲車の155mm砲搭載型がユーロサトリ2022に出展されていましたし、派生型の開発という点では、高性能であるPzH-2000であっても、使いやすさと値段の安さで総合的に見てK-9自走榴弾砲の後塵を拝しています。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
99式自走榴弾砲の写真と共に韓国のK-9自走榴弾砲の話題です。
韓国のK-9自走砲が世界中で売れていますが、日本の99式自走榴弾砲と比較しますと幾つか気づかされる点があります。まず、K-9自走砲は2010年の延坪島砲撃事件に際し、APU補助動力装置の不備などで反撃に時間を要し、また砲身冷却装置などの容量不足による持続射撃能力の問題、更に標定装置との連接不備、民生用GPS装置の欠陥がありました。
K-9自走榴弾砲については、しかしあの事件が12年前のものであり、輸出される背景にはかなり改良が加えられているという実状があります。GPS装置の欠陥は安価な民生用GPS装置を用いたために妨害に脆弱性があり、アルミホイルをアンテナに巻いて応急対処していましたが、これらは軍用GPS装置に、喩え費用が高くとも、付け替え対処しています。
実戦という先例では後手があったことは否めないのですが、反撃に参加したのは砲兵一個中隊、対して北朝鮮軍は大隊規模以上の砲兵火力で奇襲をかけた構図、韓国軍の反撃でこれらを沈黙させたことは、一定の評価ができるものですし、なにより、実戦により問題が生じた事で改良の機会を得まして、その後の豪州などでの評価試験では良好な評価がある。
自動装填装置は搭載していません、砲弾が自動で装薬を手動で装填するという半自動装填方式を採用しています、砲弾の自動は今の時代、むかしのように砲弾を一発一発こう桿で砲身に押し込む方式の砲などは1970年代以降製造されていませんので、やや手堅い、言い方によっては古い、技術を採用しているのですがその分取得費用は他の自走砲に比べ安い。
しかし何より、K-9自走榴弾砲は1000hpのディーゼルエンジンを搭載している点が重要です、アメリカ製で世界標準自走砲となりましたM-109などは改良型のM-109A6でもエンジン出力は405hp、自衛隊の99式自走榴弾砲が600hp、ドイツのPzH-2000自走榴弾砲で漸く1000hpです。機動力について、自走砲の任務は機甲部隊への火力支援となるのです。
52口径155mm榴弾砲となりますと射程は通常砲弾で40km、誘導砲弾では60kmと京都から神戸まで届く水準となります、すると誤解しやすくなるのですが、戦車の機動力も年々強化されているため、第三世代戦車は30km程度の距離を数十分で躍進してしまいます、それは同時に自走火砲も戦車とともに躍進しなければ、戦車が進み射程外に出てしまう。
99式自走榴弾砲については、マヌーバの概念と運用を想定した北海道の戦場という概念が、600hpで充分という認識を与えたのかもしれません、これは例えば名寄駐屯地の特科大隊が音威子府に前進するだけで、稚内周辺に上陸した敵部隊の揚陸作業を特科火力で制圧できる射程ですので、何度も躍進する必要がないのです、その要求からは機動力は充分だ。
K-9自走榴弾砲は、有事の際に必要ならば平壌でも中朝国境でも、民主国家ですのでシビリアンコントロールにもとづき命令されるならば前進するための能力を織り込んでいるのでしょう、1000hpあればK-1A1戦車はもちろん、新型のK-2戦車についても充分随伴できます。そしてこの1000hpという機動力はもう一つ、各国に新しい可能性を示しました。
インド軍はK-9自走砲がヒマラヤで運用可能であったことに驚き、導入の増強を発表しています。ポーランドのボルスク装甲戦闘車、老朽化しているソ連製BMP-1装甲戦闘車の後継として開発された25tの装甲戦闘車なのですが、30mm機関砲とスパイク対戦車ミサイルを搭載しています、この車両の設計はK-9自走砲の車体を転用する構想がありました。
K-9自走榴弾砲は、なにしろ自走榴弾砲の車体配置は車体前部に機関部を置き後部を戦闘室とし、巨大な榴弾砲を備えた砲塔を搭載します、つまり構造の配置が車体部分に限るならば装甲戦闘車に応用が利く、という特性があるのです。実際、自衛隊の99式自走榴弾砲と89式装甲戦闘車などは部品や機関部と変速機などの互換性があるくらいですから、ね。
軽戦車型、インド軍はK-9自走榴弾砲の増強とともにK-9の車体システムを応用した軽戦車型の開発を韓国へ打診しています、これは戦車として考えるならば1000hpのエンジン出力は第三世代戦車と比較するならばやや力不足ですが、中印国境の中国軍15式軽戦車に対抗する手段がないインド軍にとってはヒマラヤで機動力を実証したK-9の車体は心強い。
PzH-2000榴弾砲でも、ある程度派生型を開発できる余地はあります、しかし、車体共通化を考えるならば、今の時代ではボクサー装輪装甲車の155mm砲搭載型がユーロサトリ2022に出展されていましたし、派生型の開発という点では、高性能であるPzH-2000であっても、使いやすさと値段の安さで総合的に見てK-9自走榴弾砲の後塵を拝しています。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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