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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】ボルスク装甲戦闘車とタルパー装甲戦闘車,ロシア新兵器とアメリカレーザー砲

2021-02-22 20:03:36 | インポート
■週報:世界の防衛,最新12論点
 今回は先ず装甲戦闘車の話題から。機関砲の命中精度にさえ目をつぶれば比較的安価に日本でも量産できるとは思うのですが。

 ポーランド軍はボルスク装甲戦闘車試作型の評価試験を本格化させています。ボルスク、Borsuk装甲戦闘車は水陸両用の装甲戦闘車であり、ポーランド軍では冷戦時代から運用するソ連製BMP-1装甲戦闘車の後継として数千輌規模の量産も見込まれています。水上での推進はウォータージェット方式、2023年までに評価試験を終了し量産は2024年を見込む。

 ボルスク装甲戦闘車は2014年より開発開始され、装軌式、戦闘重量25tで全長7.6mと側面追加装甲装着時の全幅は3.4m、乗員3名と兵員6名を輸送し、ポーランド製無人砲塔には30mmブッシュマスター機関砲とイスラエル製スパイク対戦車ミサイル二発の装甲発射装置を搭載、MTU社製720hpのディーゼルエンジンにより80km/hの速度を発揮します。

 BMP-1装甲戦闘車の後継に位置付けられるボルスクは試作車が30mm機関砲を搭載していますが、40mm機関砲搭載型や自走120mm迫撃砲、指揮通信車や装甲救急車に多目的輸送車などの派生型を開発予定で、車体前面は避弾経始よりは凌波性を考慮した船型形状を採用しており、BMP-1よりも水陸両用を多分に意識したBMP-3を彷彿させる印象です。
■トルコのタルパー装甲戦闘車
 ポーランドのボルスクはNATO規格の中々魅力的な装備に見えますが同じNATOはトルコでも装甲戦闘車の開発が進んでいます。

 トルコ陸軍は11月、同国のオトカ社が開発中のタルパー装甲戦闘車について搭載する30mm機関砲の射撃試験を実施したとのこと。タルパー装甲戦闘車は30mm機関砲と連装する7.62mm機銃に加えウムタス対戦車ミサイルを搭載するミズラク30砲塔システムを採用しており、また本車は、指揮通信車や自走迫撃砲など各種派生型も開発される計画です。

 タルパー装甲戦闘車はトルコ陸軍が初めて開発する装甲戦闘車で、この種の車両が開発される背景にはトルコ軍が新しく導入するアルタイ主力戦車について、現在保有するM-113装甲車やその機関砲搭載型のAIFV系統の装甲車では機動力や不整地突破能力の不足から随伴できない点が課題であるためで、タルパーは810hpのエンジンを搭載しています。
■トルコ,欧州製SAM検討
 自由主義圏においてロシア製装備品は食品や日用品を除けば高い授業料でしかないのでしょうか。

 トルコのフルシアカル国防相は10月21日、欧州共同開発のSAMP/T防空システム導入を検討していると、ブルームバーグ通信へのインタビューへ答える形で表明しました。SAMP/T防空システムはアラベル防空レーダーと射程120kmのアスター30ミサイルを運用するシステムで、ロシア製S-400の補完ないし代替として検討しているとのことでした。

 F-35戦闘機導入の頓挫、トルコが最新鋭であるS-400ミサイルシステムの後継を探す背景にはロシア製ミサイルを導入する事でデータリンクにより情報漏洩の懸念から、アメリカがトルコ発注分のF-35戦闘機引渡を拒否している背景があります。アカル国防相はトルコは長射程対空ミサイルを必要としており、候補にはペトリオットも含まれるとしています。
■ボーイングのレーザー砲
 ボーイングはアパッチにレーザー砲を搭載して無人機を狩る構想などがありましたね。

 ボーイング社とGA-EMSゼネラルアトミクス社はHEL高エネルギーレーザーシステムに関する協力体制について10月14日、覚書を交わしたとの事。ボーイング社は航空機搭載用レーザーシステム等について実績があり、GA-EMSゼネラルアトミクス社は地上車両などの開発に既に実績がある、両社が共同する事でより現実的な技術開発を進める構え。

 100kWクラスから250kWクラスのHEL高エネルギーレーザー兵器システムを想定しているとされる。現在の課題はレーザー技術そのものでは一定の水準にあるが、戦術車輛に搭載可能なHELLiイオンバッテリーシステム、識別追尾ソフトウェアなどの実用段階の技術に未完成の部分があり、将来的には航空機や陸上戦闘車両と水上艦艇に搭載が見込まれる。
■インドネシアにNASAM到着
 NASAM,アメリカ軍も評価試験備を経てワシントンDC防空に活用しているAMRAAMの地上発射型です。

 インドネシア軍の新地対空ミサイルとして発注していたNASAM-2地対空ミサイルの第一陣が11月、インドネシアに到着したとのこと。NASAM-2はノルウェーのコングスベルク製ミサイルシステムで弾薬はアメリカが生産する。インドネシア軍はNASAM-2を空軍へ配備、首都圏国際空港やボルネオ島のマレーシア国境等の重要地域に配備する計画です。

 NASAM-2はAMRAAM空対空ミサイル地上発射型で、六連装発射装置3基と予備弾薬に管制装置を以て一個射撃中隊を構成する。NASAM-2の2個中隊所要の整備費用は整備支援や教育支援を含め9500万ドルと推測されており、インドネシア軍では多島海域や主要都市や空軍基地などの防空を強化する為により多くのNASAM-2中隊を必要としている。
■TOS-2広域焼却兵器
 サーモバリック兵器ですので厳密には火炎放射器ではないのですけれども。なかなか使われる側には廻りたくない装備があるものです。

 ロシア軍は2020年10月より自走重火炎放射装置TOS-2-Tosochkaトーチカの評価試験を本格化させたとのこと。TOS-2トーチカ自走重火炎放射装置はカザン多目的戦術トラックに24連装サーモバリック焼夷ロケット発射装置を搭載したもので、現行のTOS-1がT-72戦車車体を利用した不整地踏破能力は高いものの戦略機動性に限界のある構造と対照的だ。

 TOS-2トーチカ自走重火炎放射装置は220mmサーモバリックロケット弾を採用、これは射程6kmであり、広範囲にわたり高熱により熱焼却し化学剤汚染や生物剤汚染を中和すると共に実質的には陣地帯等を一度に制圧する目的で運用される。ロケット自体は無誘導だが1D14レーザー測距装置と弾道コンピュータを搭載し、その照準は自動化されている。
■ロシアトルナードSMLRS
 自衛隊でも検討されたHIMARSですが今回の話題はロシア版HIMARSというべき装備品が開発されていまして機動力を高めたものという。

 ロシアはトルナードSMLRS多連装ロケットシステムの評価試験を本格化させている。これはロシア軍の配備するスメルチ多連装ロケットシステム及びウラガン多連装ロケットシステムの後継として七年以内に大量配備を計画するもので、アメリカ軍のHIMARS高機動ロケットシステムに対抗するべく八輪型トラックに搭載した軽量なロケットシステムだ。

 トルナードSMLRS多連装ロケットシステムは最大射程120kmの300mmロケット弾を六発搭載、発射装置12両で一個大隊を構成するとのこと。グロナス衛星座標装置に連接し自動目標照準装置により迅速かつ精密な長距離打撃能力を有している。トルナードSMLRSはロケット弾本体にもグロナス誘導装置が搭載され、GPS誘導方式に対抗する装備である。

 120kmの射程は師団砲兵用ロケット砲としては長射程に区分されるものだが、これはアメリカ軍が進めるPrSM陸軍プレジションミサイル計画へ対抗する為に必要とされるもので、射程の他にもシステムが小型化した背景には、スメルチ多連装ロケットシステムのような大き過ぎる車輛では野戦機動性でHIMARSに対抗出来ない、という想定もあるようだ。
■英海兵隊81mm迫撃砲
 自衛隊も採用しているL-16迫撃砲は元々イギリスの設計なのですが、本家イギリスでは新しい機動運用が始まった。

 イギリス海兵隊は2020年12月に81mm迫撃砲機動運用用のCanAm6×6全地形機動車輛を公開しました。CanAm6×6全地形機動車輛は所謂クワッドバギーの六輪駆動版で、イギリス海兵隊はL-16/81mm迫撃砲を搭載した250kg牽引車をCanAm6×6全地形機動車輛により牽引させる事で、従来の迫撃砲牽引車輛では展開困難な地域へ進出させるようです。

 CanAm6×6全地形機動車輛の機動展開を実施したのはイギリス海兵隊第3コマンドー旅団第45海兵コマンドー大隊の迫撃砲小隊で、車両そのものには人員2名が乗車し、3両のCanAm6×6全地形機動車輛が、指揮官車、迫撃砲牽引車輛、弾薬輸送車両、と区分し運用しています。迅速かつ小型の機動運用は部隊の生存性等を高める手段と考えられています。
■インド軍に新型JVPCカービン
 インド軍の新型カービン、一時期ノルウェー軍などが個人防護火器で小銃の後継に充てようとして射程の短さから結局HK-416にしていましたが。

 インド軍はJVPC統合防護カービンの評価試験を完了しました。JVPCカービンの外見はイスラエルのUZI短機関銃やチェコのVP-61短機関銃、ドイツのMP-7個人防護火器によく似た形状となっており、特筆されるべきは弾薬は5.56mm×30mmという短小弾薬を採用した点です、これはMP-7の4.7mm弾やP-90の5.7mm弾と同じ小口径弾薬という。

 JVPC統合防護カービンは100m以内での戦闘を想定したもので、実際に類似した弾薬を用いるMP-7やP-90も100m前後での戦闘を意識した個人防護火器として用いられています、これは非常に小型で扱いやすい反面、小銃の射程である300m前後では弾丸威力が低下し使えない難点で如何に運用するか、興味深い所です。試験は12月7日に完了しました。
■パンツファーァスト3後継
 戦車が目の前に来た時に手元に在れば心強い、自衛隊でも運用している個人用対戦車弾薬の後継に関する話題です。

 オランダ軍は2020年内にもパンツアーファスト3個人対戦車弾の後継となる新型対戦車弾薬の開発を本格化するとの事です。パンツアーファスト3はドイツが1992年に採用した弾薬で弾薬先端部分を調整する事で対装甲用にも対陣地用にも化学エネルギーのジェットを調整する事が可能ですが、無誘導であり交戦距離の延伸に際し精度が問題視されている。

 オランダ軍ではパンツアーファスト3の実用的な射程は300m程度に過ぎない事から、アフガニスタンでの実戦において陣地攻撃に用いた結果、射程不足が強く認識される事となり、後継となる新装備は、少なくとも650m以遠の目標に対し確実に命中する新型弾薬を想定しており、この開発へ1億ユーロから2億5000万ユーロを想定しているとのこと。
■レバノンが装甲ハンヴィー
 レバノンはいま外国製の装甲車を調達しなければならない状況なのかなと。日本製の四駆では不十分なのか。

 レバノン軍はM-1152装甲ハンヴィー300両を5550万ドルにて調達すると12月2日に発表しました。M-1152は輸送型であり2名の乗員と共に後部に8名を輸送可能となっており、アメリカのインディアナ州サウスベンドのアメリカンジェネラル社において製造されているもので、先ずレバノン軍は150両を調達し予備部品と共に運用基盤を構築します。

 M-1152は完全装甲型で機銃座を有し4名を輸送するM-1151と異なり、後部はオープントップ構造を採用しており、ここに装甲箱を設置し簡易装甲車とする事も可能です、が、問題は5550万ドルという費用は経済破綻状態にあるレバノンには厳しい支出、COVID-19感染拡大と穀物倉庫大爆発に揺れるレバノン世論がこれをどう見るかが関心事ともいえます。
■トルコ,制裁で戦車がピンチ
 国産技術というものはやはり大事にしてゆかなければならないものなのですね。

 トルコは陸軍のアルタイ主力戦車についてエンジンとトランスミッションの供給を韓国政府へ要請したとのこと。アルタイ主力戦車は韓国K-2主力戦車を元に韓国の技術協力を受け開発した戦車ですが、エンジンとトランスミッションについてはトルコ政府が要求する性能を韓国製では実現できない為、ドイツMTU社製などを輸入し搭載していました。

 アルタイ主力戦車の機関部をドイツ製から韓国製に切り替える背景には、エーゲ海を巡るギリシャとの対立がトルコのリビア内戦介入に拡大したため、これを巡りフランスなどEUとの関係悪化に波及、この影響からEU諸国であるドイツもトルコへの戦車部品輸出を停止する措置を執った為です。アルタイ主力戦車の開発は継続されますが、難航しそうです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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